第36話 6.呼びかけ

哲也と加賀谷先生の後ろでは未だ木が燃えている。


しかし、未だ火の勢いはそれ程強くはなく、加賀谷先生がケガしている為、走る事が出来ない二人でもなんとかその場を離れる事が出来た。


『もう、先生、しっかりしてよ。自分で、俺たちに戻れって指示したんでしょ』


『火を放つから、福岡先生達が待つ、車の方まで走って逃げろって・・』


哲也は、加賀谷先生に肩を貸しながら、先生の質問に答えた。


『そうか、悪かったな。そうだったな。オレそう言ったよな・・』


『・・・先生、忘れてた。これを・・』


哲也はそう言うと、持って来ていた香水の瓶を取り出し、加賀谷先生に振りまく。


その後、自分にも振りまく。


『クッ、いきなり何しやがる』


『臭い、臭い、鼻が曲がりそうじゃ』


『何言ってるの、先生、山姥は鼻が良いから、自分達の匂いを消す為に、定期的に振りまくって決めたじゃん』


『・・・・・・』


『悪い、悪い、何だか、未だ頭がぼーッとしていて』


『本当、しっかりしてよ、先生・・』


二人は、そんな会話をしながら15分くらい歩くと、広場が終わり、哲也達がやって来た狭い山道まで辿り着く。


『佐上、先生は、もう大丈夫だ、此処からは一人で歩く』


『お前のお蔭でだいぶ回復できた、ありがとよ』


加賀谷先生はそう言うと、哲也の肩から手を放し、持って来た木の端きれだけで歩き始めた。


ただ、速度は遅く、哲也に先導してくれと頼んだ。


哲也を先頭に再び歩きはじめる二人。


少し歩いたところで、哲也は又か加賀谷先生に話しかけらえる。


『佐上、此処から福岡先生が待つ場所までってどれくらいかかる?』


『オレ、ずっと緊張しちゃってて、覚えてない。多分1時間ぐらいだと思います。』


『・・・そんなに遠いのか・・クソッ』


『先生、クソって何ですか?』


『いやスマン、言葉が悪かったな。ケガしたこの体で、1時間歩くのが、大変でな』


『・・・先生、オレに良い考えがあるよ、コレを使うんだ』


哲也は振り返り、そう言うと、胸元のポケットにかけていたトランシーバーを加賀谷先生に見せた。


『これで、呼びかけるんだ。こっちから、待ってる皆に。加賀谷先生がケガをしているから、迎えに来てッて』


『・・・そりゃあ、名案だ!佐上、それでいこう、先生助かるよ』


哲也は照れた素振りを加賀谷先生に見せ、再び前を向きトランシーバーのボダンを押し、呼びかけはじめた。


哲也は直ぐに前を向いたので気づかなかったのである。


哲也の後ろ姿を見る加賀谷先生の満面の笑顔と、怪しい瞳の色を。


いや、哲也が見れない事が分かっていて、山姥は本性を現したのであった。


『こちら、テッカ、こちらテッカ、皆聞こえますか?』


ボタンを押している時間だけ、通信が可能であるトランシーバーは、極力無駄な事は伝えない。


長い言葉にせず、文章を短く切り伝えるのが基本である。


それは、長い時間ボタンを押し続けると雑音ノイズが入り、聞きずらくなりやすいからである。


『今、加賀谷先生と共に其方へ向かっております。どうぞ!』


『OSU、カッチ、ナオケン、聞こえますか?』


『先生は無事、ケガをしているので、直ぐに迎えに来て下さい』


『繰り返す、先生は無事、ケガをしているので、直ぐに迎えに来て下さい』


哲也がトランシーバーに向かって、その言葉を繰り返したが、応答はなかった。


『先生、未だ、カッチたちがいる場所まで距離があるみたいだ』


『もうちょっと、歩いたらもう一度、呼びかけてみるよ』


『トランシーバーの受信距離って結構短いんだ。10分歩く毎に、呼びかけるよ』


『分った。お前に頼むよ。先生、傷が痛くてな、お前に甘えさせてもらうとするか』


『早くしてくれよ、先生、何だか腹も減って来てな。』


『皆と合流したら、何か喰わせてもらうかな』


『先生が、少し回復して良かった・・最初見た時、死んでるのかと思うぐらいの状況だったから・・』


『佐上、ありがとうな、本当にお前のお蔭だよ・・オマエの』


二人は、ユックリと4人の元を目指し歩き続けたのである。

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