第2話 ダンジョンへ行こう

「さて。じゃあ私達も着替えようか」

「着替え……本当にあんなので大丈夫なんだよね?」

「大丈夫大丈夫。私達がこれから行く場所は、アレだけの装備があれば十分だから」

「果たしてアレは装備と言えるのかどうか…」


ここには更衣室がある。


『ダンジョン』と一口に言っても、沢山の種類がある。

ここは入口、ロビーのようなもの。

遺跡のような見た目だけど、電気水道等のインフラがしっかり通っていて、水飲み場や休憩所はもちろん、トイレや更衣室なんかもある。

なんだったら食堂もあるし、道具屋もある。

そこではダンジョンで手に入る魔石をお金の代わりに使うんだけど…今の私達には使えない場所だね。

だって魔石が無いし。


少し話がそれたけど、まあそんな至れり尽くせりな入口の更衣室にやって来ると、そこで装備を取り出してやっぱり複雑な気持ちになる。


「何でもないただのジャージと軍手…」


そう、この2つが今回持ってきた装備だ。

後は水と食料、包帯に消毒液とガーゼ、高い金を払って用意したポーションと毒消しくらい。

とてもこれからダンジョンに行くとは思えない、舐めているとしか言いようが無い格好だけど…


「よっぽどお金に余裕がある人か、親が冒険者ってことでもない限りこれが普通だよ。これから行く場所はその程度の難易度って事」

「…本当にダンジョン?」

「ダンジョンだよ。…まあ、まだ山や海の方が危険だけどね」


ダンジョンに行くには本来それ用の防具と武器が居るけれど…それには当然凄くお金がかかる。

防具と武器を揃えるだけでうん十万するんだとか?

に対してこれは5000円くらい。

安物買いの命失いとはこの事な気がするけど…まあ莉音が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろう。


「んじゃ行こう。最初のダンジョン。レベル1『ロストタウン』に!」


そう言って、莉音は一番出口に近い位置にある空間の歪みへ向う。

私もその後に続き、手を繋いでその空間の歪みの中へ入った。








目を開けると、そこは黒い雲に空が覆われた廃墟の街。

まさに、ロストタウン。

そんな場所に転移した。


「レベル1ダンジョン『ロストタウン』。その一番街だね」

「確か、チュートリアルのチュートリアルって場所だよね?出てくるモンスターは…おっ、いたいた」


ここはレベル1ダンジョン。

ダンジョンにも難易度があり、レベル分けされている。

その中でも最も難易度が低い場所であり、全ての冒険者が通る道、チュートリアル。

それがここだ。

そんなロストタウンに現れるモンスターだけど…


「骨だけのモンスター。スケルトン」


こちらに走ってくる3体の骨。

もっと言うと白骨死体かな?

どういう理屈で繋がっているのか分からない人骨が、私達に襲い掛かろうと「カタカタ」とか音を鳴らしながら走ってくる。

それはもう必死に、獲物を見つけた猛獣の如く。

しかし速度は牛の歩みだ。


「おっそいなぁ…」

「この距離ならこっちに来るまで時間あるし、解説するよ」


あまりにも余裕があるから、莉音がスケルトンの解説を始めた。


「最初のモンスター、スケルトン。ただの人骨。それ以上それ以下でもない雑魚。どうやって体を繋いでるのかは知らないけど、骨だけだからパワーも無い。そのパワーは驚異の小学一年生の女児に負けるレベル」

