第9話 ボス戦
レベリングを始めておよそ3時間。
莉音の予想通りレベリングが終わり、いよいよボスに挑む準備が整った。
「ここか…立派と言えば立派だけど、しょぼいね」
「どっちなの?」
「ん?しょぼい」
「しょぼいんだ…」
私達が今いるのは街の中央にあるお屋敷。
ただ、お屋敷と言ってもそれほど大きくて立派なものではなく、探せば割と見つかりそうなくらいの家だ。
そんなお屋敷の中にボスモンスターが居る。
気を引き締めないとね。
「じゃあ、行こうか」
気合を入れなおすと、私は莉音とともにお屋敷の中に入る。
中は予想通りそれほど広くなく、見た目相応のちょっと立派な家くらいの感覚。
間取りを知っている莉音にナビをしてもらいながら、他の部屋を無視して最上階である3階へ。
そこは一つの大きな部屋になっていて、扉がいかにもって感じだ。
「この奥に…」
「うん。さあ、気張っていくよ!」
そう言って莉音は扉を蹴破るように勢いよく脚で開ける。
そして中に突撃した。
私もそれに続くと、中にはボロボロの――しかしそれまで見てきたボロ布のような服とは違う立派な服を着た、ミイラが居た。
「あいつがこのロストタウンエリア5のボスモンスター。名前は『小さな王』」
「…確かに、今までのモンスターとは一味違う。なんというか…気配が――」
「危ないっ!!」
莉音の警告にハッとした私は、小さな王がこちらへ走って来ている姿が見えた。
急いで構えると、小さな王は細い剣……レイピアと言う西洋風の剣を抜いて腕を引く。
(レイピア…アレは刺突攻撃が厄介。刺されたらこの隙間だらけの鎧を貫かれる…!)
骨装備の弱点だ。
骨を糸で繋いだだけの鎧だから、隙間が多い。
隙間を狙って攻撃出来るなら着ている意味が全く無くなると言っても過言じゃない。
目の前まで迫って来て、レイピアを突き出してくる小さな王。
その動きをよく見て刺突を紙一重で躱す。
しかし…
「なっ!?」
刺突が終わったところに反撃しようとしたら、伸び切った剣がそのまま私の方へ飛んできたのだ。
しかも最悪なことに、刃が骨の隙間に入りそうな形で。
(くそっ!怪我をする覚悟を!!)
歯を食いしばって全身を硬直させると、レイピアは骨装備の隙間を抜けて私の体を捉える。
「うぐっ!」
鋭い刃が服を切り裂き皮を断ち、肉へ食い込んでくる。
火傷をした時のような激しい痛みが私を襲った。
「小春!!」
莉音が私の名前を叫ぶ。
声の聞こえた方を見ると、莉音は小さな王の背後に立っていた。
「よくも小春を!!」
莉音の振り上げられた拳が小さな王目掛けて振り下ろされ、小さな王は後頭部を殴られて倒れ込む。
私はそれを見て痛みを気合で我慢しながら前に出る。
「お返し、だよッ!!」
全力で小さな王の腹を蹴る。
小さな王はボールのように跳ねてゴロゴロと転がり、壁に激突した。
そして、よろよろと起き上がろうとした瞬間。
「はあっ!!」
小春の全力パンチが炸裂し、それが決め手となって小さな王は動かなくなった。
私はそれを見て安心すると、急に体から力が抜けて立てなくなる。
「小春!!装備脱いで!」
「う、うん…」
『骨』の装備をストレージに収納すると、莉音が私の怪我をした部分に手をかざし、法術を使う。
「応急手当…止血くらいしか出来ないけど、痛いのは我慢してね?」
「…ポーション使う?」
「いや…もっと酷い怪我をした時に使う。このくらいなら、法術である程度治した後に包帯を巻いておけば良いよ」
そう言って、止血を済ませるとハサミで私の服を切る莉音。
講習で習った手当の仕方だ。
怪我をした時、手当をする為には服を脱がないといけないけれど、場合によっては脱ぐのが適切でない事がある。
そういう時は服をハサミで切って患部を露出させるのがいいんだとか?
安物の服が切られ、痛々しい怪我が露わになる。
「ちょっと痛いけど我慢してね」
「ずっと痛いから大丈夫」
「そっか…じゃあ耐えてね」
そう言って、莉音は清潔なタオルで周りの血を拭き取ると、患部に消毒液を吹き掛けた。
「いいっ――!?」
「耐えて」
よーく傷口を観察した後、異物がない事を確認して法術を使って時間を掛けて傷を癒す。ある程度傷が癒えたらガーゼを当てて、包帯を取り出した。
「これ巻くから、体を起こせる?」
「うん…」
「よし、これも痛いけど耐えてね?」
莉音はキツく包帯を巻き、私の傷を締め付けてくる。
何重にも包帯を巻き、怪我した部分を覆ってくれた。
「よし!これで応急処置は完了と」
「じゃあ病院に行こう。診てもらったほうが良いよ」
「え?行かないよ?」
「はあ!?」
病院に行きたい私に、キョトンとした表情で首を傾げる莉音。
いや、首を傾げたいのはこっちなんだけど?
