第19話 9.何人目かの犠牲者
哲也とナオケンが部屋を出てから、数秒後、
カーテンが完全に閉まり、部屋は薄暗い。
佐々木一馬という青年の身体に入ったアイツは、背をベッドのボード(頭から上の部分を囲むレール)にもたせかけじっと考えていた。
(・・・この匂い、あのガキたちの匂いだ、一匹、いや2匹)
(ワシが、この部屋に来る直前、ついさっきまで居た)
(・・・・・・・)
(‥‥イヤ、未だ居る・・もう・・)
(2匹の匂いが、どんどん離れていく・・・しかし、未だこの建物の中だ)
(しかし、今なら未だ・・捕まえられる)
(2匹は窓から、追えば・・・直ぐに捕まえられる)
(昼間だが、‥仕・・)
その時、廊下の外から女性の声が聞こえて来た。
『何、この部屋、誰がカーテンを閉めたのよ!!』
『多分、あの男の子二人のイタズラに違いないわ!』
『七尾さん、私がカーテンを開けるから、アナタは佐々木さんの状況を確認して』
青年の身体が動き出そうとしたその時、二人の看護士が部屋に入って来た。
『ハイ、エッ、佐々木さん、意識があるの?』
『児玉班長、佐々木さんが起き上って、頭の上にあるボードに背をもたらせています・・』
『あ、そう、珍しいわね』
児玉と呼ばれた年上の看護士が、もう一人の七尾という看護婦の呼びかけには答えたが、振り返らず窓のカーテンを開けた。
一瞬で、外からの光が病室に入ってくる。
病室が明るくなった状態で、青年の状態を確認しようとしてた看護士は、改めて青年の顔を見る。
青年の目には意思がなく、虚ろであった。その虚ろな目は、意味なくジッと自分の足の方を見ていた。
『班長、佐々木さん、意識はないみたいです。今から、脈拍、体温を確認します』
『分ったわ、お願い』
数分の間、二人は510号室に留まり、青年の身体の状態確認及び、ベッドメーキングをして、再び彼の身体を布団の中に戻した。
『だけど、サッキのあの二人の男の子、どこの子達かしら、
『一度、婦長に報告して、周辺の小学校に注意の電話をして頂いた方がよいかもね』
仕事を終えた看護士達は、そんな会話をしながら病室を後にする。
二人が病室を去り、ナースセンターに着いた頃、青年の身体に入った山姥は再び動き出す。
重力を無視するするように、スッと上半身を起こしたと思うと、カーテンを開けられた窓の方へ素足で歩いていく。
青年の身体が窓から下の風景を見下ろす。
匂いを嗅ぐ様に、鼻をクンクンさせる。
山姥は何かをかぎつけたのか、見ていた逆方向に振り返る。
その視線の先に、市立病院のバス停から出発した一台のバスがあった。
『チッ、逃げられた。・・・まあ、良い、ヒヒッ』
『美味しいモノは、後にするとするか・・・』
山姥は、そう言うと、窓際からベッドの方へ移動したが、ベッドに横にならず、ある場所で止まる。
そして、その場所の天井を見る様に上を見ると、ニタリと笑った。
『お前だったのか、ワシを邪魔していたのは‥あ奴ら4匹を陰ながら助けていたのは・・』
『いや、あ奴らだけではない、思えば、以前にも、何度かあった』
青年の身体が息をフッと吐いた瞬間、見上げていた場所から、一馬の魂が現れる。
その顔は恐怖に怯える顔だった。
『・・・・』と青年の声で山姥が何かを言った。
一馬の魂は、必死に逃げようとする。
しかし、青年の口からニョロニョロと舌が伸び、一馬の魂を捕まえると、カエルがエサを丸呑みする様に、一馬の魂は青年の口の中に吸い込まれて言った。
ムシャムシャと音が出るのではないかというぐらい、青年の口が動く。
食べ終わった後、山姥は落ち着き、そして呟く。
『やはり、魂だけでは美味しくもないし、全然足りん・・』
『・・・まさか、この体の魂が、あのガキどもを助けているとは、思わなんだ』
『だが、そのお蔭で、あのガキどもがもうじき、我が山に来ることが分った・・』
『・・・この体は』
数秒後、佐々木一馬という青年の身体はドサッと音を立てベットの横で倒れ込んだ。
彼の身体は残ったが、山姥に食べられた何人目かの犠牲者になってしまったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます