IF... 織田信長 外伝:柴田勝家

★華瑠羅★

第壱話 前編

西暦1582年(天正10年)6月2日、京の本願寺にて明智光秀の謀反により織田信長が討たれた、世に言う『本能寺の変』。


その討たれ信長の命により、毛利攻めを任されていた羽柴秀吉が毛利との和睦をし、信長の仇でる明智光秀を摂津と山城の国境である山崎にて激突し、秀吉が勝利した。


その後、信長の後継者であった織田信忠も本能寺の変の折に討たれた事で織田家の今後を決める『清州会議』が行われ、信忠の嫡男である三法師の後見人として羽柴秀吉が事を収めた形となった事に織田家古参の家臣らが反発した。


特に、筆頭家老であった柴田勝家が不満を露わにして、近江国の賤ヶ岳付近での大戦が始まった。


世に言う『賤ヶ岳の戦い』である。


この戦いで、北陸の柴田勝家居城である北ノ庄から北の上杉家や、その下の美濃の稲葉家、それに腹心である前田利家にも見限られ、大敗した勝家は自信の城に籠り最後の時を迎えていたのだった。



勝家「口惜しや!何故、このわしが猿(秀吉)ごときに負けねばならぬ!」


市(信長の妹)「わたくしも、口惜しくてなりませぬ… 長政(浅井長政)様を殺された仇である猿に…」


「すまぬ。わしの力が無かったせいで… しかし、お前は信長様の妹じゃ。落ちのびて利家を頼って…」

と、話かけたが市は

「いいえ!貴方様を裏切った前田殿を頼るなど致しませぬ!それに二度も落ち延びるなど…」


市は娘たちに目をやり

「覚悟を決めるのじゃ…」

と、声をかけたが長女である茶々が鬼の形相で

「母上はそう申すが、わたくしは嫌でございます!わたくしは、まだ死にたくはありませぬ。前田様を頼りまする。」

と、市の隣に鎮座する勝家を睨み付けた!


勝家は茶々の意見を聞き、少し腕を組んで考え

「茶々は己が人生を掴みとればよかろう… 城の裏手より出て、利家を頼るがよい。」


すると、茶々以外の初と江は母である市にしがみ付き

「「嫌じゃ!嫌じゃ!母上と離れとうない!」

と、泣きわめくが冷静を保っていた茶々は

「いい加減に致せ!我らは生きねばなりません!生きていれば、仇も討てるというもいのです。」


その言葉を聞いた市は茶々を見て涙し

「そうですね… わたくしの叶わなかった事をあなた達に託します。 初。江。姉と共に行きなさい。どうか、どうか、健やかにの…」

と、茶々を改めて見つめ

「あなたも、旦那様が申した通り己が人生を掴みとってみなされ!そして、妹達をよろしくお願い致しますね…」


「母上… それに、父上… 失礼致しまする。」

と、深々と頭を下げ落ちのびて行ったのだった。


二人になった勝家らは

「それにしても、旦那様の事を父上などと… 良かったですね…」


その言葉に感極まった勝家は号泣し

「まさか、わしを父上と呼んでくれる日が来るとはな…」


「名残欲しいですが、お先に失礼致します。旦那様、わたくしは幸せでしたよ…」

と、脇差を首に刺し旅立った。


それを見届けた勝家は残っている家臣達に

「城に火を放て!信長様も髪の毛一本残さずお亡くなりなったのじゃ。わしもそれにあやかりたいと思う。」



そして

『夏の夜の 夢路はかなき あとの名を 雲居にあげよ 山ほととぎす』

と、辞世の句を発し腹に脇差を当てた瞬間、眩い光が辺りを照らしたのだった。



つづく。

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