第十七話 前編

あれから半年が過ぎたある日、北条氏康の書簡が早霧(勝家)の届いた。


幻庵「大殿は何と?」


「どうやら、上杉憲政・上杉朝定・足利晴氏らが動くらしいとの事だ。」


「三国連合… 兵力は最低でも五万はあると見てよいですな。」


「しかし、所詮は寄せ集めの烏合の衆にすぎぬ。当然、統率は取れておらぬでしょうな。ここはワシが動き、まずは上杉憲政に揺さぶりをかけ、足利晴氏に対しての信用を無くすように仕向ける。なんでも、足利義明が目障りだった晴氏が先代と組んで滅ぼしたと聞いた。もう一つ情報を手に入れたのが、今川義元が関東管領の上杉憲政と内通してるという情報もある。しかし、そこは義元が死んだ事で御和算に成った以上、無視して良いかと。」


「さすがでございまする。(まさか、そのような情報を何処から?やはり、この男ただ者ではないな。)という事は、それを上手く利用して憲政を疑心暗鬼に陥らせるという事ですな?」


「その通りだ。そこで幻庵が育てた、あの草達の出番という事だ。」


「まさか、そこまでお見通しとは… 全く、恐れ入りまするな。早速、上杉憲政の陣営に忍び込ませてみましょう。」


「ワシと最初に会った、小太郎と申す者だな?」


「はっ!あの者なら万が一がないので、成功すると思われまする。」


「大した自信だな。おっと、言い忘れ事がある。その男に足利晴氏の家紋が入った旗を数本、入手して欲しいと伝えてくれ。」


「はっ!そのように手配致しまするが、その旗をどう致すのでござるか?参考までにお聞かせ下さい。」


「なに、この旗を指して、上杉憲政陣営に侵攻するふりをして足利晴氏陣営の方角に逃げる。分かるな?」


「なるほど… 二重に騙すという事で、憲政は完全に晴氏との連携が取れなくするのですな?」


「そうだ。これで、上杉憲政と上杉朝定のみを大殿が対峙し、我らは足利晴氏を、という筋書きで参ろうと思う。どうじゃ?」


「いい案と思いまするが、こちらの兵力は三千あるかないかでございまするぞ?如何にして足利晴氏陣営に辿り着くおつもりでござる?」


「そこは夜戦を行う。ただの夜戦ではなく雨の日の深夜、闇夜に乗じて一気に叩く!(信長様が義元を倒した後、よく話していたあの桶狭間を再現してやろうではないか!)」


「それならば、正確な位置が分からなけ… そういう事でございまするか!(この男はここまで先を読んでおったとは…)」


「足利晴氏を討ち取り、返す刀で背後から足利晴氏の援軍に見せかけ、上杉憲政と上杉朝定を強襲すれば、北条家の勝利が確定致す。」


「敵いませぬな… すぐに、小次郎と大殿に書簡を送らせまする。」

と、壮大な計画を立てるのだった。



つづく。

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