第10話 10.カガヤン先生

ナオケンの提案に応じ、哲也は自転車に乗り勝平小学校に向かった。


ナオケンといずみと合流後、カッチの家に向かうつもりだったので、二人も自転車で来るとの事だった。


学校の正門に入ると、其処にいずみが自転車を止めて二人を待っていた。


『佐上君、私、テレビで見て、もうショックで、気持ちが変になりそう・・』


いずみは、ショックの為か、哲也をあだ名ではなく、以前の様に哲也の苗字で呼んだ。


『委員長、俺もだよ、カッチの家の事、テレビで知って・・・カッチが心配になって、直ぐにカッチの家に電話したんだけど、留守番電話になってて誰も出なくて・・』


『・・・カッチの奴、ケガしてなければいいんだけど』


哲也は、いずみに合流するまえの自分の行動を説明し、そしてカッチの無事を確認したい事を告げた。


『ニュースでは、野田君のお祖父さんの事しか言ってなかったから、・・野上君は大丈夫だと思うよ・・』


『ただ、多分お祖父さんの事で、気持ちが、心の方が心配・・・』


いずみは、哲也にそういうと、自分の不安を紛らわすように、正門の外まで歩いていき、ナオケンが来る方向を見つめる。


『おお~い、委員長、テッカぁ、」


ナオケンの声が聞こえたので、哲也も慌てていずみの横まで走って行き、声のする方向を見る。


見ると、自転車を力いっぱい漕ぎ、ものすごいスピードでナオケンが向かって来ていた。


ナオケンは、二人が気づいた事が分かると、自転車の速度を緩め、ユックリと二人の前に自転車を止める。


『オレ、今、カッチの家の前、見て来たんだけど、テレビ局の人や、近所の大人の人達が一杯で・・』


『あんな状況じゃ、オレらが行っても、お寺には入れてもらえないぜ』


『マジか・・・』


『・・そう・・・なるよね』


哲也と、いずみは、ナオケンからの情報を聞いて項垂れるように言った。


『・・・・じゃあ、ショウガナイ、私の家来る?、この中で私の家が一番近いし、其処で作戦会議しょ』


『これから、どうする、ううん、どうしなきゃいけないかを話しましょう』


『そ・・だな』


『んだな・・委員長の家、行ってもいいのか?』


『私は、・・・正直ちょっと、恥ずかしいけど、みんなと話したいし、一人でいると、どんどん怖い事を考えてしまうから・・いいよ』


いずみがそう言うので、ナオケンと哲也もとりあえず、いずみの家に行く事にした。


『お父さんは、仕事だけど、お母さんは今日は病院の仕事を休んだの。もしかしたら、近所に未だ、野田君のお祖父ちゃんの事件、犯人がいるかもしれないからって』


自転車に乗りながら、いずみは、前もって家の状況を二人に軽く説明してくれた。


二人とも、女の子の同級生の家に行った事が無く、いずみの家に行く事に内心緊張していたのだった。


いずみの家に着くと、いずみの母が3人を出迎えてくれた。


昨日、市立病院での事もあったので二人は緊張したが、いずみの母は、それにあまり触れず、カッチのお祖父さんの犯人がいるかもしれないから、学校の帰り道では不審者には気をつけなさいと、2人に注意喚起するだけだった。


