第十参話 前編
柴田らがその場から居なくなった事を知らない、今川義元の陣営ではまだ混乱が続いていた。
「何じゃ?!今のは!報告致せ!」
という雪斎の言葉は耳鳴りが酷く、誰にも伝わってなかったが氏真の奇声には皆が気付き、皆が一斉に氏真の方を向くと、夥しい血が散乱していた。
「若様!」
と、真っ先に雪斎が駆け寄り、氏真を気遣ったが氏真は物凄い悲痛な表情で指を指し
「雪斎!雪斎ぃぃ!ち、ち、父上が… 父上があぁぁぁぁ!」
雪斎を含む他の重鎮や兵達が氏家の指した方を見ると、頭のない義元が倒れていた。
雪斎は慌てて駆け寄り
「殿おぉぉぉぉ!な、な、なんという事じゃ…」
と、直ぐに周りを見渡し、織田信広が居なくなってる事に気付き縄を持っていたであろう兵士に
「捕虜の信秀の子倅は何処へ行ったのじゃ!貴様らは何をやって…」
そして、もっと重大な事に気付き
「おい!織田の使者…柴田勝家は何処に?」
朝比奈「雪斎様!まずは若君を安全な館へ!この状況では士気にも差し障りが… それに伏兵が居るやも… ここは危険でございまするぞ!」
「致し方ない!あい解った!貴殿は殿を担いで館まで来い!残りの者は織田の伏兵に警戒しつつ退却致せ!(何が起こったのだ?!何故、殿が… しかも信秀の子倅も使者も竹千代までも消えておるとは… ええい!解らぬ!)」
と、伏兵を警戒しつつ撤退したのだった。
その報は数日を経て、瞬く間に隣国へ知れ渡る。
今、親戚関係である武田家では
武田信繁「いったい何の冗談じゃ!兄上!如何致しましょうや!」
晴信(後の信玄)「わしも驚いておる… まさか義元殿が討たれるとはな。これでは信濃侵攻で援軍を期待出来ぬではないか!勘助はおるか!」
「ここに!」
「すぐさま、詳細を探れ!本当に、義元殿が討たれたか!それと、どの勢力が絡んでおるかをじゃ!」
「はっ!直ちに!」
と、山本勘助はすぐに駿府へ向かった。
晴信「この報は、北条へも流れるであろうな… どう出る?氏康。」
その相模の北条家では…
北条綱成「これは好機ですぞ!殿。この隙に興国寺を完全に抑え、北の上杉へ備えるのが上策かと!」
北条幻庵「そうですぞ!義元が居ない今こそ好機!倅の氏真は京被れの阿呆でござる。士気は落ちておる上、統率も取れずにいましょうし。」
「いや、まぁ待て!まずは本当に死んだのか風魔の報告を確かめてからでも遅くはない。本当に義元が死んでいたら、武田をけん制しつつ上杉に備えればよかろう。」
そして、当初の策とは違ったがそれを命令した信秀は驚き
「その報告は誠か!いや… これは雪斎の策略やも知れぬ。それより、権六は何処じゃ!」
「それが、未だに行方知れずで…」
「ええい!探せ!直接、真意を確かめなければならん。本当に義元を討ったとなると、この現状をどう生かすか思案せねばな…」
と、思う信秀だった。
つづく。
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