第33話 3.繋がれた子供たち

先行部隊で出発した哲也達は、紅い目が去った方角へ道をユックリと歩き始めた。


歩いて、30分ぐらい歩いたところで細い山道が終わり大きな広場に出た。


見渡す限り闇だけの世界、その中に微かに小さな灯りらしきものが見えた。


加賀谷先生はその灯りを見ると、カッチと哲也に自分を中心に左右に別れる様に指示を出した。


加賀谷先生がそのまま真っすぐ進み、カッチは加賀谷先生から右方向に10mぐらい離れ、哲也も加賀谷先生から左に同じだけの距離をとる。


哲也とカッチが指示された場所に着いた頃、二人の持っているトランシーバーから加賀谷先生の声が聞こえる。


『お前ら、聞こえるか?何かあったら、ヤバいと思ったら持ってるトランシーバーで、直ぐにオレを呼べ』


『ヤバいと思ったら直ぐに逃げろ!、ヒーロ―になろうなんて思うなよ・・』


『了解です』


『分かりました』


カッチと哲也の声がトランシーバーを通してそれぞれの耳に入る。


3人は、その通信を一区切りに、暫くはトランシーバーを使わず、自分のペースで前進した。


どのくらい歩いただろうか、一番前を歩く加賀谷先生の耳に何かが聞こえて来た。


『・・・て』


『・・けて』


『れ・・・けて』


それは子供の声だった。


声は途切れ途切れで、意味が分からなかった。


加賀谷先生は、先ずトランシーバーを使い哲也達二人に止まるように指示を出した。


『お前ら、今いるところで止まれ、何か聞こえる。オレが先に行って、安全を確認してくる』


『オレが良いと言うまで、ジッとしてろよ』


そう言って加賀谷先生からの通信は一度途絶える。


二人は加賀谷先生に言われた通り、其処で立ち止まり、身を屈め全神経をトランシーバーに集中する様にして待った。


加賀谷先生の通信が終わって、10分も過ぎた頃であろうか、二人のトランシーバーに突然加賀谷先生の声が入る


『コレは・・・、木だ。強大な木がある。強大な木に何人もの子供達が繋がれている』


『先生、どうしたの?何があったの?』


哲也が怖い気持ちを我慢して、加賀谷先生に質問を投げかける。


『佐上か?今オレはバカでかい木の前にいる。奇妙な光景をオレは見ている』


『お前らぐらいの子達が、服なのか分らんが、時代劇に出てきそうな、いやそんな上等なモノじゃない』


『汚い服を来た子供達が縄に繋がれるように、木の枝、細い枝に囲まれている・・』


『オレたちが木に火をかけたら、この子達も死んでしまう』


『この子達を解放しない限り、何も出来ん・・』


『先生、今この世界に、オレたち以外に人間がいる訳が無いよ』


『それは、アイツがおれ達を騙そうしているだけだよ』


『テッカの言うとおりだ、先生、それは絶対ワナだ』


カッチと哲也は、自分の心のまま正直に加賀谷先生に伝える。


『・・・・・』


『・・・スマン、お前たち、オレはこの子達を見殺しにはできん』


『・・お前たちは、今から直ぐに逃げろ!』


『オレは、この子達を解放してから、木に火を放つ。』


『福岡先生達と合流し、オレの居る方角から火が上がっていたら、オレに構わずそのまま逃げろ!』


『とにかく全力で、車の方向に逃げるんだ』


『・・・お前ら、福岡先生に会ったら、買い物には絶対行くからって伝えておいてくれよ』


『先生、買い物って何?』


『そういえば、分かるんだよ。いいな!』


『それじゃ、あばよ!』


加賀谷先生は、そう言って通信を切った。


哲也もカッチもそれから、何度も話かけたが、応答はかえって来なかった。


数分がたって、加賀谷先生との連絡を諦めた哲也がカッチに呼びかける。


『カッチ、お前は、加賀谷先生の言いつけ通り、ナオケン達に伝えてくれ』


『オレは、これから加賀谷先生の所に行く!』


『テッカ、何カッコつけてんだよ』


『行くなら、オレが行く』


カッチが怒った様に主張したが・・。


『ウルサイ、カッチが一番足が速いんだ。皆を全滅させる気なら、オレが戻るよ』


『話し合ってる暇はない、早く行ってくれぇ』


哲也は、気が狂った様な大声でまくしたてる。その迫力は想像以上だった。


『・・・・分かったよ!』


『絶対死ぬなよ』


二人は、同じ言葉を同じタイミングで言い合い、そして通信を切った。


二人は、全速力でそれぞれの目的地に向かった。

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