第3話 レベルアップ
ダンジョンに入ってそろそろ2時間。
「まーじでどんだけ出てくるのよこの骨」
「もう100体は倒したかな?魔石何個溜まってる?」
「85」
「こっちは37…こんなに倒してるのにレベル上がらないの、本当に効率悪いなぁ」
100体以上の骨を倒したのに、一向にレベルが上がる気配が無い。
それはもう…全然レベルが上がらない。
骨が雑魚過ぎて経験値が全然貰えないみたいなんだよね…
「でもここでレベル2になるのと、武器防具を集めないと二番街には行きたくないからなぁ…」
「そうだよ防具。何処で見つかるのそれ?」
「腕が4本あるスケルトンを倒したら手に入る。でも、全然見当たらないんだよね〜」
「物欲センサーってやつ?やってらんないね〜」
あまりにも進展がなさ過ぎてやる気がどんどん削がれる。
溜まりに溜まった魔石も、こんなカルシュウム不足のクソザコナメクジすっとこどっこいアンポンタンな骨の魔石なんか碌な値段で売られない。
1個1円だよ?
まじぃ!?
「2時間で100円ちょっととか、お話にならないね」
「う〜ん…あんまりこの方法は使いたくないんだけどなぁ…」
「この際やろうよ。多少危険でもず〜っとこのままよりは全然いい」
「まあそっか。じゃあ墓地に行くよ」
墓地かぁ…流石の私でも聞いたことがある。
アンデッド系のモンスターが出てくるダンジョンでは、墓地と戦場はマジで危険だって。
モンスターは基本的に無限湧きで、時間が経てば倒した数だけ復活する。
それはどこでも一緒なんだけど…『ホットスポット』と呼ばれる特定のモンスターが湧きやすい場所がある。
スケルトンみたいなアンデッド系のモンスターの場合は墓地だったり戦場跡地だったり…死体が多かったり、過去に沢山の人が死んだ場所がそうなる。
そんな墓地に行けば、たしかにレベルは上がりやすいだろうし、莉音が言う腕が4本あるスケルトンも見つかりやすいんじゃないだろうか?
この退屈な時間をなんとかすべく墓地に向かったんだけど……
「多いね」
「うん。多い」
墓地に着いた私達を待ち受けていたのは、通勤ラッシュ時の駅に居るくらい大量に湧いたスケルトン。
あんまりにも多い。
流石にこれはやばいんじゃないの?
「……あっ!居た!!」
「4つ腕?」
「うん!しかも有り難いことに5匹!」
「へぇ〜…4つ腕って強い?」
「毛が生えたくらい」
「楽勝だね。とりあえずちょっとずつ処理して4つ腕倒すよ!」
私は一番手前にいるスケルトンに、足元にあった崩れたレンガを投げつける。
アレで何体か釣れたら良いんだけど……あっ。
レンガは思いの外遠くへ飛び、群れの割と中央当たりのスケルトンに当たり、そのスケルトンが死んだ。
「やっべ!」
「流石にあの数は無理!撤退!!」
お陰で数百のスケルトンが反応して、私達の方向へ向かってきた。
いくら相手が女子小学生以下の力しか出せないクソザコとは言え、数百の数で囲まれるとやばい。
多勢に無勢。
走って撤退し、建物の影でやり過ごそうとしていると、私達を見失ったスケルトンの群れが現れた。
数にして大体30ちょっとかな?
