第六話 後編
勘十郎が脇差を抜いたと同時に、勝家はすぐさま三郎と勘十郎の間に入り
「成りませぬ!」
と、勘十郎の刀を手刀で薙ぎ払い
「勘十郎様。刀は直ぐ抜くものではありませぬ。大殿の教え通り『見る』までは良かったでござるが、『聞く』を怠っては… もっと洞察力を磨きなされ!」
「しかし… 分かったのじゃ。」
と、勘十郎は兄・三郎に対し
「すまかったのじゃ。兄上…」
と、謝罪した。
そして、勝家は林へ視線を送り
「林様、何がそんなに嬉しいのでござる?」
「嬉しいじゃと?」
勘十郎「じぃの顔が笑ろうておる…」
三郎「そうであるな。おい!林よ。あわよくば、ワシが勘十郎に斬られる事を望んでおった。そういう顔じゃな。違うか!」
林は動揺し
「そ、そんな事は… はっ!?」
と、土田の表情を咄嗟に見て
「奥方様!これは違うのでござる。」
「林殿… いくら、わたくしが勘十郎様を可愛がっておるにしても、三郎様もお腹を痛めて産んだ子供ですよ。それを…」
その言葉を聞いた三郎は
(母上… 某の事が嫌いではなかったのか… で、あるならば何故?)
と、思った。
勝家「林様。これだけの者が見ておる中で、言い逃れは出来ませぬぞ?某は大殿にこの事を報告致すゆえ…」
「ま、待て!わしは勘十郎様を担ぎ上げ、裏で織田家を操ろう… いや、謀反を企てたいとも思っておらぬ!」
と、涙目で周りに訴えたが勝家は
「語るに落ちたとはこの事でござるな…」
「何?!」
「裏で操る?(前世と申してよいかは分からぬが、以前はここまで露骨な阿呆ではなかったがな。)まさか本当に、そのような事を思っておったとは…」
三郎「林!貴様… ワシと勘十郎を仲違いさせ、そして母上までも… 許せぬ!」
「何を言う!そもそも、お前が『うつけ』などと噂させなければ、こんな事にならなかったのじゃ!」
土田御前「まさか、筆頭家老まで登り詰めた御方が… それに三郎様。わたくしが勘十郎様を寵愛しておったのは、三郎様が生まれた時の話でございます。その時、嫡男という理由で色々あって、すぐに引き離されてしまったのです。でも、勘十郎様は次男であったため引き離される事なく… と、今に至るのです。」
三郎「そのような事が… しかし、わしは断じて『うつけ』ではございませぬ。全ては織田家、いや分家の分家にあたる織田家が世間に舐められないための戦略の一環なのでござる。」
勝家「(やはり!若、いや信長様は戦の天才じゃ。以前のわしは、まさに猪武者であったと穴があったら入りたいわい。この事で、猿との差が生じたのだと今思う。)やはり、そうではないかと平手様とも話しておったのでござる。」
三郎は驚き
「何?!お前… いつから?」
「さて… 某は三郎様が幼少の頃、神童と呼ばれておった事を知っておる身。急に奇行に走るとは到底思えず。その考えに至った次第でござる。ちなみに平手様には、昨日の那古屋城へ行き、三郎様が帰ってくる前に話して納得して頂いたところでござる。」
「なんと… 面白い!」
と、そんな会話を聞いていた林は自分に後がなくなった事を悟り、凶行に踏み切ったのだった。
つづく。
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