第7話 7.タックルとナースコール
『・・・も~う、お主らの匂い、覚えたぞ、どこにぃ、逃げても無駄だよ』
老婆の声の男は、そのかすれた声で4人に話しかける様に言った。
サッキまで、無表情だった男の顔は、別人のようニタリと笑っている。
そのあまりの差に、男のオゾマシイ笑みに4人は恐怖心を覚える。
その表情は、自分の獲物をみつけて、笑っていた
『先ずは、てっとりばやく、このガキからにしようかあ』
男はそう言うと、腕を握られ痛がっているカッチの顔を見る。
4人は、目を疑った。
男が口を開けたかと思うと、長い舌のようなモノがカッチの顔の方に向けてニュルリ、ニュルリと伸びていく。
『うわぁ』とカッチが思わず悲鳴を上げる。
その長い舌が、カッチの顔の直前まで伸びた、そして二つに裂けたからだ。
(やばい、このままだとカッチが・・・)
哲也は、カッチの危機を察したが、身体が恐怖心で動かない。
(もう、ダメ・・・・・だ)と哲也が思った時である。
『カッチから手を放せェ!!』
ナオケンの必死の声が部屋中に鳴り響いた。
ナオケンが、咄嗟に男にかかっていた掛布団を持ち上げ、そして男の顔に覆いかぶせようと、タックルする様に飛びかかったのである。
突然布団を顔にかけられた男の舌は、布団の圧力で軌道を変え、床に叩きつけられた。
ナオケンのその決死の行動が、勇気が、いずみと哲也の恐怖からくる金縛りを解いた。
金縛りから解放された二人は、布団で、必死に男の顔を押さえつけるナオケンを助けるべく動いた。
物凄い力で、布団ごとナオケンがベットの横に投げ出される。
いずみは、咄嗟に、男の横にある看護婦を呼ぶ、ナースコールを取り上げ、ボタンを何度も押す。
それに気づいた男は、怒った様にいずみに攻撃しようとしたが、哲也がナオケンと同じように男の顔に飛びつき、そうはさせなかった。
その哲也の行動は、一見無謀な行為だったかもしれない。
横で、哲也の行動を直視していたカッチは、哲也がナオケンの様に投げ出されると思っていた。
しかし、カッチの予想は外れ、哲也に両手で顔に飛びつかれた男は苦しみだしたのである
『ギャ~』と叫び、男は顔を苦しそうに物凄い速さで首を振る。
男が首を振る度に、哲也の身体も右へ左へと振り回されたが、暫くすると男は力尽きたかのように動かなくなった。
『貴方たち、患者さんに、何をしたの!』
『この部屋の有様は何よ』
『エッ、いずみ、どうしてアナタが此処にいるのよ』
『お、おかあさん・・・』
ナースコールで呼ばれ、駆けつけたのは、偶然にもいずみの母であった
いずみの母は、先ずは急いでベットで倒れている男の状況を確認した。
見ると男は、4人が部屋に入ったばかりの、天井をみて独り言を言っている状況に戻っていた。
いずみの母は、男の脈をとり、ケガの有無、身体の状況を確認し無事を確認すると、急いで布団を男にかけベットの状態を元の状態に戻した。
その後、母は、一旦ナースセンターの同僚の看護婦に状況を知らせる為に一度戻り、そして又戻って来た。
『貴方たち、学校で見た事あるわね、確か
『母さんが、この病院を辞めなきゃいけないぐらいの大問題!』
『状況次第では、アナタたちのお父さん、お母さんも呼ばなきゃいけないわよ!』
『それが嫌なら、正直に話しなさい。何があったの?』
いずみの母は、真剣な顔で4人に詰問したのであった。
哲也が4人を代表して、いずみの母に説明をする。
1週間後に迫った小学校の宿泊研修、その行き先が10年前に行方不明者を出した地である事。
怖いモノみたさで、当時の行方不明者の中で、唯一戻ってきた佐々木一馬さんという男の人に経験を聞きに来た事を説明した。
病室につくと、寝ていた佐々木さんが、突然暴れ出し、ナオケンが布団ごと投げ飛ばされ、それを見た自分が慌てて飛びかかった事を正直に話し、そして全部自分から言いだした事であると、3人を庇うように謝った。
しかし、常識では考えられない、男の様子については信じてもらえないと、あえて言わなかった。
『分ったわ、あなた達も、佐々木さんの状態を知らずに来たのね』
『佐々木さんはね、普通の入院患者さんとは違うの。10年前によほど、怖い経験をした為か、心を閉ざしてしまったのよ』
『佐々木さんの身体に異常が無かった事、アナタたちもみたところ、ケガも無いし』
『貴方たちも、怖い思いをしたでしょうから、2度とこんなことはしないでね』
いずみの母は、そう4人に注意し、4人が家に帰る事を許した。
4人はバスにのり帰ったが、病院での経験がショックでバスの中では誰も話ができなかった。
バスから降り、小学校に自転車を取りに行くカッチに、自然に他の3人も付いて行った。
『委員長、ごめんな、お前のお母さんにも、迷惑をかけたし、オレがあんな事考えなければ』
『ううん、テッカのせいじゃないよ。付いて行こうと言ったのは私だもん』
『おいおい、お前ら、何いってんだよ。そんな事より、ヤバい問題があるだろ』
『アレ、何だったと思う、・・おれ正直、妖怪だと思うぜ』
二人の会話を聞いていたカッチが、真剣な声で三人に自分の考えを伝えた。
『いずみのお母さんが来なかったら、俺らアイツに食べられていたかも』
ナオケンも、カッチの意見に同意する様にそんな事を言う。
『オレ、テッカが直ぐに投げ飛ばされると思ったもん、それが、突然苦しみだしたじゃん』
『テッカ、お前、あん時、なんかしたの?』
『・・・あんまり覚えてないのだけど、塩、アジシオの瓶を持って来ていたから、その塩を手にふりかけて、その手で相手の首に飛びついたんだ』
『妹から、清めの塩って、教えてもらったんだ』
『エッ、テッカ、お前、今日、こんな事があるって思っていたのかよ』
ナオケンが驚きの声を上げる。
『・・・オレ、行方不明の事件が本当だったと聞いて、怖くて』
『みんな、聞いてくれ、これから、俺の祖父ちゃんに相談にいかないか?』
『祖父ちゃんなら、今日、俺らが経験した事、信じてくれて、相談に乗ってくれるかもしれない』
『祖父ちゃん、坊主だし、妖怪っていったら、坊主だろ。やっぱり』
カッチの顔は真剣だった。
『私、行きたい。カッチのお祖父さんに、これからどうすれば良いか聞きたいわ』
『心配なの、あの男が言った、私達の匂いを覚えたという事、何処にいっても逃がさない、っていう言葉が』
『だな・・』、いずみの言葉を聞き、ナオケンも、同意する様に呟いた。哲也が最後に頷き、4人の方針が決まった。
4人は、急いでカッチの家、お寺に向かったのである。
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