第五話 後編

勝家と土田御前は勘十郎が厠から帰って来るのを待っていた。


土田御前「それはそうと、三郎様の様子はどうでございましたか?」


「そうですな。相変わらずといったところでございまする。」


「そうですか…(やはり、勘十郎様に跡継ぎを任せるように進言致す他ないのかも知れませんね。)」


「そう落胆しなくても良いと思われますぞ。」

と、勝家は話を繰り出す。


驚いた表情の御前は

「何を申しておる?三郎様は『うつけ』と巷で評判の…」


「そうソレでがざいまする!聞くところによると、三郎様は勘十郎様の歳に神童と呼ばれておったと。それが、何に思ったか奇行に転じたのかと奥方様は思った事はございませぬか?」


「今更何を申しておる?今は今じゃ。『うつけ』という事こそ、今の三郎様では?」


「ではお聞き致しまするが、誰からその噂を聞いておいででしょうか?」


「林殿からに決まってまする。」


「それは大殿の意に反する行為でござるぞ。自分の目、耳で確認致せという…」


「それは分かっていますが、林殿は勘十郎様の傅役であり、殿の御父上から仕えてる重鎮でございます。その御方から聞いた事自体なにか変でしょうか?」


「では聞きまするが… 仮に三郎様が本当に『うつけ』なら、次期当主は勘十郎様の方が良いと誰でも思うところでござるが、勘十郎様のお歳を考えると後見人が必要となりまする。そうなると、後見人は当然…」


「林殿で…」


「そこでござる!某が懸念しておるのは!果たして、林殿が後見人を務めると大殿に従ってきた尾張国の豪族は反旗を翻してしまったらどう対処致しまする?もっと怖いのが本家が出張って、斯波様のような第二の傀儡が生まれるのは必定ですぞ!何故、それが分からぬのでございまするか!」


そこに林が来て話の間に入って来て

「あいや待て!権六!何を申しておるのだ!失礼にも程があるではないか!」


「ちっ…」

と、舌打ちした勝家は気を取り直して

「これはこれは林様ではございませぬか。そんなに慌てて如何致したのござるか?」


「慌ててじゃと?そんな事は今はどうでもよい!それより、貴殿がわしを貶めようと、奥方様に申し聞かせておったのはどういう事じゃ!(猪武者と思っておったが、とんだ食わせ物であったか…)」


「某は本当の事を申したまで… それに追々勘十郎様を担ぎ上げ、三郎様と争う事になれば如何致すのでございまするか?(やってしまったも知れん。平手様に何と報告すれば…)林様に味方する者は一人もおりませぬぞ?」


「何を申すかと思えば… わしが若様を担ぎ上げるじゃと?馬鹿も休み休みに申せ!」


「では、何故奥方様に三郎様の噂を聞かせ、三郎様の悪い印象を植え付けたのでございましょうや?」


「植え付け?そもそも、貴様はいったい何を申しておる?」


「何を?それは貴殿の胸に手を当てて聞いてみるがよかろう!今まで、某が見聞きした事が嘘偽りでなければ、当然申し開きも出来るでござろう?」


林は歯をギリギリと成らし

「筋肉の頭を持つ猪武者を演じておったか!卑怯ではござらぬか!これではわしの計画が…」

と、話した時…



つづく。

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