第16話 6.半透明の少年

哲也とナオケンが市立病院に着いたのは、その日の16時頃であった。


夏なので、未だ太陽が高く感じないが、冬であれば暗くなり始める時間である。


バスから降りて、病院の入り口から入ると、哲也は少し慌てながらナオケンに話しかけた。


『ナオケンさ、お前、小遣い、月いくら?』


『5年生になって、やっと、月千円。テッカは?』


『オレも、千円、・・正直、この数日のバス代で今月の小遣い。もうないよ』


『おれもだよ、だけどオレ、未だ今年のお年玉残ってるから、今日、財布に少し入れて来た』


『いくら?』


『1,000円!』


『オッ、スゲェ、お金持ち、・・・ナオケンさ、悪いんだけど。。』


『後で200円貸してくれる・・明日絶対返すから』


『エッ、って言うかテッカ、後いくら、あるの?』


『・・・・今、サイフ見たら、50円しかない・・』


『ゲッ、テッカ、もし、オレも金なかったら、どうやって帰るつもりだったんだ?』


ナオケンが、あきれたように哲也を見る。


『・・・・・走って帰る、バスには乗らないつもりだった』


『ぜってぇい~ウソだ。どうやって帰るんだよ。自転車でも、50分ぐらいかかる距離だぞ』


『俺、自転車で一度来た事あるもん』


『・・・だって、ナオケンが急に言ったんだぞ。市立病院行くって』


『・・・卑怯だぞ、・・・・ショウガねぇなあ』


『ショウガは、俺の家の冷蔵庫に・・』


哲也がそう言うと、ナオケンは堪えきれず笑い出す。


『分ったよ、この恩は必ず返せよ、テッカ』


『オッス!・・あっ、200円じゃ足りないや、バス代280円だから、200円もらっても、30円足りない。300円ね』


そんなひと悶着があったが、二人は市立病院に入ると、慣れた足取りで、一馬さんの居る病室510号室に向かったのであった。


病室の扉を開け、中に入る時、二人は、小さい声で、挨拶をして入った。


『一馬さん、オレ達です。失礼しますぅ~』


病室は、この前に来た時とほとんど変わらない様子であった。


ベッドには、一馬さんが寝息をたて寝ている。


二人は、なるべくその身体に近づかないように、一馬さんの足元付近に立ち、そしてナオケンが話かけた。


『一馬さん、おれ達の友だち、カッチを助けてくれたと聞きました。本当にありがとうございました』


『もし、俺たちの声が聞こえていたら、この部屋に居たら、俺たちの前に、出てきてください』


ナオケンは、緊張しながらも、何時もの勇気を哲也に見せつけた。


(本当に、ナオケンのこういう勇気あるところには、オレ、勝てないな)


哲也は、ナオケンが一馬さんに話しかける様子をみて、正直にそう思った。


しかし、ナオケンが2度よびかけても、状況は一切変わらない。


『ナオケン、居ないのかもよ。此処には。もしかしたら、勝平寺、カッチの傍にいるかも』


『また、看護婦さんが来たら、大変だから、帰るか?』


哲也は、もっともらしい理由をつけたが、実はあの妖怪が又出て来るのではないかと怖くて、早く病室から出たかったのであった。正直、病院からも、その思いはナオケンも一緒だった。


『そ・・そうだよな・・此処にはいないんだ‥』


ナオケンがそう言いかけた、その時である、強い風が開いてる窓から入ってきて、二人の顔に当たった。


二人が目を開くと、二人の前に、写真で写っていた少年が現れた。


身体は、少し透明で、後ろの壁が少しボヤケていたが、見える。


(・・・君たち、この前の子達だね。・・・よくあんな目にあって、またこの部屋に来てくれたね)


声ではなく、男の子の思念が二人の心の中に、聞こえて来た。


『テッカ?』、ナオケンがそう呟いて、哲也も同じ声が聞こえているかを確認する。


哲也は無言で、2,3度、慌てて頷いてみせた。


哲也が同じように男の子の思念を聞いている事が分かると、ナオケンは再び、透明な少年に話かけた。


『一馬さんですよね?佐々木一馬さん』


(そう、それがぼくの名前・・・体はもう、あんなに大きくなったんだけど、僕の気持ちは未だ、あの10年前のまま)


『どうしてですか?どうして、いまアナタは幽霊みたいなんですか?』


(・・・正直、僕にも分らない。あの日、僕たちはにげて、それで友達の二人はアイツに捕まった)


(たぶん、悟も、俊哉も捕まった後、アイツに食べられちゃったと思う。)


(二人は、僕だけを逃がしたんだ、僕の為に時間を稼いで・・・)


(やっと、あの絵巻から出られた。あの祠からでたところまでは覚えている)


(気がついたら、僕は自分の身体を上から見つめていた)


(自衛隊の人達が、寝ている僕の身体を見つけてくれて、唯、その時、ほんの一瞬の隙に、アイツが絵巻から出て来て、僕の身体の影に入ったんだ)


(その日から、アイツが僕の身体を自由に操り、そして、たまに人間の子供を捕まえ、食べていたんだ)


気がつけば、半透明の少年は泣いていた。

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