「やだなぁ…ダンジョンでの怪我は基本的に自己責任だから、ほとんどの保険が適応されないって勉強したでしょ?」
「…だから?」
「病院なんか行ったらたっかい治療費やらなんやら取られて……だから、法術が使える私が時間を掛けて治した方が良い」
「それ大丈夫なの?」
「大丈夫。今日中に治せるから」
……本当に大丈夫なのかな?
信じていいんだよね?
正直不安しかないんだけど…
「そんな事より!今は装備を抽出しないと!」
「そんな事より…?」
「ご、ごめんごめん!そ、そんなに睨まないでよ…」
やっぱり病院に行くべきだね。
お母さんには迷惑をかける事になりそう…
「とりあえずそろそろボスモンスターの死体が消えちゃうから抽出するよ。小春、防具を抽出して」
「はいはい…まだめっちゃ痛いのに…」
莉音はどうしても先に防具を取りたいらしく、怪我人の私のことを急かしてくる。
痛む傷口を手で押さえながら立ち上がり、小さな王の死体に手をかざすと4つの選択肢が現れた。
私はその中の防具抽出を選ぶと、小さな王の死体が輝き、その光が私の体を包む。
すぐに服装に違和感を覚え、光が消える。
「…おお!かっこいい」
「でしょ?」
光が消えた後に自分の体を見ると、まるで中世ヨーロッパの貴族のような服を着ていた。
ちょっと豪華な服のはずなのに、何故か『骨』より安心感がある。
「小さな王から取れる装備の名前は『朽ちた高貴』。防御力プラス15と、石化耐性がある防具だよ」
「こんな見た目で骨より硬いのか…」
「見た目はただの貴族の服だけど、防御は本物だよ」
中々に性能がいい服。
何より見た目がいい。
骨なんかと比べたら数百倍かっこいい。
「じゃあ一旦部屋を出て2回で30分休憩したら再度戦うよ」
「なんで?ねぇなんで?」
「なんでって…私も防具欲しいし、武器も欲しいし…なんだったらドロップアイテムも欲しい」
そう言って、小さな王のドロップアイテムを拾う莉音。
どうやら魔石が落ちたらしい。
「私怪我してるんだよ?まだ全然治ってないよ?」
「大丈夫。怪我はこの30分の休憩で8割治せるから」
「いや、10割治そうよ。そして安静にしてから行こうよ」
「小春」
なんとか莉音を説得しようとしていると、急に両肩に手を置かれてこっちを見つめてくる。
「冒険者をやっててね?怪我したから帰りますなんて通用しないんだよ」
「いやそうだけど!そうだけどさ!?」
「私を信じて。小春」
「っ!?」
大真面目な顔でとんでもない事を言い出す莉音。
だからもう諦める。
こういう時の莉音は誰がどう言ってもまるで聞かない。耳を傾けもしない。
だから、私が譲歩してあげる。
…本当はめちゃくちゃ嫌だけどね?
全っ然!乗り気じゃないし、やる気も全く起きないけどね!?
「わかった。分かったからせめてこの怪我はなんとかして」
「任せてよ!私が治してあげる。せっかく巻いた包帯を剥がすことになるけどね」
「巻いた意味」
一旦部屋を出て二階の適当な部屋で休憩を取る。
そしてそこから30分の休憩とボスとの戦闘を3回繰り返し装備を揃えた。
しかし…
「まだだよ!ここからコイツのアクセサリーがドロップするまで何度でもやり直す!」
「はぁ!?」
『アクセサリー』
武器や防具とはまた別の装備品で、主に指輪や首飾り何かを指す。
それぞれ特殊能力があります、防具や武器と同時装着する事で特殊効果も発揮する。
しかし、抽出が出来ず倒した時の確率ドロップでしか入手できない上に、その確率自体も低い。
莉音はそのアクセサリーを2つ手に入れるまで終われないと言い出した。
「明日学校だよ!?早く帰って寝ないと!」
「い〜や!学校なんて休めばいいの!1日くらい休んだところで成績に影響しないよ」
「そう言う事じゃなくて!」
「次来れるのは来週の休日なんだよ?出来る時にやらなきゃいけない事終わらせないと!」
「あ〜もう!どうなっても知らないから!何かあったら莉音の責任だからね!?」
結局その後何度も小さな王を倒す羽目になり、最終的にダンジョンを出たのはなんと午前3時。
当たり前のように警察のお世話になり、お母さんからもしこたま怒られて泣きそうになった。
ちなみに莉音は私の倍くらい怒られて普通に泣いてた。
自業自得だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます