第十壱話 前編

柴田らは雪斎を追い、義元の居る陣へ向かって移動していた。


竹千代は勝家の馬に同乗していた。


「柴田様。どう致すのでございまする?当初の策では、もはや…」


「それはそうじゃが、これは好機と言えば好機!この際、雪斎の首などどうでもよい!そう思わぬか?竹千代。」


「まさか?!」


「そのまさかじゃ!(今川義元を討てば、情勢は一気に変わる!)」

と、柴田の表情を見た竹千代は

「柴田様!冷静に成って下され!それはいくらなんでも無謀すぎますぞ!」


「わしは冷静じゃ!それにな逃げる手立ても考えておる。この三郎様から貸して頂いた火縄銃があれば…(ん?これは?!よく見なかったが、単発か… しかし、何故この時代にこの銃があるのじゃ?訳が分からぬ。しかし、これに賭けるしかないのもまた事実。)」


「柴田様!また、某のようにぼ~っとしておりまするが?」


「おっと、すまぬ。これはのう、黒い筒から恐ろしい速さで鉛玉が飛び出て、対象物を殺す武器じゃ。」


「は?そのような武器、聞いた事がありませ…(そういえば、以前に三郎様から聞いたような…)」


「何じゃ?お前も人の事を言えぬな!わしに任せておけばよい!(それに逃げる場所は尾張ではないからの… まだ三国同盟が成られておらぬ今なら…)」


「そこまで申すなら、お任せ致しまする。」

と、話してるうちに義元陣営に到着した。



「ささ、こちらへ。」

と、雪斎の指示に従い今川義元に拝謁する。


今川家の層々たる顔ぶれが並び、兵の数も充実していた。



「おお!遠路はるばる大儀であった。ささ、もっと近こう!」

と、義元が話すと朝比奈泰朝が義元と勝家の間に入り

「殿!相手は、あの『鬼柴田』ですぞ!そのように近付いては危のうございまする!」


「大事ない。こちらには信広殿が居る!何を無粋な事を… 下がれ!それに竹千代殿が見えぬではないか!」


すると、泰朝が不服そうに下がり義元が竹千代を凝視し

「そちが今は亡き松平家の嫡男かえ?そのように平服しなくてもよいぞ。もっと顔を良く見せてみよ!」

と、竹千代に要求した。


竹千代は勝家の顔を見て小声で

「某はどうすればよいのじゃ?」


「素直に、義元殿に従い面を上げられよ。」

と、勝家の言に従った。


義元「おお!なんと凛々しい… 雪斎。こやつは、我が今川家に良きものを齎すに違いない!そう思わぬか?」


「はっ!某も忙しくなるというものでござる。」

と、話は進んでいたが今川家の嫡男である氏真が不機嫌そうに

「父上。このような小僧に目をかけるとは、如何なるものかと思うのですが?」

と、難色を示すのだった。



つづく。




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