第42話 12.カッチのお祖父さんの頼み
『火ギャあ、火がワシにぃ』
加賀谷先生の声が聞こえて来た。
火が一瞬で大きくなり、その火が、一瞬加賀谷先生の身体を
その時、哲也の視界に奇妙な情景が入り込んできた。
加賀谷先生の目から、紅いモノが出て来たのである。
それは、寄生虫が宿主の死を覚悟し、宿主の死に自分が巻き込まれないように逃げる様であった。
最初は、紅い糸が目から出て来るように見えた。
奇妙な点は重力を無視し、目から垂直に上空へ伸びていくのである。
そして、その紅い糸はある程度の上空で止まり、小さい物体になったのである。
紅い目が形を成した時、またまた奇妙な事が起きた。
小さい物体をよく見ると、金色の糸の様なモノが巻かれていたのである。
(なんだ、あの金色の糸の様な長いものは・・)
哲也が、そんな事を思っていると、その紅い物体は哲也達が来た方向に飛んで行ってしまった。
しかし、その後哲也が見た金色の糸がユラユラと風に吹かれて、落ちて来た。
その金色の糸は、まるで意思のある生き物の様に、哲也の元へ近づいてくる。
傍に来たと思ったら、自然に哲也の手に巻きついた
哲也の手に金の糸が巻き付いたと思うと、聞いた事のある声が聞こえて来た。
(テッカ君、ワシの声が聞こえるかい)
『・・カッチのお祖父ちゃん』
(そうじゃ、テッカ君、よく聞いてくれ)
(山姥が加賀谷先生の身体をあきらめ、出て来たのがあの物体じゃ)
(あ奴、相当、力を消耗しておる。ワシは、生きてるときに、あ奴を封印できず、返り討ちにあった)
(しかし死の間際に、ワシの魂の一部をあ奴の身体にまとわせる事が出来たのじゃ)
(あ奴に悟られまいと、糸になり、ずうっとあ奴の力の一部を押さえていたのじゃ)
(しかし、先程、加賀谷先生に力を分け与えたので、その力が弱まっておる)
(君の力を貸して欲しい)
(あやつは、先生達の抵抗で消耗し、火を恐れ、この世界から、この絵巻物の世界から逃げる事を考えておる)
(あの速度じゃ、すぐに、克彦やナオケン君たちに追いついてしまうじゃろう)
(哲也君、ここからワシの孫、克彦に届くように念じて欲しいのじゃ。ワシの魂を通じて、克彦にテレパシーを送る)
(克彦が持って来た瓢箪を開けろと、克彦に伝えてくれ)
『エッ、そんな事できないよ』
(ワシの魂の糸が君の手に絡まっている内に、強く念じてくれ、早く!)
カッチのお祖父さんに急かされて、哲也は焦った。
そして、追い込まれた哲也は無意識にトランシーバーを取り出し、そしてトランシーバーに呼びかけた。
『カッチ、聞こえますか?そっちに山姥が向かってます。』
『こちらテッカ、今すぐ、お祖父さんの瓢箪を開けて下さい』
『カッチ、聞こえますか?そっちに山姥が向かってます。』
『こちらテッカ、今すぐお祖父さんの瓢箪を開けて下さい』
(届け、届け、カッチに届け・・)
哲也は呼びかけと同時に心の中でそう強く念じた。
何度目かの呼びかけが終わった時、腕に巻かれて糸は引っ張られていくように、山姥が飛んでいった方向に風に流されて行ってしまった。
紅い物体が加賀谷先の身体から離れ、飛んでいってから、僅か数分の出来事であった。
金色の糸が手から離れる直前、哲也の耳に、又別の声が聞こえた。
(我が魂よ、雨になってこの火を消せ、助けてくれたあの人達を炎から救い出せ!!)
その声は男の子の声だった。
そんな声が聞こえたと思った矢先、突然どしゃ降りの雨が降り始めた。
ただの漆黒の闇しかなかった空から、突然雨が降り注ぎ、気がつけば哲也の周囲の炎を消していく。
目まぐるしく変わる自分の前の情景に、翻弄された哲也であったが、ふと我に返り、加賀谷先生を探す。
直ぐに二つの影が目に入って来た。
横たわる加賀谷先生の身体と、その前で立ち尽くす福岡先生であった。
哲也は急いで二人の傍へ向かった。
そして役者は代わり、舞台は最後の幕を開ける。
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