第37話 7.受信したモノ

哲也よりも早くナオケン達の元に向かったカッチは、持ち前の脚力を生かし、哲也の予想以上早く彼らの元に到着していた。


しかし、暗闇の長い山道である。その疲労は激しかった。


皆の処までついた時、倒れ仰向けになると、暫く息吸う事だけで精一杯で、数分は何もしゃべれなかった。


カッチの様子を見た福岡先生が、自分のリュックから水筒を取り出し、麦茶をコップについで傍に駆け寄ったが、それ一杯飲むのにも数分かかる状況であった。


時間が経ち、やっと落ち着いたカッチは自分を落ち着かせるようにユックリと口を開いた。


『オレたちが向かった場所には、大きな木が立っていて・・』


『多分、山姥の住処・・・』


『加賀谷先生が、一人で先に行っちゃって。其処で囚われている子供たちが居るって』


『トランシーバーでオレたちに知らせて来たんだ』


『オレとテッカが先生に、絶対にオレたち以外には、人間は居ないって、止めたんだけど』


『先生が、この子達を、見捨てる事は出来ないって、子供達を救ったら、火をつけるから、お前たち先に逃げろって』


『・・・それじゃ、佐上君はどうしたの?』


カッチの話を聞いて、福岡先生が冷静に確認する。


『加賀谷先生を助けるって、テッカは加賀谷先生を、オレは皆に逃げる様に伝えろって!』


『一番大事な山姥はどうなったの?』


『・・・・』


『分からない・・、テッカと先生が山姥とあったかも分からない』


『もしかしたら、加賀谷先生とテッカも、山姥に捕まってしまったかも・・』


『ゴメンなさい・・』


カッチはそう言うと、今迄気丈に頑張っていた緊張が崩れたのか、泣き出してしまった。


『野田君、泣かないで、アナタはみんなの為に、加賀谷先生から言われた使命を果たしたのよ』


『すこし、そのまま、何も考えず、休んでなさい』


『後は、わたしたちで、何をするべきかを考えるから・・』


福岡先生は、カッチを励ますようにそう言うと、ナオケンといずみに自分の近くに来るように右手で手招きをした。


『あなた達、よく聞きなさい』


『こういう時はね、最悪の事を想定するの・・』


『最悪の事って・・』とナオケンが低い声で質問する。


『二人はやられて、山姥が此処に来るって事』


『先生、縁起でも・・・』


いずみが福岡先生を非難する様に叫ぼうとしたが、福岡先生の悲しい表情をみて言いかけた言葉をのんだ。


『結論を先に言うわ、野田君の体力が回復したら、直ぐに逃げるわよ、私達が此処に来た、スタート地点まで』


『先生、二人を見捨てるのかよ・・』とナオケンが叫ぶ。


『・・・エエッ、見捨てるわ、此処で二人を救いに行って、山姥にみんなが食べられたら』


『それこそ、意味がないから』


『加賀谷先生も、もし私と同じ立場だったら同じ判断をすると思うわ』


『二人の命を無駄にしない為にも、私達は無事に逃げなければならないの・・』


『二人は未だ死んだって決まってないじゃないか!』


ナオケンが声を荒げて主張する。


その時、福岡先生と、カッチの胸のポケットにかかっていたトランシーバーから音が聞こえて来た。


それは、哲也の声だった。


『こちら、テッカ、こちらテッカ、皆聞こえますか?』


『今、加賀谷先生と共に其方へ向かっております。どうぞ!』


『OSU、カッチ、ナオケン、聞こえますか?』


『先生は無事、ケガをしているので、直ぐに迎えに来て下さい』


『繰り返す、先生は無事、ケガをしているので、直ぐに迎えに来て下さい』


哲也の声を聞いて、いずみが嬉しそうに声を上げる。


『これ、佐上の声だ、皆、良かった。佐上君、無事よ』


福岡先生も、いずみの言葉を聞いて、急いで応答しようとした。


しかし、その時、ナオケンが咄嗟に福岡先生からトランシーバーを奪った。


『先生、ちょっと待って・・・』


『テッカが、おれたちに、話しかけている言葉』


ナオケンは、そういうと、しばらく、トランシーバーに耳をつける。


暫くして、又トランシーバーから哲也の声が聞こえ、同じ言葉を繰り返す。


状況が理解できない福岡先生の顔は緊張する。


『どうしたの?何で応答しないの?』


先生は、真剣な顔でナオケンに質問する。


トランシーバーの言葉は、2度同じことを繰り返し、そして止まった。


『先生、テッカがね、俺たちに向かって連絡した内容は、OSUから始まったんだよ』


『それはね、俺たちの中の暗号、逆さのいみで、USO・・つまりウソって事なんだ』


『OSUの後の言葉は、ウソって事なんだ。』


『先生は、無事、ケガをしているので、直ぐに迎えに来て下さいは、ウソって事』


『つまり、加賀谷先生は無事ではない、ケガをしているのでというのは、分からないけど』


『直ぐに迎えに来て下さいって事は、直ぐに逃げろって事なんだ!』


『それじゃあ、今、佐上君が一緒にいる相手は、ダレ?』といずみが怖さを押し殺して質問する様に言う。


『アイツだ。山姥だ』


仰向けになって、休んでいるカッチがそんな彼女に、聞こえる様に呟いた。

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