第弐話 後編
「じぃはいつもの事じゃが、権六までもそう申すなら…」
と、勘十郎が発言すると屋敷の奥から
「勘十郎様。三郎殿にわざわざ会いに行かなくてよいのではありませぬか?」
林「奥方様。それはさすがに不味うございまするぞ。」
「三郎殿が何と呼ばれておるか知っておろう!そんな者に会おたら、わたくしの勘十郎様に『うつけ』が移ってしまうではないか!」
「それはそうでございまするが…」
それを聞いていた勝家は
「(まさか、もうあの噂が流れておったか… しかし)奥方様!大殿の嫡男でしかも奥方様が腹お痛めて産んだ三郎様を『そんな者』扱いしては、内外にも示しが付き申さぬぞ!それに、林殿も誰かに聞かれたらどう言い訳するのでございまするか?」
しかし、その発言に対し鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた両者は
「おい!柴田殿。三郎殿を三郎様?何か変な物でも食べたのか?」
「そうですよ!権六殿。わたくしに意見する事など皆無な御仁が… 雷でも落ちねばよいが…」
「林殿も奥方様も、某を揶揄しすぎですぞ!で、若はどう致すのでございまするか?」
「うむ。じぃや母上の申す事を取るとしよう。」
「若様… 噂を信じるという事は敵の謀略にハマるのと等しいと、林殿に習わなかったでございまするか?」
と、問い質すと不貞腐れた態度で
「それは教わったが… しかし、母上が言う事は全てにおいて正しい!違うか!」
「はぁ… 自分の目で見た物、耳で聞いた物を第一にと大殿からも教わっておるでござろう?それを、奥方様の噂が正しいとか… 嘆かわしい限りですぞ?」
その言葉に間髪入れず土田御前(奥方)が目くじらを立てて
「権六!いい加減に致せ!(余計な事を…)主君に対して無礼であろう?」
「これは大殿の教えでございまするぞ!いくら奥方様とて…」
勘十郎「ええい!分かった。分かった!今回は権六の申す通り、兄上へ会いに行く事に致す。母上もじぃも、それでよいな。」
土田と林は渋々納得し、勘十郎の言葉を聞き入れたが土田だけは頑なに拒んだのだった。
勝家「それでこそ、我が若様でございまする。(この頃から、コレでは先が思いやられるな。)」
そして、準備が整った勘十郎らは三郎の居城である那古屋城へ向かった。
那古屋城では平手政秀が対応し
「これはこれは若様。まさかとは思いまするが、お祝いに来て頂いたのでございまするか?」
「平手殿!その対応は、些か無礼…(いや、また三郎殿が城を抜け出しておるのでは?)」
と、林は思い出したかのように半笑いで
「まさかとは思うが…」
その言葉に平手は、手拭いで汗を拭き
「面目次第もございませぬ… 仰る通りでございまする。」
「ほう。それは難儀ですな。織田の御曹司がこれでは… しかし折角参ったのだ、三郎さ・まが、帰って来るまで待たせて頂こう。の?柴田殿。」
と、あからさまに勝家を揶揄する視線を送る林であった。
つづく。
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