第弐十話 前編
勝家は何もない場所に立っていた。
そこにまたあの声が聞こえ
『お前は実に面白い!そこで、お前が尊敬しておる武将を頭の中
に憑依させてやろうと思って、ここに来てもらった。』
『はぁ?』
『「はぁ?」ではない!学習しない奴じゃ。お前の考えておる事を手助けしてよろうという配慮じゃ!有難く思え。ではな!』
「ま、また、そんな訳の分からぬ話を急にって、おいっ!待たれよ!!」
次の瞬間、耳元で
「権六!おい、権六!気は確かか?」
と、信広の声が聞こえ勝家は我に返り
「お?信、いや広信、どうしてここに?」
「幻庵様と家康に諭されてな… 公方の首を取ったと兵伝いに聞いて、幻庵様に早霧を追いたいと懇願して小荷駄隊の後方から来た次第じゃ。」
「それ良い事ですな。(こんな戦で命を賭けたくないと申しておった奴が…)それはそうと、某は何時呆けておった?」
「は?(何を言っておるのだ?)」
「いや、忘れろ。これより、厩橋城方面へ向かおうと思って行軍中だ。」
「厩橋?まさか、氏康様と合流しないで行くつもりか?」
「そうだ。」
という言葉に信広は驚き
「馬鹿か?少なく見積もっても、我らの五倍はある兵力差があるというに!(やはり、いつもの猪武者に成ってしまったか?)」
その発言に激怒した政繁は
「後から来て殿に対して、その言いぐさは何じゃ!ここの大将は北条早霧様だぞ!」
「その通り!大殿の意向で貴殿を匿っておるのを、もう忘れたか?」
と、綱景にも捲し立てられ信広は
「わ、忘れてはございませぬ。某の配慮が足りず申し訳ございませぬ。以後、気を付けまする。」
と、謝罪したものの政繁が
「『以後、気を付けまする。』ではない!するなと申しておるのだ!解らぬののか?」
それを見かねた勝家が
「広信も分かっておるゆえ、それくらいでよかろう。それより…」
と、言いかけた時にどこからともなく声が聞こえて来て
『おい!貴様がワシを尊敬しておるという奴であっておるか?』
「は?」
『声に出すな!心で答えよ!』
『(心でって… こうか?)あの声の主が話しておった事か?』
『そうじゃ!おっと、ワシの名は尼子経久と申す。と、申しても… とうの昔に死んでおるがな!わっはっは!』
『なんじゃと?!あの謀略の鬼と恐れられていた、あの?』
『ほう…(ワシが死んでも、それ程恐れられておるとはな…)で、貴殿の名は?』
『今は諸事情で名前を変えておるが、柴田勝家と申す。某は貴殿の残したとされる文献を死ぬ前に読んでおった。』
『は?死ぬ前とはどういう事じゃ?』
という経久の言葉に勝家はこれまでの事を説明した。
経久『そういう経緯だあったか… しかし、この奇妙な出来事を素直に受け止める器量は…』
『経久殿も大概でござるがな!くくく…』
『ふん。まぁ何にせよ、あの御仁に気に入られたのが運の尽きじゃ。諦めよ。』
『あの御仁とは、あの声の?』
『うむ。これから合戦が起きる前後で、助言を与えるので今後供よしなにな。』
『こちらこそ、お願い致す。』
と、話は終わったが傍に居た信広が
「早霧様!早霧様!早霧様!また呆けてましたが?本当に大丈夫でござうか?」
と、心配そうに声をかけられ
「おっと、やはり寝ずの行軍は不味かったかと思う。すまぬ。」
「どんな策を用いて望まれるのか、行軍しながら教えて下され。」
と、勝家は信広に話して聞かせるのであった。
つづく。
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