第十四話 前編
勝家らは、何とか駿河を抜け伊豆に入る事が出来、その先の相模へと続く街道の茶屋で、おかしな者と出会った。
「もし、そこのお武家様。不躾ながら、その訛りは尾張から来た御方でしょうか?」
と、変な女が勝家に声をかけて来て
「いかにも!それが如何致した?」
「いえね、今川のお殿様が討たれたと、もっぱらの噂で…」
「え?!もうそんな噂が?」
という信広に対して、その真横に座っていた竹千代が小声で
《あっ!何を口走っておるのでござるか!》
「あっ!これは失言で…」
すると、今度は小声でなしに
「このたわけが!」
「何じゃと?わしに対してそのような口を!人質の分際でぇ!」
「は?阿呆な発言は兎も角、それは貴方もそうでござったのでは?おっと、あなたの場合はもっと悲惨でしたな。」
と、薄ら笑いを浮かべて信広を煽ると
「貴様ぁぁぁ!わしは本筋ではないにしても…」
この状況に勝家が
「このうつけめが!」
と、怒鳴りつけた後、女の方に視線を変え
「子供の戯言ゆえ、聞き逃して下され。(こやつ… 何処かの密偵であろう。それを分からぬとは… 雪斎や義元が見込みがあると申した竹千代も阿呆(信広)と同じじゃわい。)」
「いえいえ。(まだ噂になっておらぬ情報を何故知っておるのだ?怪しいな。)その馬を見る限り何処かの家中の者と、お見受けします。差し支えなければ、教えて頂けませぬか?」
勝家は渋い表情で竹千代と信広に一瞬目をやり
「(こやつらのせいで… さて、どうしたものか…)致し方ないですな。某は尾張の一介の豪族に過ぎぬ者で、名は柴田勝家と申す。この者達は某の小姓でございまする。」
その言葉に竹千代達は小声で
《小姓とは心外ですぞ!》
《そうじゃ!》
《やかましい!話を合わせませ》
変な女「そうなのですね。(柴田勝家?たしか、鬼柴田と異名で名をはせた清州織田の分家の… この馬に、その太刀… 間違いないな。)」
「こちらも名乗ったのじゃ。そちらも名乗るなが常識では?北条家の間者殿…」
と、勝家は自分の太刀に手をかけた。
「ばれておったのすね?ふふ。」
と、着ていた着物を自ら剥ぎ取り、黒装束に身を包むと
「某は北条家の『目』『耳』である者。しかし、名は明かせぬ。」
「ほう。やはりな… あの噂の話から雰囲気が変わったと思っておったが、まだ噂になっておらぬ事柄であったゆえか?」
と、変な女は驚き
「まさか、そこまで見抜いておったとは恐れ入る… では、改めてお尋ね致すが、今川義元が何者かに…」
と、途中で勝家が不適に笑ったので話を辞めた。
「貴殿の知りたい事は分かっておる!某が義元を殺した張本人でござるよ!」
と、変な女はその意表を突いた突拍子もない発言に開いた口が塞がらない程驚いたのであった。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます