第4章 脱出

第31話 1.深い闇と、紅いメ

気がつけば、6人の乗る車の周囲は暗闇に包まれていた。


『こりゃ、雨雲とかっていう暗さじゃねえな』


加賀谷先生は、そう言うと車のライトをつける。


車のライトに照らされた目の前には、変わらず山道が続いている。


『こんなに暗く、細い道だと、Uターンもできやしないな』


『みんな!、危険覚悟で、少し進むぞ』


加賀谷先生は、そういうとユックリと車を走らせた。


『・・・・』


道にはガードレールも無く、一歩間違えれば、高い木が生い茂る斜面へ真っ逆さまである。


落ちたら最後、車はコントロールできず、ペシャンコになるまで転がり続ける事も有りうるだろう。


運転する加賀谷先生の横に座る、福岡先生もそれがわかるから、運転に集中している加賀谷先生を邪魔しない様に何もしゃべらない。


視界が効かない中で、決められた道幅を運転するという事は、運転手ドライバーにとって物凄い重圧プレッシャーである。


同乗者がおり、それが自分の教え子達と片思いの女性であれば猶更なおさらであった。


暫く、車は低速でそのまま走り続けた。


20分ぐらい走ったあたりで、道が少しずつ広くなってきた。


後部座席から、窓の外を見ている子供達にも、視界の情報や車の速度が少し上がった事でそれが理解できた。


しかし、哲也の気持ちも少しずつ最初に感じた緊張感が薄れていきはじめた時である。


『あぶねぇッ!』


加賀谷先生は、そう言うと、急ブレーキを踏むと突然車を止めた。


車を止めると、直ぐに何かを確認する様に車の外に出ていく。


『なんだ、コレは・・マジか??』


『加賀谷先生、どうしたんですか?』


福岡先生も、加賀谷先生が気になって、少し遅れて外に出て来た。


『・・・・崖、それにこれは、何ですか』


『・・・渡り橋でしょうか・・』


『橋なのは、分かってます。…だけど・・』


『どうしたの先生?』


いずみの声が福岡先生の後方から質問する。


先生達が何かを前に立ち尽くしているのを見て、哲也達4人も慌てて外に出て来てしまっていた。


『アナタたち、外に出てきちゃダメじゃないの・・・。』


『これって、吊り橋ですよね』


橋の下は、正に漆黒の闇である。その上に木と縄で作られた一本の吊り橋がかけられていた。


橋の距離は短い、50mぐらいの長さである。


『仕方ないですね、此処で車を降りるしかなさそうですね、加賀谷先生・・』


『そうですね・・車を放置するのは勿体ないですが・・仕方ありませんね』


『お前ら、此処からは歩きになる。車に一旦戻って、自分のリュックを持って前に進むぞ・・』


『懐中電灯持ってる奴は、何人いる?』


加賀谷先生のその質問に、加賀谷先生含め全員が手を挙げる。


『優秀、優秀だよ、お前らは、ヨッシ、それじゃ、準備開始』


数分で、6人は準備を終え、車の横に整列する。


『トランシーバーは、4つあるから、オレと福岡先生、佐上と犬崎が持つ事にしよう』


『他の二人は、もし逃げる場合は、その4人の誰かに必ずついていく事!』


『バラバラになった時、一人で迷子になってしまったら、探す事もできなくなるからな』


『ヨシ、じゃあ、行くぞ!』


加賀谷先生は、そう言うと、ユックリと吊り橋を渡り始めた。


歩く順番は、加賀谷先生を先頭に、哲也、ナオケン、カッチ、いずみ、そして最後尾は福岡先生となった。


前後からの攻撃を想定してでの順番である。


懐中電灯の電池の節約の為、先頭に立つ加賀谷先生だけが懐中電灯を使う。


橋の途中まで渡ったところで、哲也は自分達の上空に気配を感じた。


『みんな、アレみて!』


哲也が、皆に届くぐらいの低い声で叫ぶ。


それは、赤い物体であった。


加賀谷先生が、咄嗟に懐中電灯の明かりを消す。


『・・・みんな静かに、身体を低姿勢に・・ユックリでいいから、音をたてずこのまま進むぞ』


加賀谷先生が低い声で、哲也達その他のメンバーに伝える。


哲也達は、加賀谷先生の指示の意味は分からなかったが、先生の指示に従った。


加賀谷先生はみんなが橋を渡った事を確認すると、直ぐに道の左右にある脇、森の茂みに隠れさせ、その場で皆を伏せさせた。


哲也は正直、服の汚れや、虫に刺される事が嫌だったが、先生の声の迫力に負け素直に従った。


多分、他の4人もそうだったに違いなかった。


6人は、伏せながらユックリ上空を覗き込むように見た。


そして、その時、初めて加賀谷先生の指示の意味が分かった。


哲也が見た赤い物体は、しっかりと見ると綺麗な赤だった。


赤いではない、紅いのだ。


紅い物体は、上空に留まる事無く動いていた。


哲也は、自分の考えが間違っている事に気がついた。


哲也は、最初それが月ではないかとおもっていたが、それは月ではなく巨大な紅い目であったのだ。


よく見れば、飛行する巨大な紅い目の瞳孔らしき部分が、ギョロギョロと動いている。


まるで、自分の引き出しの中に入った虫たちを探す様な目の動きであった。


やがて、何かをみつけある場所へ向かっていく。


紅い目が向かったその場所は、哲也達が数分前まで乗っていた車であった。


紅い目は、車の上を何度もユックリ旋回する。それは、正に舐める様に見ている感じであった。


やがて、その動きを止め、今度は橋の上をユックリと旋回する。


そして、終には哲也達が隠れているやぶの前の細道をユックリと飛行していった。


紅い目がいなくなった後も、6人は暫く動けなかった。

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