第20話 10.委員長からの電話

市立病院から、ナオケンと共に必死に逃げた哲也が自分の家に着いたのは18時丁度であった。


家では、何時も通り、スーパーのパートから帰った哲也の母が急いで夕ご飯を作っていた。


『ただいま!』


哲也が居間に入ると、ガス台の上の鍋をかき混ぜている母が居た。


『哲也、遅かったわね!』


『もうちょっと遅かったら、犬崎君の家に電話しようかと思ったわよ』


『ゴメン』


『まあ、いいわ、手を洗ってご飯にしましょう。丁度できたから』


『みつ子、冷蔵庫から福神漬けとソース出して』


『ハイ、・・・あ、お兄ちゃん、汗だく・・・汚いよ』


『うるせぃ!』


『哲也、みつ子の言う通りよ、パッとシャワーだけ浴びてきちゃいなさい』


『すぐだから・・ご飯は、みつ子と私で用意しとくから・・』


『ウ~ン』


『エッ、母さん、今日もカレーなの?』


『違うわ、今日はハヤシカレーよ・・・』


『同じだよ、手抜きだよ。』


『何言ってるの、カレーだって手間かかるんだから』


『文句があるなら、哲也だけは納豆ご飯でも良いのよ、どっちにする?』


『・・・ハヤシカレー』


哲也が諦めた様にそう言うと、哲也の母は、パッシィと両手で拍手する様に一回鳴らす。


『ホラホラ、お風呂行ってらっしゃい』


哲也の母がそう言うと、哲也の直ぐ横に居た妹のみつ子も、母の真似をして『ホラホラ』と言った。


哲也は、軽く一回、妹を小突くと、お風呂場に向かった。


哲也がシャワーを浴び、お風呂から出ると、母が電話に出ていた。


『あ、いずみさん、今ね、哲也がお風呂から出て来たから、代わりますね』


『哲也、クラスメートの松本いずみさんからよ』


哲也の母は、そういうと電話の子機を哲也に渡した。


哲也は、子機を受け取ると、居間から出て行こうとする。


『別に此処で、電話すればいいじゃないの』


後から、母の声がする。


『お兄ちゃん、ヒューヒュー!』と妹のみつ子が何かを勘違いをしている。


2階の自分の部屋に入って、哲也はそれから委員長の電話に出た。


『もしもし、委員長、おれだけど、どうしたの?』


『テッカ君、夕ご飯中にごめんね、ちょっとね、私の母さんが勤める市立病院で』


『問題が発生して、今日、うちの母、夜勤なんだけど、あの、佐々木一馬さんが亡くなったんだって』


『わたしも、サッキ、母から聞いたばかりで、何があったかは知らないんだけど・・』


『とりあえず、二人には直ぐに知らせないといけないと思って・・・』


『ナオケン君には、未だなんだけど・・』


(エッ、一馬さんが亡くなった・・・)


『・・・・・』


『テッカ君、聞こえてる?』


『ウン、聞こえてる。・・・委員長』


『・・・実はね、俺とナオケン、今さっきまで市立病院に居たんだ』


『一馬さんの生霊っていうのかな、幽霊みたいな子供の時の一馬さんと、話をしに市立病院に行ったんだ』


『どうして、私に内緒にするのよ、ふたりだけでどうして・・私も仲間でしょ』


いずみは、珍しく怒っていた。


『ゴメン、委員長は女の子だから、またあの病室に行くんだったら、男の俺たちだけって思ったんだ』


『そういうの、ズルいよ、違う、ズルくはないけど、男の子とか女の子とか関係なく、仲間でしょ』


『ゴメン・・』


『・・もういいよ、二人とも私の為に、そう思ってくれたのは分かったから』


『それで、子供の一馬さんと話はできたの?・・・亡くなる前だったのかな』


『話ができたよ、ただ、話しの途中で、アイツが一馬さんの身体に戻って来てね・・』


『俺たち、一馬さんの幽霊に逃げろって言われて、逃げて来たんだ』


『もしかしたら、俺たちが逃げた後、何かがあったのかもしれない・・』


『委員長、この前、オレ達に生霊って言葉を教えてくれたよね』


『生霊ってさ、その人が生きてる時の魂じゃん、その人が死んだとき、生霊ってどうなるの』


『・・・幽霊になるか、消滅しちゃうんだと思う』


『・・つまり、俺たちが話をした一馬さんは、もしかしたら、もう消滅しちゃったかもしれないって事?』


『分らない、ただ、その可能性もあると思うよ』


『・・・。』


『委員長、明日ね、又学校に行こう。ナオケンには、俺から電話する』


『うん、いいけど、何時』


『9時に』


『早いね』


『後ね、オレ、後でカガヤン、加賀谷先生に電話してみる』


『もう、アイツの事は、俺たち、子供達だけでは無理だと思う・・』


『普通の大人の人には、話しても信じてくれないと思うけど、カガヤンだったら、もしかしたら協力してくれるかもしれないって思うんだ』


『そだね、加賀谷先生なら相談にのってくれるかもしれないね』


『ただ、それは、最悪、加賀谷先生を巻き込む事になっちゃうよ』


いずみの冷静な意見が、哲也の胸にのしかかる。


(そうだ、加賀谷先生でも、あの妖怪には勝てないに決まってる。じゃあ・・・どうすればいいんだ)


冷静に意見を述べたいずみも、同じことを考えているみたいで、二人は、暫く何も言えなくなってしまったのである。

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