二人は、直ぐにいずみの部屋に通され、いずみはお菓子と飲み物を持ってくると言い少し席を外した。


いずみの部屋の扉には、昨日カッチのお祖父さんからもらった護符が貼ってあった。


それをみた、ナオケンが、自分も自分の部屋の前に貼ってあるといい、哲也も同じだと答える。


そんな会話をしていると、扉の外から、いずみの声がした。


『二人のどっちでも良いんだけど・・・、ゴメン、私両手塞がってるから、扉を開けてくれる?』


数分後、お菓子と飲み物を入れたおぼんを両手にもったいずみがそう言って部屋に戻ってきた。


哲也が慌てて扉を開ける。


オボンをテーブルに置いた後、3人は本題について話始めたのだった。


『もしかしたら、今日も、また、あの病院の妖怪が、おれらを探しにやってくるかもしれない・・』


『護符も言われた通りに貼ってあるし、匂い袋のお守りもある・・カッチのお爺ちゃんの言うとおりであれば、妖怪が俺たちの家までは来ないと・・』


ナオケンが、状況を確認する様に言う。


『カッチのお祖父ちゃんの言った事、100%本当だって、保証できるのかなあ』


哲也は、カッチのお祖父さんが言った事を100%信じたいのだが、カッチのお祖父さんが殺されてしまったので、信じきれない不安を声に出した。


『・・・実は、私、昨日ね、眠れなかったの・・怖くて、妖怪が自分の家まで探しに来るのではないかって』


『委員長、オレもだよ。テッカァや委員長がしっかり護符貼れてるかなあとか、考えてたら、眠れなかった』


『だって、昨日、市立病院で、モノスゲェ、怖い経験したじゃん』


ナオケンが、そう言いながら、同意を求める様に、哲也の顔を見たので、哲也も口を開いた。


『ナオケン、オレもだよ。二人とも、護符貼れたかなとか、外の音が、妖怪が来た足音じゃないかって』


『そんな事を考えてたら、怖くて、朝日がでるまで眠れなかったんだ』


3人とも、同じ状況だったことを知り、自分だけでは無かったと、不思議と気が休んだ3人であった。


3人がそんな会話をしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


いずみの母が、電話機の子機を持って入って来た。


『いずみ、お前のクラスの担任、加賀谷先生から電話だよ』


『野田君のお祖父さんの件に関連した事みたい。』


いずみは、電話を出る前に、一度二人に電話に出る同意を得る様に二人の顔を見る。


哲也は、直感的に、いずみに一つの事をお願いする。


『委員長、カガヤンの用件を聞いて、終わった時点でいいから、俺を電話に出してくれないかな』


『カガヤンだったら、俺たちの事、話を、聞いてくれる気がして・・』


いずみは、哲也の要望に応える様に、頷き、電話を取り話始めた。


『あ、もしもし、電話かわりました松本いずみです。』


『先生、おはようございます』


電話をかけて来たのは、哲也達のクラス5年3組の担任、加賀谷一先生であった。


加賀谷先生は男で、バレー部女子の顧問であり、監督である。


長身で、短髪、黒縁のメガネがトレードマークである。


20代後半だが、未だ結婚はしていない。言葉はそれ程、多くないが優しさと厳しさが二つある先生で、男女関らず、クラスのみんなが先生の事を尊敬していた。


ときどき、冗談を言うのだが、本当に時々で、それが面白さを倍増させていた。


クラスの生徒は、彼の事をカガヤンという愛称で呼ぶのだが、生真面目な彼は、毎回、『オイ、加賀谷先生だって』

と修正するのだが、『ハイ、カガヤン先生』と言って、クラスの生徒が爆笑するのが何時もの事であった。


いずみと、先生の話が終わった様である。


『先生、今、実は佐上君と、犬崎君が私の家にきておりまして・・野田君の家の件で、先生と話がしたいことが・・』


いずみは、2度、3度頷くと、電話を哲也に渡してきた。


『カガヤン先生、オレ、佐上です!』


『オウ、佐上、お前と、犬崎が松本の家にいるって聞いて驚いた。宿題でも一緒にやってるのか?』


『先生、違うんだ。カッチ、いや、野田君の家のお祖父さんの件で、皆、野田君の事が心配で集まっていました』


『そうか、今、オレが松本に電話したのも、野田の家の件なんだよ』


『お前と、犬崎が、野田と一番仲いいもんな、』


『オレも今日、これから直ぐに、野田の家に校長先生、教頭先生と一緒に行く予定なんだ』


『・・・先生、オレたち、カッチと話がしたい。多分、カッチも同じ気持ちだと思います』


『もし、カッチ、野田君と先生があったら、オレが電話を待ってるって言ってもらえませんか』


『・・・・分かった。気持ちは分かるからな、了解した』


『先生、有難うございます。』


哲也は、そう言いながら、自分を見ているナオケンといずみに片手で手を振り合図を送った。


『・・・佐上、ちょっと待て、未だ電話切るなよ』


『何ですか、カガヤン先生』


『たぁ~くぅ、何度も言わせるなよ、俺は、加・賀・谷・先生だぞ、フフッ』


『ハイ、カガヤン先生!』


電話を切った、哲也は不安な心の中に、かすかな光が見えた様な気になった。


それは、いずみとナオケンも同じの様だった。


加賀谷先生に、カッチに電話する様に頼んだ3人は、カッチからの電話を待つために、哲也の家に移動した。


その日の午後、待っていたカッチからやっと電話が来たのであった。

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