第六話 前編

時を遡る事数刻…


那古屋城をいつものように飛び出した三郎は、どうしても解せぬ事で頭が破裂しそうであった。


(どうしても分からぬ。あの権六が勘十郎にしか尻尾を振らない奴が、何故わざわざワシに勘十郎を会わせるという事になったのじゃ?いくらワシが父上から城を頂いたとしても、わしの噂を耳にしておるはずじゃ!それにもっと解せぬのは、ワシの事を『様』と呼びよった事じゃ。まさかとは思うが、ワシの計略を知っておる?そんな事はあり得ん。)

とか思っていたら、いつのまにか勘十郎の城である末森城に着いてしまった。


門番「これはこれは三郎様ではございませぬか?護衛の者も付けずに…(やはり、噂は本当であったか。)」


「ちと考え事をしておってな。それより、城内が騒がしいようじゃが、如何した?」


「そう言えば、変でございまるな。某は城内へ入れぬので、中の様子を三郎様にお願い致しまする。」


「それは構わぬが、勝手にワシを入れて大丈夫か?」


「大殿の嫡男であらせられる三郎様ですぞ?入ってよいに決まっておりまする。では、すぐに開門致しまする。」

と、三郎が中へと入っていった。



そして、母親と林、それに勝家が言い争いに成ってるのを見てとると、林らから見えない場所へ行き、話の内容を聞いたところ

(林は母上を巻き込み勘十郎を担ぎ上げてとういうのは見て取れ知ってはおったが、まさか権六がここまでの知恵者だとは思わなんだわい。しかし、ここまで露骨な発言を申すとは、林も終わったな…)

と、思った三郎が間に入って

「いい加減に致せ!林!お前の企みは大体わかっておったが、ここまで露骨に申せば『うつけ』でも分かる。」

と、突然現れた三郎に驚く三者。


林「何故?!『うつけ』がここに?」


土田御前「三郎様?!」


勝家「若?!」


「お前達の会話を聞いていたが、林よ… ワシ本人に向かって『うつけ』とは… 何様のつもりじゃ!ワシは父・信秀の嫡男である三郎であるぞ!『うつけ』は貴様じゃ!馬鹿が!それに、母上も母上じゃ!林の口車にまんまと乗り、ワシを貶め勘十郎を父上の跡継ぎにしようなどと… 某は情けない。」


その発言に林は言葉を失い、土田御前というと

「そもそも、三郎様がそのような噂を立てられるような行いをしているのが…」


「いいえ!それは父上の考えに反す言い回しですぞ!自身の目と耳を第一に信用しろと、口を酸っぱくして毎日申しておったのを、お忘れでござるか?」


「それは柴田殿にも言われましたが… わたくしは悔しいのです!貴方を生んだ時から…」

と、泣き崩れてしまった。


そこに厠から帰って来た勘十郎は兄・三郎に母がいじめられてると思い

「兄上!母上に狼藉は許しませぬぞ!」

と、脇差を抜いて三郎に斬りかかったのだった。



つづく。

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