第壱話 後編

眩い光に包まれた勝家であったが、その光が消えたと同時に懐かしい風景が飛び込んで来た。


「何じゃ?!ここは…」

と、辺りを見渡し

「これが死ぬ時に見るという奴か?」


すると、何処か聞き慣れた声が聞こえ

「何を申しておる!頭は大丈夫か?権六…」

と、これまた懐かしい人物が勝家を覗き込んだ。


勝家は驚き、目を擦り

「え?信行様?」


「は?信行とは誰の事じゃ?本当に大丈夫か?」

と、心配そうに勝家を見る。


(信行様ではない?は?!勘十郎様という事か!いや、まてよ?夢か、幻の類いか?よくわからん!いったい…)

と、混乱しつつ

「か、勘十郎様でございまするか?」


「は?わしはわしじゃ!兄上を探していて、土手から転げ落ちたのは見て取れたが… 本当に大丈夫か?」


(土手から落ちた?わしは確かに北ノ庄で最後を迎え…)

と、思っていたら勝家の頭の中に勘十郎とは違う声が響き渡った。


『柴田勝家… 貴様にもう一度、人生をやり直す機会を与えた。』


『は?もう一度とは?』


『貴様は頭が固いと言われぬか?』


『よく言われ… え?』


『「え?」ではない!今度は口惜しくない人生を歩め!以上じゃ。ではな…』


「急にそんな話をされても… おい!待たれよ!」


その発言に勘十郎のもう一人の傅役である林が

「勝家殿!「おい!」とは勘十郎様に対して失礼でございまするぞ!」

と、勝家を叱り付けた。


(追放された林殿までがおるとは… もはや、受け入れるしかないのぅ)

「まだ頭がぼーっとして、夢で出会った御仁に話かけていただけであって… 申し訳ございませぬ。」

と、頭を深々と下げたのを見た勘十郎は

「じぃ!権六はそこの土手から落ちて、頭を打ったのはわしも見た!そう目くじらを立てずともよい!」


「おお!そうでござったか。」


「重ね重ね申し話ござらん。(まだ、奥方や林に入れ知恵をされておらぬとみえる)昔、宴会の席で滅多に酔わない信長様が愚痴をこぼしておったのを思い出す。)」



『わしはな… 弟である信行が謀反など起こさずに今ここにいてくれたらと、たまに思う… おっと、わしの独り言じゃ。聞かなかった事にしろ。』



(という事はやはり、信行様を殺めてしまった事を後悔していたのであろう。であれば、奥方や林の言いなりならぬよう教育してやらねばな!)

と思う、勝家であった。



時を同じくして、那古屋城では駿府の今川家に対する会議が行われていた。



織田家の分家であるが織田家随一の武力を誇る織田信秀は今川家からの引っ切り無しの嫌がらせに手をこまねいたいたのだった。



つづく。




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