第5話 5.味塩の入った小瓶
哲也と、カッチとナオケン、委員長の4人は、病院に行く事をよく話し合った結果、一度皆、家に帰り、昼ご飯を食べた後、小学校の向いにある商業高校のバス停で集合する約束をした。
哲也は、家に帰ると、妹に午後から市立病院に行く事を教え、二人で食べる昼ご飯の準備をした。
台所のカウンターには、母が作っていったおにぎりが5個、お皿の上に置かれ、ラップが上からかかっていた。
哲也は、そのお皿をご飯を食べるテーブルの真ん中に置いた。
冷蔵庫を開けると、同じく母が作ったサラダが、妹と哲也の分として別々のお皿に盛られ置いてあったので、ソレもテーブルの上に出した。
麦茶の入った容器をテーブルに置いてから、妹のみつ子を呼んだ。
『みつ子、お昼ご飯食べるぞ!』
『おれ、お昼食べたら、午後から友達と出かける予定があるんだ』
『ウン、分った。』
ソファの上で、マンガを見ていた妹は、返事をすると、手を洗いに洗面所へ向かう。
『私は、15時からミニバス、14時半には学校にいくよ』
水道から、水が出る音と共に、妹の声が聞こえてくる。
哲也は、妹と自分の
麦茶を飲むためのコップを二人分持ってきたところで、小走りで戻って来たみつ子がテーブルの椅子に座る。
『みつ子、コップに麦茶ついで!』と言って、哲也はコップ二つを妹の手の届く所に置いた。
みつ子は、素直に哲也の言いつけ通りに、麦茶の容器からコップに
『それで、何処に行くの?お兄ちゃんは?』
『市立病院、友達3人と・・』
『何しに?行くの市立病院、病気なの?』
『・・・クラスメートの子が、・・ケガをして、入院してるんだ』
『・・・そのお見舞い』
(ヤマンバの事、10年前の失踪事件の事など、一人戻って来た先輩に会いに行くなんて、・・・話せないよな)
哲也は、
『フ~ン、その人、運悪いね、夏休みに入院なんて、・・・最悪だ、私ならイヤだな』
そう言いながら、麦茶を注ぎ終わった哲也のコップを哲也に手渡した。
二人は、テレビをつけ、テレビを見ながらお昼を食べた。
お昼ごはんを食べ、食べた食器を洗って時計を見ると、既に12時半になっていた。
哲也は慌てて、財布を持ち玄関から出ようとする。
玄関で座って靴を履いていると、みつ子が忘れていた事を思い出したかのように、小走りに近づいて来た。
『お兄ちゃん、それで何時、家に帰ってくる予定??』
『母さんが帰る頃には、家に帰れると思うんだけど・・』
『それじゃ、私も、一応、ミニバスに家の鍵をもって行くわね』
『無くさないようにな』
『お兄ちゃんもね!』
『・・・みつ子、もし、お前なら、妖怪と戦う事になったら、何を武器にして戦う?』
『エッ、お兄ちゃん、今から妖怪と戦いに行くの!スゴイ、かっこいいね』
『行くわけないだろ、ちょっと、昔話に出て来る妖怪について調べてるんだ』
『お前なら、どうするかって、ちょっと思っただけだよ』
『吸血鬼なら、十字架とニンニクだけど、妖怪は、分らないわね、だって戦った事無いもん』
『そもそも、妖怪ってなに、幽霊?』
『幽霊は、お経とか唱えるといいのかな、私が見たマンガは、御札とか使ったの見た事あるけど・・』
『後ね、塩かな、お清めの塩って、書いてあったけど』
(・・・・塩か、確か台所に・・)
『みつ子、ありがとな、お前に聞いて良かったよ』
『・・・オレ、忘れ物した』と、哲也は妹に言い、急いで台所に戻り塩を探した。
塩の入った容器は直ぐに見つかったが、病院には持って行けない・・。
やっと見つけたのが、塩の入った青い蓋の小瓶。
(念の為、念の為だよ、妖怪なんて、居るわけない)
哲也は、そう思いながらも、自分のリュックに青い塩の入った小瓶を入れたのであった。
商業高校に向かう道、見上げた空には雲一つなく、太陽だけがギラギラと照らしていた。
(ヤマンバなんか、妖怪なんか、この世に居るわけない。)と哲也は歩きながら、自分に言い聞かせる。
だけど、哲也の心のどこかで、不安があった。
ヤマンバの昔話が生まれた場所、10年前の行方不明者、戻って来た人に会いに行く、まるで自分とは関係無いと思っていたテレビの中の事が、突然自分の世界に繋がってしまった様な驚き、哲也はその驚きが怖かったのである。
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