第十八話 後編
足利晴氏を討ち取るため向かった早霧(勝家)を見送る形となった、家康(竹千代)と広信(信広)。
家康「本当に良かったのでござるか?」
「良かったもなにも、何が悲しくて得にもならぬ戦(いくさ)を?」
「そうはもうされても、北条家に匿われておる恩とかは思わぬのでござるか?」
「それはワシも思うが… 戦だぞ?織田家の戦ならまだしも、こんな戦で命を賭けられぬわ!ワシは織田家の分家でのらりくらり暮らしていけば良いと思っておるのだ。それを…」
「はぁ…」
と、溜息を付いてから真顔で
「では、言わせて頂きまするが!」
「な、何じゃ?(こやつ本当に、あの竹千代か?)」
と、面食らう信広に間髪入れず
「そもそも、安祥城を守り切れない上、敵に捕まるとは如何なる事でございましょうや?普通は、捕まる前に舌を噛み切って自害とか、やりようはいくらでもあったでは?」
「ば、馬鹿を申せ!ワシは死にたくはないのじゃ!」
「そんな事は誰でも思っておりまする!しかし、今や群雄割拠の世の中!それを、『のらりくらり暮らしていけば良い』?三郎様ではありませぬが『うつけ』でござろうが!そんな甘い考えでは、この乱世を生き残れませぬぞ?」
「そうは申すが…」
と、やり取りをしていると後詰で残っていた幻庵が
「お前は本当に武士の子か?恥という物がないと見える。」
「何だと?」
「年下の幼子に言われておる身で何も言い返せぬとは… もし、某が織田の当主ならば、お前を蟄居させ高野山にでも放りこんでおったぞ。」
「言わせておけば!そもそも、ワシは北条家とは縁もゆかりもない身じゃ!それを偉そうに!」
と、逆ギレ気味になって反論しては見たが家康が間に入り
「信広様!いい加減にしなされ!反論すればする程、惨めでござるぞ?信秀様の顔をも潰すおつもりでございましょうや?」
その言葉にぐうの音も出なくなった信広は肩を落とし黙り込んでしまった。
幻庵「某も、少し大人げなかったと反省しておる。(家康殿は大変でございまするな。こんな阿呆のお守は辛かろうて…)」
「反省?そんな事はしなくて良いと思いまするぞ!自分の非を素直に認めるのも必要でござるし、北条家というか氏康様に恩を受けた以上、『こんな戦で命を賭けられぬわ!』とか申しておる内は、どうしようもありませぬ。」
と、家康は広信を見て
「意識改革をしなされ!解りまするうか?こんな事で落ち込んでは信秀様に再び会う時、胸を張れますまい?今からでも追いかけて武功を立てて参られよ!」
その言葉に信広は我に返り
「そ、そうじゃな… ワシが悪かったと思う。すぐに勝、いや早霧様の後を追うぞ!幻庵様!某に馬を!」
「その意気は良し!が、今からでは前線には間に合わぬ。そこで某の小荷駄隊が早霧様の後方におるゆえ、その指揮を任せたい。やってくれぬか?」
「はっ!この小田広信が身命を賭して、そのお役目を承りまする!では御免!」
と、晴れやかな表情で馬に乗って駆けて行ったのだった。
つづく。
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