第34話 4.ワナ

加賀谷先生がみたモノは、数名の子供たちがそれぞれひとりずつ、まるで木の枝で作られたおりの中で囚われている姿であった。


囚われた子供たちの様子は、誰もが同じで一様に元気が無かった。


女の子たちもいれば男の子もいた。


加賀谷先生が違和感を持ったのは、彼、彼女らが来ていた衣服である。


ほとんどの子供たちが昔の服を着ていた。その服は、今の子供たちが来ている様な清潔なモノでは無かった。


『助けて』


『このままだとアイツに食べられてしまう』


一人の女の子が加賀谷先生に気づくと、そう訴えた。


加賀谷先生は、先ずその子の木の檻の一部分を持っていたナイフで切り、彼女が出られる穴を確保した。


彼女は、其処から自力でいだし、先生に礼を一言伝え、その場から逃げていく。


(・・・良かった。ワナでは無かった)


『早く、早く・・はやく、僕も助けて』


加賀谷先生が一人の子を助けたのを見て、其処に居る子達は、一斉にすがる様に叫ぶ。


『待ってろ、今すぐに』


一人目を救い、自分の判断が無駄ではなかった事に安堵した先生は、直ぐにその子供たちの願いに応えるべく、次々と木の檻にナイフで穴を作っていく加賀谷先生。


救われた子供たちは、やはり同じように有難うと言い、走り去って行く。


3人の子を解放し、先生は直ぐに4人目の子供を救いにかかる。男の子であった。


助けた子達と違い、その子が来ている服が現代の服であった。


その子ひとりだけ、何もしゃべらず、また加賀谷先生の呼びかけにも答えない。


その為、先生は檻の穴を大きめに開け、彼を背負って助けようと考えた。


穴をあけた先生は、危険を返りみず自分も檻に入って、その子に再度呼びかける。


『オイ、しっかりしろ、助けに来たぞ。大丈夫か』


『・・・・・』


男の子の応答が無い為、加賀谷先生は男の子の手を取ろうと手を差し伸べた時である。


先生の左手が男の子の顔の前を通ろうとした時、男の子が先生の左手に噛みついた。


左手に激しい痛みを覚えた加賀谷先生は、慌てて左手を戻そうと引っ張ったが、引っ張った手は手首の上から喰いちぎられていた。


一瞬にして指の感覚がなくなり、状況を見て、驚きのあまり加賀谷先生は悲鳴を上げた。


『ああああああああ!』


『ヒッヒ、ヅガマエダ!』


男の子だと思っていた顔は、見ると牙の生えた山姥の顔に変わっていた。


山姥の口の中には、喰いちぎったばかりの加賀谷先生の手首が残っていて、山姥は口を動かしながら、時折ムシャムシャとそれを食べる。


手首を噛みちぎられた加賀谷先生の腕からは大量の血が流れる。


『・・・クソ』


先生は、急いでポケットからハンカチを取り出し、傷口の近くを手と口を使って強く締める。


しかし、いくら締めても、血はドクドクと流れる。


(この出血は、ヤベェ・・・死ぬ)


突然、どうしようもない程の寒気を覚える。


力が抜ける、足腰の踏ん張りがきかず、先生は前のめりに倒れた。


『計算外だったのは、来たのがお前だけだった事。ガキどもが来なかった』


『まあいい、時間の問題だ、皆殺しだ・・・ヒヒッ』


『さあ、コイツを喰らってから、ガキどもを食べに行くか・・』


山姥がそう言って、加賀谷先生の頭を持ち上げた時だった。


加賀谷先生が、隠し持っていた着火マンに火をつけ、山姥の目を焼いた。


『がぁッ、目が』


山姥が呻き、叫ぶ。


加賀谷先生が、持っていた着火マンを直ぐに捨て、又ポケットからガソリンが入っているカンを取り出した。


カンの蓋を開け、それを思いっきり、山姥の顔にかける。


火は、勢いよく、燃え出し、一瞬にして山姥は火ダルマになった。


しかし、加賀谷先生はそれを確認する間もなく倒れた。


正に最後の足掻きであった。

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