第四話 前編

平手「若も行ってしまったし、今後の事をすり合わせねばな。」


「でございまするな。どうも林殿は奥方様に三郎様の悪い素行を風潮しており、それを信じて勘十郎様に教え聞かせておるようなのでございまする。」


「うむ。それは見て取れる。しかし、あの林はわしと同じく先代から仕えておる重鎮じゃ。一筋縄ではいかぬ。」


「はっ!某の推測では、林殿自信が不利になる事を見越して、勘十郎様に全ての責任をなすり付ける所存かと思っておりまする。」


「ほう。(こやつ、本当にあの権六殿か?猛将で、しかも知性にも優れておるとは… やはり、見方を変えるしかあるまいな。しかし、これは良い!林の奴、権六殿が猪武者と知った上で、露骨に奥方様へ若の不印象を植え付けておる。その権六自身が、相当な切れ者とは知らずに…)しかし、確たる証拠が必要じゃ。」


「某が上手く勘十郎様から情報を引き出せば… あるいは、次の軍評で勘十郎様を大殿に引き合わせ、そこで勘十郎様自身から話させられれば…」


「うむ。それは願ったり叶ったりではあるが… 林殿を搔い潜り奥方様を説得するのは容易ではないぞ?」


「いえ。某の見立てでは… まだ幼い上、知性にも欠けておる今なら『ポロ』っと、話すよもしれませぬ。」


「奥方様を解せずにという事か?」


「はっ!某に秘策ありでございまする。」


「秘策とな!面白い!やってみよ!わしは大殿へ内密に報告しておくとしよう。大殿は跡取りを若に絞っておる事もあるゆえ、奥方様とは意見が合わない事もあり、上手く林殿を炙り出す事も出来るやもしれぬな。」


「勘十郎様に入らぬ知恵を林殿や奥方様から付けさせる前に手を打ちませぬとなりませぬ。主に三郎様のあの噂を…」


「うむ。しかし、あの噂が流れるのは止められん。」


「三郎様の肝入りでございまするし… 止める事は逆に不味いでございましょう。隣国に流れるように我らが風潮すれば、あるいは…」


「おお!それは良い考えじゃ!より速い段階で噂が広がれば…」


「はっ!尾張の織田信秀の嫡男は『うつけ』で、扱い易いとなれば斎藤家か今川家が婚姻を持ち掛けて来る。もしくは我らが持ち掛ける事も容易になるかと。」


「婚姻じゃと?斎藤家と今川家は、我らと戦(いくさ)をしておるのだぞ?しかも、今川は兎も角… 斎藤とはあの『蝮』じゃぞ?」


「某も今川より『蝮』と同盟を結べば、後顧の憂いが無くなり今川に専念できると思っておりまする。」


「話が飛躍しすぎておる!もし、それが現実の物になれば… まずは、秘策とやらで勘十郎様を軍議に連れて行かねば話にならん。」


「それに関してはお任せ下され。それと、平手様は草の者を隣国に放ち、あの噂の拡散もお願い致しまする。」


「(このわしをこき使うとは…)わかった。その変わり、しくじる事はまかりならんぞ!」


「はっ!その時は全責任を負いまする。」

と、勝家は自信に満ちた表情で平手に威勢の良い担架を斬ったのだった。



つづく。

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