「ざっこ」

「最大の攻撃は噛みつきだけど…それも赤子に噛まれてるようなもの。酷い場合でもせいぜいちょっと青くなる程度だし、私服で来ても倒せるレベルの雑魚だよ」

「攻撃面は良いとして…防御は?」

「まあ…見たほうが早いよ」


そう言って、ようやく私達の前まで来たスケルトンを狙う莉音。

拳を握りしめ、全力で殴りかかると…


「カカカカッ…」


スケルトンはそのパンチで体がバラバラになり、やがて体が光となって消滅し、半透明の紫色の石と1本の骨だけが残った。


「うわぁ…一撃」

「とまあ、私達のパンチでさえワンパンできる体たらく」

「噛まれてるよ」

「マジで甘噛にしか感じない」

「雑魚だね」


私も前に出ると、必死に莉音に噛みついているスケルトンにパンチ。

面白いくらい簡単にワンパン出来た。

もう一体のスケルトンも私がワンパンし、初のモンスターとの遭遇戦は圧勝に終わった。


「よ〜し、大体分かったでしょ?私がこの服装を選んだ理由」

「わざわざ防具を用意する必要が無いわけか…」

「そそ。まあ、二番街に行けば装備が必要なんだけどさ?それまでに装備が手に入るんだよね」

「買う意味」


初心者用装備とか売ってるけど、マジでいらないね。

ジャージである必要すらない。

なんだったら学校の体操着でいいレベル。


「武器に関しても、私らのステータスとスキル的に要らないからね。一旦確認してみようか?」

「そうだね」


モンスターを倒したしレベルが上がってるかも知れない。

私達は自分のステータスを開き、その内容を確認する。



◆名前 神宮小春

種族 ヒト

職業 学生・拳闘士

レベル1

スキル《格闘術》


◆名前 赤森莉音

種族 ヒト

職業 学生・戦巫女いくさみこ

レベル1

スキル《格闘術》

   《法術》



う〜ん、変化無し。

流石に雑魚を2匹倒したくらいじゃレベルは上がらないか。


「まあレベルは上がらないか…それとどう?格闘術は体に馴染んでる?」

「生まれた時から持ってる能力だし、全然問題ないよ」


ステータスは生まれついて持っているもの。

生まれた時からステータスが割り振られ、その時にその人にあったスキルと職業が割り振られる。

私の場合は拳闘士…要は格闘家。

莉音の場合は戦巫女。

戦いも出来るし回復も出来るアタッカー兼ヒーラーと言うまあまあ当たりの職業なんだとか?


「羨ましいなぁ、拳闘士」

「なんで?私からしたら戦巫女の方が羨ましいんだけど」

「戦巫女はアタッカー兼ヒーラーだからね。どっちも出来るけど、どっちも本職に劣るんだよ」

「でも、当たりなんだよね?」

「戦えるヒーラーって優秀なんだよ。わざわざヒーラー用の肉壁を用意しなくていいからさ。そういう意味では当たりなんだけどね」


なるほどね。

確かに、ヒーラーは打たれ弱いって話を聞いたことがある。

それを補えるのは戦巫女の強みで、比較的当たりと呼ばれる理由なんだろうね。

…ハズレとかあるのかな?


「ちなみにハズレ職業ってなんなの?」

「…盗賊かな?偵察役を任される事が多いんだけど、それなら斥候で良いし、斥候と違ってアタッカーも出来るけど、火力は期待出来ない。おまけに打たれ弱い。強いて良い点を挙げるならレアなドロップが起こりやすくなるくらい。それ以外は…まあ、って感じ」


何か出来るわけでもないし、弱点だけが目立つ。

中々に不遇だね…


「まあ、職業は絶対じゃないからね。努力次第でいくらでも強くなれるよ」

「そうなんだ…」

「そうそう。どんなに優れた職業を手に入れられても、努力を怠ったら雑魚だよ」


何事も努力次第。

努力しないやつは強くなれないし、強くなれなくて当然。

なんの苦労も無くいい思いができるはず無いって事か…


「その点、小春は大丈夫だよ。昔から体鍛えてたじゃん」

「嫌がってたけど、冒険者は私の夢だからね。一攫千金、札束の風呂に入るんだ」

「ちょっとそれは共感できないかな…」

「それくらいの事は大金を稼ぐって例えじゃん!!」


莉音が結構ガチで引いているのを見て、慌てて意味を話す。

察してくれると思ったけど、無理だったみたい。


「まあまあ。実際、若いうちにそれくらい稼がないと冒険者はやって行けないからね。どんどん先に進むよ!」

「魔石は拾うとして骨は?」

「『ストレージ』にでも入れておいたら?どうせ無限にスタックできるし」


『ストレージ』

ダンジョンで得たモノをいくらでも保管できる異空間。

誰もが持っていて、大抵のものはそこで管理する。

また、ダンジョンで手に入るアイテムを使う事で服とか食べ物とかも入れられるようになるらしい。


私は骨と魔石を拾ってストレージに入れると、先に進んでいた莉音の後に続く。

私達の一攫千金の道はここから始まった。

そう希望を胸に、ダンジョンの深淵へと進んでいく。



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