第参話 後編

「誰かと思えば権六ではないか!お?」

と、三郎は勝家から弟に目線を移し

「勘十郎ではないか!珍しい事もあるものだな。」


すると、三郎の声が聞こえた勘十郎は慌てて駆け寄り

「これは兄上!この度は父上から那古屋城を頂いたという事をじぃから聞き及び、参った次第でございまする。」


「ほう。」

と、目線を勘十郎の後方に控えてる林に移し

「これは、お前の入れ知恵か?」


「入れ知恵とは、些か…」

と、発言の途中で平手が

「これ!林殿!若様に無礼であろう!控えよ!」


「ふん。」

と、鼻で返事をした。


勝家「三郎様。某が若… いや、勘十郎様に進言致したのでござる。」


「は?今、何と申した?」


「え?」


「『え?』ではない!わしの事を『様』と呼んだか?」


「それが何か?」

という言葉を聞いた三郎は平手を見て

「若。某も驚きましたわい。」


「(あれだけ毛嫌いしておった奴が、どういう風の吹き回しじゃ?)で、勘十郎よ!その事だけでの事でわしに会いに来たのか?」


「はい!」

と、屈託のない笑顔で答えた。


「ふむ。時に権六よ。何故、勘十郎をここに来る様勧めたのじゃ?」


「はっ!失礼ながら、三郎様は勘十郎を疎んじておるようにお見受け致しておりまする。」


「何を申す!わしがというより、お前達が逆に…」

と、話そうとした三郎だったが、勘十郎をチラ見して

「この話は終いじゃ!勘十郎よ。兄はお前を疎んじてはおらぬぞ。それだけは、信じてくれ。」


「は?申してる意味が分かりませぬ。」

と、勘十郎は頭を傾げた。


「分からぬのらよい!が、祝ってくれた事には礼を申す。もう帰って、母上にも『三郎が感謝していた』と、伝えよ。それと、権六は残れ!」



林と勘十郎を見送ると勝家に視線を移し

「お前… 何処かおかしいぞ?いったい、どうしたのじゃ?」


「おかしくは(よもや、時代を遡ったとは申せぬし…)ございまぬ。それより、また城を空けて城下へ行っておったとか…」


「何じゃ!お前もじぃのように説経か?」


勝家は平手へ視線を送ると

「柴田殿。この調子で困っておる…」


「じぃ!わしは疲れた!権六!今日はもう遅い。部屋を用意させるゆえ泊まって行け!」


「宜しいのでございまするか?」


「くどい!わしはもう寝る!じぃ、後は任せた!」

と、二の丸の屋敷へ入って行った。


勝家「こんな三郎様は初めてじゃ。」


「若は、勘十郎様が来た事を内心喜んでおいでじゃ。それを促した柴田殿にもな。」


「はぁ…(まさか、こんな一面があったとはな)」

と、思う勝家であった。



つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る