第28話 8.機転

哲也達を乗せた車は山奥へと向かう細い山道を真っすぐ進んでいく。


車に乗り、少し落ち着くと哲也は自分の中にある疑問を加賀谷先生に投げかけた。


『加賀谷先生、どうして加賀谷先生の車が此処にあったんですか?』


『そもそも、花をお供えに行くって、何時決まったんですか?』


『それはな・・、お前らと対策会議した日なんだが、オレが山岡先生に相談したんだ)


『10年前の風越鬼山の悲劇、そして佐々木さんの件、同じ小学校の者として、お花だけでもってな』


『そしたら、山岡先生も、その通りだって、オレの考えに賛同してくれてな』


『それじゃ、歩いていくより、車があったら手っ取り早いだろうって思って・・』


『昨日、お前らが買い物をしてくれてる間に、オレは一人だけ先に、宿泊施設に来て、車を置いておいたのさ』


『車があれば、何かと便利だろ。何もなくとも、直ぐ帰れるし』


『お前らの言う、バケモノが出て来ても、車でぶつかって倒せるだろ・・・』


『ガッハハハ!』


加賀谷先生は、哲也に状況を説明すると、ワザとらしく笑った。


『加賀谷先生、笑ってないで、ちゃんと運転に集中して下さい・・みんなの命を握るハンドルですよ』


『だんだん、道も狭くなっているんですから・・』


『ハイ、スミマセン・・気をつけます』


『福岡先生が、最強だ!スゲエ!』


ナオケンがそう言うと、その他の3人が堪えきれず、笑ってしまった。


『先生達、本当に有難うございます。色々と私達を助けてくれて』


いずみが、子供たちの気持ちを代表する様に言った。


『礼は、終わってからにしような、バケモノ何か出ないで、花を捧げれば、変な現象もおさまるかもしれないし』


加賀谷先生がそう言った時、前から一人歩いて来た。


黒いズボンに白いシャツと帽子を被ったオジサンだった。


『・・・先生、あれ、山姥の変化した姿じゃない?』


カッチが、警戒する。


『バカ、山姥って、出て来たとしてもお婆さんだろ。違うと思うぞ』


『・・・私が行きます。皆は車の中に居て・・』


そう言ったのは、福岡先生だった。


『近くに、小さいほこらがあるかも聞きたいし、私に考えがあるわ。』


福岡先生は、そう言うので、加賀谷先生は車を止め、福岡先生を降ろした。


『あの、こんにちわ、スイマセン、地元の方ですか?ちょっとお聞きしたいのですが?』


福岡先生は、そう言って小走りにそのオジサンに近づいていく。


そのオジサンは、福岡先生が来ると、被っていた帽子を取ったが、何かに気づいた様で、表情が無い。


『オメェら、何しに来ただ』


『私達は、ある処にお花を捧げにいくんですよ』


『其処の場所、もう近いと思うんですけど、このあたりに小さいほこらがありますか』


ほこらに行って何するんだ?』


『エッ、だから、お花を捧げに・・・』


『・・・・』


『祠は、あっちだども・・』


オジサンは、愛想は無いがそう言うと、車が進む予定の山奥の方角を指さした。


『あとどれくらいですかね?』


『・・・・行けばわかる』


そう言って、そのオジサンはまた帽子を被った。


『道が細くなるから、此処から歩いて行った方がいい』


『あ、そうですか、有難うございます。ちょっと進んでみて、ダメだったらそうしますね』


『あ、あのオジサン、失礼ですが、右手に何かついてますよ・・』


『ンン・・・』


『私、ハンカチあるから、取ってあげますね』


福岡先生は、そう言い、素早くハンカチを取り、男の腕にハンカチをかけ握りしめた。


『グア、何すっだ?』


『痛てぇえ・・この野郎、何するだ』


気がつくと、ハンカチを巻かれた男の腕から、ジュッと肉が焼ける様な音がしている。


『・・・おかしいな?このハンカチ、お清めの塩が塗ってあるだけなんだけどな?』


『なんだか苦しそうね、オジサン、いや、山姥さん・・』


そう言うと、福岡先生はその男を蹴り飛ばし、車に駆け戻って来た。


車に乗った福岡先生は、皆に告げる。


『奴よ』

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