第四話 後編

次の日朝


「じぃ!じぃはおるか!」

と、けたたましい声で呼ぶ三郎。


「これにおりまする!そんな大声を出さなくても…」


「やかましぃだぎゃ!それより、権六はどうした?」


「今朝方、末森へ帰りましたぞ。」


「何?!もう帰ってしまったのか! (ええい!役に立たない奴じゃ!色々と話す事もあったというに… しかし、何故わしにわざわざ勘十郎を?うーん、わからん!)もう良いわ!」

と、三郎はまた馬に乗って城下へ走って行ってしまった。


それを見た平手は慌てて

「若!また!」

と、追いかけたが馬には勝てず地団駄を踏むのだった。



その勝家はというと、那古野場へ泊まって事で要らぬ疑いを林にかけられようとしていた。



「柴田殿。昨日はあのまま帰らず、三郎殿や平手様に何を吹き込まれた?」


「何を侵害でございまするな。某は勘十郎様をもって弟して…」

と、話そうとしたが断ち切られ

「建前とかはよい!わしの計… おっと(危ない危ない。いくら猪武者でも軽はずみな事は申せぬ。) 」


「何か?」


「いや、こっちの話しだ。それより、三郎殿は勘十郎様の事をどう思っておった?」


「それを聞きたいなら、聞きたいと申せばよいでは?」

と、勝家が話すと苦飯を食べた様な表情を浮かべ

「わしの問いだけ答えればよいのじゃ!」


「はぁ… (わしを馬鹿だと思っておるゆえの発言か… しかし、これはこれでよいな。)三郎様は、勘十郎様がお祝いに来られた事に大層喜んでおられました。なので、良い感じではないかと。」


「良い感じじゃと? (これは不味い… あの阿呆に気に入られるのは避けねば、わしの計画が根底から狂ってしまいかねん。これは計画より早く、奥方を落とさせねば!)」


「は?何か?」


という勝家の発言に顔を引きつらせて苦笑いし

「いや… そうじゃな。うむ。良い傾向であるな。」


「でございましょう?某、奥方様に伝えて参りまする。」


「いや、わしが伝えておこう。それより、かねてより申していた勘十郎様に刀の扱いを教える時間ではないか?」


「そうでございました!若様は庭にお居で?」


「うむ。『権六はまだか?』と、申しておったのを忘れておった。すぐに向かわれよ。(危ない危ない。あ奴を奥方に合わせて、あの阿呆の事で良い印象を植え付けられては、たまったもにではないわ!)」


「本当でございまするか!では、某は是にて失礼致しまする。奥方様に宜しくお願い致す。」


「うむ。早く行かれよ。」

と、林は勝家が二の丸の奥方の屋敷へ向かわず、一の丸の庭へ向かったのを見て

「馬鹿め… わしの苦労が台無しになるところであったわ。」

と、内心『ほっ』としたのだった。



つづく。

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