第弐十話 後編
早霧(勝家)らは成田長泰が守ってる上野の忍城と、北条氏康と上杉朝定が戦ってる館林城西北の間の街道を抜け、厩橋城の数里手前に陣を敷いていた。
政繁「殿、まだ全兵が到着しておりませぬ。」
「分かった。ワシは上杉憲正に面が割れておらぬゆえ、先に向かう事とする。」
その言葉にさすがの綱景も
「お待ち下され!いくらソレを携えておいても、無謀ですぞ!」
「そうか?ワシは行けると思っておるが…」
「いやいや、貴方様は仮とはいえ、我らの殿でございますれば…」
「分かっておる。そういう北条家家臣を信じての事だ!後の手筈は頼んだぞ!」
「敵いませぬな… では、合図をお待ちしておりまするぞ!」
と、綱景に見送られ早霧は上杉憲正の陣営に向かって行った。
『生前のワシでも躊躇するような事を、よくもまぁ…』
と、呆れる経久に早霧は平然と
『某の策を説明したであろう?今の憲正は、もう公方がこの世に居ない事を知らぬし、戦前に小太郎が仕掛けた罠で…』
『分かっておるわ!ただ、お前が直接向かわなくてもと思っただけじゃ!その優秀な草に任せればよいではないか?』
『その草の小太郎は別件で動かせておる。それに、ほぼ血を流さず勝てるであろう戦に、なにゆえ他人に武功を譲れらねばならんのだ!』
『武功は武功であるが、お前はそもそも仮の城主で織田家の者であろう?おかしくはないか?』
『それは分かっておるが、恩という物はすぐ返すに限るからな。』
『恩か…(ワシには分からぬ事じゃ。人を貶める事しか考えて来なかったワシにはな… しかし、死んで学ぶか… 変な気分じゃわい。)好きにすれば良いわ!』
と、話していると上杉憲正の陣営に到着し公方の家臣と偽って上杉憲正に目通りを求めた。
憲正の側近である大谷休泊は公方の家臣の持っていた旗を見て
「その旗印は間違いなく足利家の者だが?援軍の要請にしてはおかしい… そう思いませぬか?殿。」
「お前の申す事は分かるが、訳があるのではないか?」
「はぁ… 殿がそう申すなら…」
と、休泊は公方の家臣に憲正への拝謁を許可した。
「この度は誠に…」
と、平服し頭を下げた状態で話し始めたが憲正は
「前置きは良い!それより、貴殿は何故ワシのところに援軍の申し出に来た?」
「はっ!事の経緯をお話し致しまする。」
と、話して聞かせた。
「ほう。まさか北条の子倅が晴氏殿に奇襲をかけて来たとはな… しかも、氏康も朝定殿にほぼ同時に仕掛けていたと…(氏康めぇぇぇ!)」
「どうか、某の殿に援軍をお願い致しまする。」
「馬鹿を申せ!氏康が攻めておる朝定殿の方が先じゃ!お前は知らぬと思うが、戦前に何を血迷ったか攻めて来おったのじゃ!」
「え?」
と、白々しく驚き
「まさか、その様な事が… 申し訳ありませぬ。」
「お前が謝ったところで致したないであろうが!であるから、北条の子倅ごとき自ら対応致せと申しておけ!」
「それは申しつけておきまするが、この夜道に帰るのも辛いでございますれば…」
「なんと?!さすがは公方様の家臣と言ったところか…」
「え?」
「いや、こっちの話じゃ。あい分かった!隣の陣幕で夜が明けるまで休んでいかれよ。」
と、まんまと早霧は上杉憲正の陣営に潜り込んだのだった。
この後、どうなるかも知らずに…
つづく。
IF... 織田信長 外伝:柴田勝家 ★華瑠羅★ @canami
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