第弐話 前編

信秀「今川の狸(義元)に何度も煮え湯を飲まされておるわけじゃが、今回は三河の安祥城を落とした事により巻き返しを図ろうとは思っておるが、戦況は芳しくない。そこで今回は信光にも、この軍議に参加してもらった次第じゃ。」


「某が参加したところで戦況は変わらんと思うがな…」


「何を弱気な。」


佐久間信盛「そうですぞ!信光様。この勢いで三河を我ら織田家の物にしましょうぞ!」


「そうは申しても、わしが参戦したところで駿河の本体が来れば戦況はまたひっくり返るだけではないか?信盛。」


「しかし、手をこまねいていては…」


信秀「まぁ待て。安祥城を落とすは狸の足止めとして使えばよいと考えておる。」


「しかし、戦(いくさ)には時の勢いが…」

と、話しかけた信盛に信秀は

「話は最後まで聞け!この尾張はまだ一枚岩でないのじゃ!三河はその後、考えればよい。それに安祥城を…」

と、視線を織田信広へ向け

「信広!お前に任すゆえ、しっかり守るのじゃ!よいな。」


「え?某を城持ちに?」


「たわけ!安祥城を死守せよと申しただけじゃ!三河は今川が支配しておる国じゃという事を忘れたか?」


「はっ!申し訳ございませぬ。某が不勉強で…」


「まぁ良いわ。」

と、不満げな表情を浮かべた信秀だったが、すぐさま信広を睨みつけ

「何をしておる!早く、城へ向かわぬか!のんびりせておる暇などないのじゃぞ?」


「はっ!直ちに!」

と、信広は慌てて出て行った。


「まったく…」

と、隣に座っていた三郎(後の織田信長)を見て

「お前は、この状況をなんとする?」


すると、三郎の傅役である平手政秀が

「大殿。若はまだ9歳でございますぞ。」


「おっと、そうであったな…(早く元服して活躍して… いかん。)まずは本家の対応をどうにかしないとな。」


信光「本家と申すと、斯波家でございまするか?」


「いや、斯波義統はどうとでもなるが…」


「ああ、信友が問題ですな。しかし、いずれは狙っておるのであろう?」


「うむ。せめて三郎が元服するまでに片付けなければならん。」

と、軍議は今川や本家の対応に話し合いが進められていたのだった。



それから数日後、那古屋城を嫡男である三郎に譲り、信秀は新たに完成した古渡城へ居城を移したのだった。



その事を聞いた林は勘十郎に

「若様。兄である三郎様にお祝いを申すというのはどうでございましょうや?」


すると、勘十郎は不機嫌そうに

「どうせ、わしの申す事など聞く耳持たぬじゃろうて… どうも、兄上はわしの事を毛嫌いしておる節がある。」


「そのような事があるはずがありませぬ!ささ、参りまするぞ。」


「わしは行かぬ!じぃが行けばよかろう?」

と、だだをこねる勘十郎を見て勝家は

「勘十郎様。唯一の兄弟ではございませぬか!疎んじる訳がござらぬ。(今の信長様はどうかは知らぬが…)」

と、宥めるながら思いにふけるのだった。



つづく。

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