第十話 前編

「お、お武家様。この猿顔が気に食わなかったなら、お詫びします。」

と、猿に似た小僧が勝家に慌てて謝罪した。


すると、同行していた竹千代が

「柴田様。柴田様!顔!顔に出てまするぞ!」

と、呼びかけた。


「顔に?!おっっと、すまぬ。昔、お前によく似た奴から煮え湯を飲まされてな…」


「なんと、そうでござったか… それにしても、某に似てるとは哀れでございますね。」


「ふ。哀れか…(馬鹿か!貴様の事じゃ!と言っても、厳密に申せばコヤツではないがな…)」


竹千代「柴田様に対して、そのような行為をする輩がいるとは驚きでござるよ。」


「まぁ、昔の事じゃ。それより、小僧。何故、我らにそのような事を話す?」


「某は織田信秀様の嫡男に興味がございまして!」

と、目をキラキラさせて話すと勝家は小僧見て物思いに更け

「(興味じゃと?百姓の子倅の分際で!それはそうと、腸(はらわた)が煮えくり返る事が、今の段階でワシの下に置く事で出世は無くなるはずじゃ。少なくとも、わしの有益になる可能性もある。さて…)」


竹千代「柴田様!ぼ~っと何をしておるのでござるか?」


「何が『ぼ~っと』じゃ!竹千代殿!貴方と一緒に致すな!某は、この猿に似た小僧に興味を抱いてな。」

と、勝家は小僧に視線を向け

「おい!貴様は侍に興味があるのか?」


「へ?いや~、某は織田の…」


「興味があるのであろう?で、ワシの質問の答えに成ってないではないか!」


「いやいや、そもそもでございますよ。『侍に成りたい!』と申しても、その辺に居る百姓の小僧が侍になんぞ、成れる訳がないでしょう?」


「お前は、もう少し頭が良いと思ったが… もう一度、申すが『侍』に成りたくはないか?」


という、二度目の問いかけに

「成りたい!こんな百姓で一生終わりたくござらん!(わしに恥じをかかせて何が面白い?猿顔を詰られる方が余程ましじゃ!)」


「最初からそう申せ!では、わしの下で働け!」


「は?お武家様の下…って、某を取り立てて頂けるので?」


「そうじゃ!おっと、わしは織田家信秀が家臣・柴田勝家じゃ。何、悪いようにはせぬぞ。」


「柴田って、あの『鬼柴田』で?」


「ふふ。この国にも知れ渡っておったか!いかにも。」


「これは、大変申し訳ございませぬ。本当に、雇って頂けると?」


「くどい!」


という言葉に痛く感動した小僧は目に涙を溜め

「有難うございまする!この御恩に報い、一生… 勝家様に仕えたいと思います!」


「一生か!二言はないな?(くくく。わっはっはっは!猿をこき使える日が来るとは、これは愉快じゃ!ずたぼろになるまで使ってやるわ!覚悟しろよ!)」


「はい!神明に誓って!」


それの話を隣で聞いていた竹千代は微妙な面持ちで

「柴田様。そんな百姓の子供を勝手に雇い入れて、大殿や三郎様にどやされるのでは?」


「大丈夫じゃ!今回の褒美で、進言すれば某の下に付ける事は可能じゃ。」


「は?今回の褒美で?(柴田様はいったい何を考えておるのか、さっぱり解らぬ。今回の策が成功すれば、その褒美とこの子供が釣り合うはずが無かろうに…)」

と、驚く竹千代であった。



つづく。

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