第参話 前編

(わしに対する当てつけか?追放させた無能の分際で!しかし、以前のわしなら相変わらずと思うのが…)

と、思いつつ勝家は平手へ視線を向け

「平手様。ちとお尋ねしたいのですが、宜しいでござろうか?」


「おお!誰かと思えば『鬼柴田』の権六… いや、勝家殿ではござらぬか!何でも聞かれよ。解る範囲で答えてしんぜよう。」


「では。三郎様の事で少々…」


「うむ。(はあ?様じゃと?どういう風の吹き回しじゃ?奥方様や林殿同様に若を毛嫌いしておった者が…)」


林「またか!本当にどうしたというのだ?柴田殿。」


「(ええい、こやつ!)三郎様の事を聞きたいだけでございますれば…」


「『うつけ』の… いや、失礼。若様、兄上の事など聞くと耳に毒でござる。あちらの池で鯉でも見て待っておりましょうぞ。」


「うむ。じぃの申す通りじゃ!権六は好きにいたせ!行くぞ!」

と、上手いことに二人が離れた。



平手は林の言動に腹を立て

「何が失礼じゃ!まったく… で、話をもどすぞ!何を聞きたい?」


「はっ!三郎様が勘十郎様くらいの歳から、今の噂のような『うつけ』でござったでしょうか?」


「柴田殿。その頃の若は勘十郎様より遥かに優秀であった。それは間違いない。が…ここ数ヶ月で奇行に走ってしまったというのが正しい。いったい、どうしてしまわれたのかと、嘆いておる。」


「平手様。某が思うに、あの奇行は芝居ではないかと思いまする。」


「芝居じゃと?何を根拠にそのような…」


「今先程、申されたではないでござるか!三郎様は優秀だったと… であるならば!敵を騙すには味方からと申す通りという事では?」

と、その言動に平手は驚き

「(まさか… そのような、お考えが… 柴田勝家か… 戦(いくさ)阿呆の猪武者と思っておったが… ふふふ。)でかしたぞ!柴田殿。」


「はっ!ここは、我らも騙されたふりを致した方がよろしいかと!」


「うむ。大殿にも話しておくとしよう。」


「しかし、この事はくれぐれも、某と平手様や大殿のみのと致しましょう。」


(ほう。面白い!この事も大殿に報告しておくとしよう。)

と、勝家に対し気をよくした平手は笑みを浮かべ

「他に聞きたい事はあるか?」


「はっ!つきましては、某を間者にと思いまする。」


「間者じゃと?」


「はっ!奥方様は兎も角、林に何やら企みがありそうで…」


「企み?」

と、はっと思った平手は

「もしや謀反…」


「いえ、勘十郎様というより奥方様も取り込み…」


「皆まで申すな!(あり得る話じゃ… 奥方様は大殿の跡継ぎを勘十郎様にと思っておる。そこに林殿が…)しかし、事は重大じゃが… 頼めるか?柴田勝家。」


「はっ!神明に誓って!おっと、ご当主のご帰還でございまするな。」

と、三郎が城門を抜けて来たのだった。



つづく。




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