第九話 後編
そして、今川家に織田家の文が届き雪斎が
「殿!待ちに待った返答が!」
と、義元に見せ
「おお!何々…」
『この度は我が城を落としてくれた事を大変遺憾に思う。そして、我が息子を捕え人質にした手腕はさすが、太原雪斎殿という他ない。それに加え竹千代殿との交換で一時とは申せ手打ちにという案も… 織田家としては慎んでその案をお受け致す事を誓約致す。名代として柴田勝家を遣わすゆえ、よしなに。』
と、義元が読み
「柴田勝家とはどういう人物じゃ?雪斎。」
「はっ!我らに何度も煮え湯を飲ませた者でございまする。『鬼柴田』とも呼ばれておる猛将でございます。」
「ほう。そんな奴を名代に?」
と、義元は眉間に皺をよせて考え込んでしまった。
それを見た雪斎は
「何か?」
「いや、そんな猛将をわざわざ遣いに出すというのは、何か考えて…」
「それはあり得ませぬ。猛将は猛将でも、あの織田の嫡男同様の阿呆でございますれば…」
「おお!『うつけ』か!それを先に申さぬか!(ただの猪武者なら先に申せ!馬鹿者が!)」
「これは配慮が足りず申し訳ございませぬ。では、人質の交換を致す準備を致しまする。」
「うむ。(竹千代殿か、氏真とは歳が離れておるが良い好敵手になって欲しいものじゃ。あやつは誰に似たのか、政(まつりごと)や軍議に興味を示さぬ。成る様に成ると母上や雪斎が申すが、それではわしが将来上洛し、天下に号令をかけた後に任せられぬ。そうなる前に…)何としても、この交渉を纏めねばな。雪斎、頼んだぞ!」
「お任せ下され!(何をそんなに思い悩んでおるのか?ご嫡男の氏真様の事であろうが、まだまだ代替わりをする歳でも… 親心という事でござるか… 何にせよ、この交渉で何も起こる事など皆無であろうよ。)」
と、雪斎は思っていたのだった。
その頃、柴田らは騎馬100騎を率いて三河を抜け遠江の曳馬城付近に来ていた。
竹千代「柴田様。少し速度を落としませぬか?」
「は?どうか致しましたかの?」
「どうかではない!尻が痛とうて、かなわぬ!」
「情けない!それでも武士でございまするか?」
「痛いものは痛いのじゃ!その辺の茶屋で休んでいかぬか?」
「致し方ないですな。」
と、勝家は騎馬隊に
「この先で少々休む事と致す。」
「織田のお武家様。ここは危のうございますれば、戻った方が身のためですぞ!」
と、その辺いた小僧に声をかけられた。
「小僧!我らは確かに織田の者で、ここは敵地の真ん中であるが、決して危なくはないが…」
と、目を擦って見開き小僧を凝視し
「ん?(初めて会うた小僧だが、この違和感は何じゃ… あ!)お、お、お前、『猿』か?!」
「は?確かに『猿』の様な顔してまするが… 親切に教えた者に対して… え?」
と、猿に似た小僧が青ざめた。
それもそのはず、勝家にとっては憎い仇で後の羽柴秀吉であったからだ。
勝家は鬼の様な形相となり睨み付けたのだった。
つづく。
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