第8話 8.勝平寺の清明(かつひらでらのせいめい)

4人が勝平かつひら寺に着いたのは、16時前であった。


カッチは、家に着くと、3人を連れて直ぐにお寺の本堂に向かった。


カッチは、お寺の本堂の一番大きい部屋に3人を連れていく、カッチが襖を開けると其処には大きな仏像が奥に飾られ、その前には1列8枚の座布団、2列置かれていた。


『祖父ちゃん、俺の話を聞いてくれ、今日不思議な経験をしたんだ!』


その部屋で、仏様の前にある蝋燭に火を灯していたお坊さんが、カッチのお祖父さんであった。


『これは、これは、今日は、友達を仰山ぎょうさん連れて来たなぁ』


『克彦の同級生、テッカ君とナオケン君は知ってるが、珍しいお嬢さんもおるのぅ』


カッチのお祖父ちゃんは、お祖父さんはちょっと驚いた様な顔を見せたが、直ぐに表情を笑顔に変え、4人を出迎える。


『私、克彦さんの同級生の松本和泉いずみと申します』


お祖父さんの言葉を聞いていた委員長が、気をつかったのか、お祖父さんに対して直ぐに自己紹介した。


『おおう、何と礼儀正しい子じゃ、感心、感心』


カッチのお祖父さんは、愛嬌のある顔でニコニコしながら委員長を褒める。


『しかし、カツヒコを、カツヒコさんなんて、呼ばなくていいぞい、カツヒコ、いやテッカ君とナオケン君たちが呼んでいるカッチが丁度良いのじゃ』


『ワシは、生まれた時からカツヒコと呼んでるから、カツヒコなんじゃが・・・』


『祖父ちゃん、そんな事より、今日俺たち不思議な事に、・・たぶん妖怪にあっちゃったんだ』


『・・・』


『妖怪、あやかしか、それはどんな』


『カツヒコ、ワシに詳しく説明できるか?妖怪といっても、一杯いる。どんな妖怪かで対応が変わるからな』


ニコニコしていたお祖父さんの顔が、急に真面目な顔に変わったので、4人もビックリした。


『・・。ウン』


カッチは、今年の宿泊研修の行われる場所、其処で起こった10年前の失踪事件、病院であった総ての事を祖父である住職に総て打ち明けた。


打ち明けた後、いずみがその説明に補足をする。


『男の人が、豹変する前、ワナだから男の人に触っちゃダメだって、叫ぶ声がしたんです。私達と同じぐらいの年の子の声でした・・・』


『フム・・・・なんとも、アナタたちは、怖い経験をしたんじゃなぁ』


『その男の子の声というのは、正直分らん』


『妖が、お前らを混乱させるために、出した声かもしれん。それとも、その妖に食べられた子供たちの気持ちが、思念となって、お前たちを助ける為に、声をだしたのかも・・・』


『カッチのお祖父さん、その男の人は、俺たちに向かって、お前らの匂いは覚えたぞ、どこへ逃げても無駄だって、そう言ったんです』


哲也は、自分達が抱えている一番心配な部分を言った。


『匂いかぁ、それは厄介じゃ、じゃが・・貴重な情報でもあるのう』」


『そ奴は、多分、目が見えていないのだと思う』


『後、運が良いとも言える。カツヒコ、お前たちは市立病院から帰ってきて、そのあと直接此処に来たのじゃな?』


『ウン、それがどうしたの』


『もし、お前たちがそのまま、それぞれ自分の家に帰っていたら、その妖怪は、一人づつ、探し、そして宣言通り、食べようとしたじゃろう』


『しかし今日、お前たちが直接此処に来たという事は、そ奴は匂いを辿って此処に来る筈じゃ』


『あくまで、ワシの推測じゃが・・・』


『テッカ君、ナオケン君、いずみちゃんには、これをやろう』


そう言うと、カッチのお祖父さんは3人にひとりづつ1個のお守りと、3枚の護符を渡した。


『そのお守りには、特殊な匂いがつけられている。匂い袋みたいなものじゃ』


『云い伝えでは、妖が嫌がる匂いらしい。妖の鼻には、臭くて近寄りたくないモノらしい・・』


『あと、その護符は、妖怪の侵入を防ぐ力を持っておる、まあ、魔除けの護符じゃ』


『それが貼ってある限り、妖怪は決して君たちの部屋には入って来れない』


『家族の人達に言って、それを家の玄関と裏口、後、自分の部屋の前に貼ってもらいなさい』


『・・・あくまで、予防策であって、完璧では無いが、無いと有るでは全く違うモノじゃ』


『祖父ちゃん、それで、うちは、俺たちはどうするんだ?そのうち、匂いを辿ってこの寺に来るんだろ!』


『そんなの決まっておろうが、ワシがその妖を迎え討つのじゃよ』


カッチのお祖父さんはそう言うと、仏像の前の短くなった蝋燭の一本を取り、新しい蝋燭に替え火を灯した。


『うそだろ、祖父ちゃん、オレ嫌だよ。怖えよ』


『なあに、この野田清明きよあき、歳はとったが、昔は勝平かつひら寺の清明せいめいと呼ばれていたぐらいじゃ、妖怪退治は任せとけ!』とカッチの祖父ちゃんは、自信有りげに言い、自分の坊主頭をスリスリと触ったのである。


『祖父ちゃん、そんな話、初めて聞いたよ』


カッチが、涙声で訴える様に言ったのである。

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