「…だいぶ少ないね」
「あれだけなら倒せる。掃討するよ」
「おけ」
物陰から飛び出して襲い掛かると、1分も掛からずにスケルトンの群れを骨に変える。
魔石と骨を回収し、再度墓地へ戻ってみると、全然減ってるようには見えなかった。
「道中にも結構倒したんだけどなぁ…」
「多分だけど、1000体以上は居るよ。たかが50体倒したところで大して変わらないんじゃない?」
「それもそっか……ならいっそ突っ込む?」
「全然あり。囲まれないようにだけ注意しておけばいいからね」
釣って倒すのはあんまりにも時間がかかる。
ちょっとでもやばくなったら逃げれば良いし、いっそ突っ込もうということになった。
2人でスケルトンの群れに突っ込むと、がむしゃらに腕を振り回してスケルトンを粉砕していく。
…いくらワンパン出来るからって、流石に数が多い。
倒したそばから別のスケルトンが襲い掛かってきて、それを倒しても別のスケルトンがすぐ目の前にいる。
「散らばったらまずいね。小春!絶対私の隣から離れないでね!?」
「離れたらマジでやばいからね…離れたくても離れられないよ」
幸いなのは、スケルトンはワンパンできる事。
出来なかったら正直諦めてた。
1秒に1体倒すくらいのペースでスケルトンを倒しているなら……2人でやったら7分くらいで殲滅出来るね。
…まあ、体力がそこまで持てばの話だけど。
「はぁ…はぁ…そろそろ100体倒したかな…?莉音…体力の方は大丈夫?」
「結構キツイ…一旦退くよ」
私よりも体力が無い莉音はちょっときつかったらしく、撤退を提案。
それに私も賛成し、一旦墓地を離れ家屋の中で休憩する事に。
「普段からもっと運動すべきだったね」
ペットボトルの水を飲んで休憩している莉音に話しかける。
すると、莉音はムッとした表情で言い訳をしてくる。
「私は戦巫女だから、拳闘士の小春よりも体力が付きにくいの!」
確か、戦巫女はアタッカーとヒーラーの兼任だったね。
純粋なアタッカーの私よりも体力が付きにくいと…
「だから一生懸命運動するんじゃないの?」
「うぐっ…!それは…」
「だいたい、幼馴染で家も近いんだしだいたい知ってるよ?あんまり運動してないって」
「…ヒーラーとしての才能を伸ばそうと頑張ってたの!」
「序盤のヒーラーはそこまで必要じゃないってのは嘘だったの?」
「それは……」
前にヒーラーの力で擦り傷を治してもらった時、『ダンジョン序盤ではヒーラーはそんなに重要じゃない。序盤は怪我をしない事が大前提だからね』って言ってた。
その言葉は嘘だったのかな?莉音?
「…それでもやっぱり回復は重要だから練習してたの!」
「素直にめんどくさかったって認めればいいのに。私の事、疑ってる?」
「うっ……そんな事ないけど…」
私が顔を近付けてそう言うと、莉音は顔を赤くして照れ隠しにそっぽを向く。
「莉音。私の膝使う?」
「…いらない」
…素直に甘えれば良いのに。
莉音は、私のことをそういう目で見てる。
私自身それに抵抗はないし、今の時代普通の事。
その理由は40年前の『大氾濫』に起因する。
40年前の『大氾濫』の時、最も多くの被害を出したモンスターは『サキュバス』だ。
サキュバス自体それなりに強い上に、厄介極まる特性を2つ持っている。
1つは『仲間を呼ぶ』という特性。
コレは近くにいるサキュバスを呼び寄せるだけでなく、魔法陣が地面に現れてダンジョンに居るサキュバスまで出てくるというめちゃくちゃやばい特性。
これのせいで今でも人里を離れた地域にはサキュバスが隠れているし、夜中に出歩こうものなら狙われる。
でも、これはまだ良い。
これだけなら今の日本は出来なかった。
もう1つの特性。
それは『男性に対して抵抗不可の魅了を振りまく』というもの。
この魅了、耐性効果のあるアイテムや防具を身に付けているか、そのサキュバスよりも遥かに強く無いとどう足掻いても抵抗出来ないんだ。
そのせいで男性が戦力として使い物にならなくなった。
この2つの特性が合わさり、更にサキュバスは基本的に男性しか襲わないという習性も相まって、日本からあっという間に男が駆逐されていった。
かつては数千万人居たとされる男性も、今では約103万人しか居ないらしい。
