第七話 後編

信秀「では何か?秀貞が謀反を企てておると、そう申したいのか?」


「いえ、そこまでは… 疑いがあると… それに、奥方様をまるで大殿が呼ぶような物言いだったり、自分の事を『わし』だのと…」

と、侍女はビクビクしながら信秀の顔色を伺う。


「兄上。三郎の噂は某も聞き及んでおりまするが、それをわざわざ土田殿に申すというのも不自然といえば不自然なれど、さすがに謀反まで企てるとは到底思えませぬぞ。仮にも、我ら父上の代から仕えていた家臣が…」

と、身内の諍いとの事で信秀の弟・信光も呼ばれていた。


「うむ。お前の、ただのやっかみではないか?」


「いえ。その後、慌てて末森へ向かわれらたのは、どう説明が…」


「いくら三郎の乳母であるお前でも、無礼な物言いは控えい!」

と、信光は侍女に一括し信秀に視線を移し

「とは申せ、侍女の言い分も一理ある。しかし、本当に跡継ぎを三郎にしてよいのか?兄上。」


「お前まで… 世間で『うつけ』と噂されようと、わしの跡継ぎは三郎しかない!(信光は知らぬが… 政秀からの文では、あの噂は三郎の戦略らしいとの事。)」


「兄上がそこまで申すなら、もう申すまい。しかし、奥方様の勘十郎贔屓も困ったものじゃ。このままでは将来、本当に仲違いをする事になるやも知れぬな。」


「その時はその時じゃ。」

と、話していたら何やら騒がしいのに気が付いた信秀は

「どうかしたのか?」


一家臣「それが、末森城で林秀貞様謀反!」



そこの事に一同は驚いた!



信光「なんじゃと?!」


信秀「まさか、現実の物になるなどと… で?どうした!末森城に篭城でもいておるのか?」


「いえ!柴田勝家様に討ち取られた模様でございまする!」


信光「おお!さすがは鬼柴田じゃ!そうであろう?兄上。」


「うむ。しかし、何がどうなったか皆目分からぬ… すぐに末森へ戻って、古渡城まで来いと伝えよ!」


「はっ!あの…」


「何じゃ?」


「それが、三郎様も同席しておりまして…」


「何じゃと?三郎が何故…(解せぬ事ばかりじゃ!)ええい!三郎も来る様に伝えよ!」


「それが… また、いつもの病気が…」


信光「またか!まったく、何を考えておるのだ?」


「そう申すな。アレは治らん…(信光には悪いが、そういう事にしておくしかないな。)分かった。三郎以外、来いと伝えろ!」


「はっ!心得ましてございまする。」

と、家臣の一人がすぐさま末森城へ向かった。



信秀「信光… あやつはいつから、そんな野望を抱いておったのであろうな?(勘十郎の傅役にした、わしの落ち度やも知れぬな。)」


「あの噂を聞いた時に思ったのでは?あやつは政秀と何かと張り合っておったし… 」


「うむ。まぁ、何にせよ。真相を明らかにして、新たに人事の振り分けをせねばなるまい。(しかし、政秀の報告にもあった、権六の変わりようも気になるしな。)」

と、思う信秀であった。



つづく。




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