第十参話 後編

柴田勝家らは織田信秀が探しているとは知らず、相模へと移動していた。



竹千代「柴田様。信広様を助けたのは良いとして、このまま相模へ向かってよろしいのでござるか?」


信広「何?先程から帰るにしては、方角がおかしいと思っておったが、相模を目指しておるだと?そんな話、聞いておらぬぞ!権六よ。」


「貴方様は、先日まで何をしておった?」


「それを申すな!わしの不覚であったと反省しておる。」


「それならば、某の指示に従って下され。それに、当初の目的は今川義元陣営から離れて、ことらに来た大原雪斎を亡き者にして、信広様は見殺しにする手筈であったしの。」


「なっ。わしを見殺しじゃと?」

と、驚いた。


「当たり前でござる。雪斎を運よく殺せて逃げる為にわざわざ、遠く離れた信広様が捕えられてる義元陣営へ行けるはずがございませぬ。」


「それはそうだな… では、そこの竹千代は如何致したつもりであったのじゃ?」


「今の信広様同様で、某に担がれる事に成っておりました。」


竹千代「信広様。そのはずだったのでござるが、雪斎がまさか我らを義元の居る陣営へ招くとは思いもよらぬ事で、策を変更したのでございまする。」


「そんな事が…(大原雪斎に感謝じゃな。それが無ければ今頃… くわばらくわばら。)それにしてもじゃ。何故、相模へ向かっておる?権六よ。」


「はぁ…。竹千代、この御仁に教えてやれ…」

と、溜息を付く。


「あのですね。あの阿呆(今川氏真)は兎も角、今川家一の軍師・雪斎が健在なのですぞ?当然、駿河・遠江・三河・尾張の国境を封鎖してくるのは必定!それに今川家の親戚筋の甲斐・武田家へは当然、向かう事は出来ますまい?」


「うむ。そうであるな。」


「そこで今、唯一両方が敵対しており、織田家とは無縁の存在といえば… そこまで話すと、さすがにお解りでござろう?」


「わしは弟とは違い『うつけ』ではないからな!解るわい。」


その発言に怒った勝家は

「弟?信秀様の本筋に当たる嫡男に向かって、その発言は如何なものかな?」


「そ、そこまで怒る事はなかろう?(『うつけ』に『うつけ』と申して何が悪い?意味がわからん。)」


竹千代「信広様が今川に捕まる前、三郎様が『うつけ』と噂されるのは、三郎様の策であるという事が解ったのでございまする。」


「何?!あれが策じゃと?では何か、皆が三郎の演技に騙されていたと?」


という発言に二人は≪うんうん≫と頷いた。



信広「三郎の件は、とりあえず置くとしいて…(そういえば、勘十郎くらいの歳に神童と呼ばれていた事があったな。そうか!全て芝居か!やるではないか。)北条家を頼るという事じゃな?しかし、上手くいくかのぅ。」


「そこは、某にお任せあれ!(とは申したが、さて… どうしたものか。)」

と、思う勝家であった。



つづく。




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