それだけ数が減ってしまうと、ダンジョンの外にでてきたサキュバスは飢えてしまう。
やがてサキュバスの過半数は日本を離れ、世界中の国々…主に日本の近くの国で男を物理的に食い荒らし、世界を恐怖のドン底に突き落とした。
この事件以降世界は日本を隔離し、唯一ステータスを持つ日本人に、ダンジョンがもたらす利益を独占する権利を認める代わりに、モンスターが日本より外に出ないように抑える義務を課した。
…とまあ、政治の話は難しいから置いておくとして。
今の日本の人口はおよそ7500万人。
うち男性が103万人だから…女性は残りの7400万人。
男女比はだいたい1対74。
うん、イカれてる。
そんなこともあり、周りに女しかいない。
だから男を知らない人達は同性に恋心を抱く。
そうなると人口減少待ったなしだけど…同性間でさえ子供を作れるようになるとあるアイテムのお陰でそうはなってない。
…ちなみに、私もそのアイテムの効果で2人のお母さんの間から生まれたよ。
まあ、離婚しちゃったけど。
「将来私のお嫁さんになるんじゃなかったの?」
「……その弄りやめてって何回も言ってるよね?」
「ごめんごめん。悪かったよ」
冷たい目で睨んでくる莉音。
本気で怒ってるみたいだから、しっかりとすぐに謝る。
じゃないと、めっちゃ不機嫌になって、私の事ストーカーしてくるし…
「…ちゅーしてくれたら許してあげる」
「しないよ」
「…バカ」
「したら面倒くさい事になるって莉音も知ってるでしょ?」
してあげたほうが簡単に機嫌が直るけだ、できない理由があるからしない。
それに、もう必要は無いし。
「十分休憩出来たよね?じゃあ行くよ」
「はぁ…真面目な話をすると、多分レベルが上がるまでコレの繰り返しだよ?」
「え?なんて?」
「レベルが上がるまで繰り返し。さっき逃げる最中に見た限り、私達がスケルトンを倒すのより数秒遅いくらいの感覚でスケルトンが湧いてた。休憩を挟んでやってたら多分終わらないよ」
そんなに復活が早いのか…
レベルが上がって、今よりも早く倒せるようにならないと終われないってわけね…面倒な。
「でも、感覚的にもうちょいでレベルが上がりそうだし、それまでの辛抱かな?」
「じゃあ、もっと頑張らないとね」
墓地に戻ってくると、呼吸を整えてやる気をいれる。
そして、2人同時に走り出してスケルトンを一気に倒してしまう。
「何回もやってられないからね!一気に終わらせるよ!!」
「体力切れでもう無理とか言わないでね!莉音!!」
全力でスケルトンを倒し続ける私達。
次から次へとスケルトンを粉砕しては、前へ進む。
もちろん、前ばかり見ていると横からスケルトンが回り込んできて逃げられなくなるから、横や後ろも警戒する。
腕を振り回すのって結構疲れるけれど、早くこのなんとも言えない辛い時間を終わらせるべく、本気でスケルトンを倒し続ける。
早く終わってほしい。そんな思いで腕を振り続けること3分ちょいくらいかな?
「この感覚…!」
「よし撤退!体力を回復させてから決めにかかるよ!」
全身から力が溢れるような感覚を感じ、レベルが上がった事を確認した。
態勢を立て直すべく一旦撤退すると、同じ家屋の中に逃げ込んだ。
ステータスを確認してしみたら確かにレベルが2に上がっていた。
「やっぱり最初のレベルアップはできる事の伸び幅が違うね。一気に大きくなった気分」
「なんか疲れも吹き飛んだし、休憩なんて要らないかも」
「そうなんだ…やっぱりアタッカーは違うなあ。私なんかまだ結構疲れてるよ」
戦巫女ってそんなに強くないのかな…?
でも、莉音が割と当たりって言うくらいだし強いとは思うけど…
「ちょっと、腕の疲れが収まるまで休憩。小春。やっぱり膝枕して」
「はいはい」
私よりもずっと疲れている莉音は横になって休憩するみたい。
私が膝枕をしてあげると、嬉しそうに私の匂いを嗅ぐ。
…ナチュラルにセクハラだね。
まあ、私が全く嫌がってないからハラスメントじゃないんだけどさ。
莉音にセクハラもどきをされながら休む事30分。
十分な休憩を取った私達は装備を手に入れるべく、4つ腕のスケルトンを倒しに向かった。
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