第14話 レベル2ダンジョン

御堂さんをパーティーに加えてレベル2ダンジョンへ。

とりあえず何の事前情報もなしに突撃した私が見た景色は…


「…湿地帯?」


見える範囲の殆どが湿っている、あるいは水が張っている湿地帯。

とてもじめじめした足場の悪い場所だった。


「その通り。レベル2ダンジョンの名前は『開けた湿原』。湿地帯がテーマのセリアだよ!」

「なるほど…もしかして『大蛇』の防具を作りたかった理由って?」

「その通り。ここでは水属性の耐性が重要だからね。水耐性がある『大蛇』が欲しかったんだよね」


莉音は一生懸命説明をしてくれるけど、私はそこまで興味はない。

饒舌に驚いている御堂さんに話しかける。


「莉音はダンジョンオタクで何か聞くとすぐにこうなるんです。あんまり気にしないでください」

「う、うん…」

「むっ…!小春の為に頑張って勉強したのに…」

「私のためじゃなくて、私と2人でダンジョンに行きたいからでしょ?このスケベ」


御堂さんが勘違いしないように、莉音が調子に乗らないようにしっかりと言葉を訂正しておく。

莉音はかなり不満そうに頬を膨らませて怒ってたけど、私が手を繋いで上げたら許してくれた。

ちょろい。


「仲が良いんだね…」

「当然!私は小春と結婚する為にダンジョンに来てるんだから!」

「本性あらわしたね」

「むぅ…さっきから茶々入れないでよ…」

「あはは…」


いつもの軽い言い合いに、御堂さんは苦笑いを浮かべる。

私達のノリについていけなくて困ってるね…自重しないと。


…でも、何かあったのか急に表情が真剣なものになる。

そして、左斜め前を指差す。


「2人とも。あっちから足音が」

「えっ?」

「ふ〜ん……さすが盗賊。察知能力は本物だね」


そう言って武器を装備し、戦闘態勢を取る莉音。

御堂さんもナイフ…と言うかダガー?みたいなものを取り出し、さっき指差した方向を向いて構えている。

すると、本当にその方向からモンスターが現れた。


「なにあれ…カピバラ?」


現れたのは、まるでカピバラのような見た目の動物。

アレもモンスターなのかな?

可愛いね。


「『スワンプマウス』。湿地帯に生息するデカいネズミだよ。まあ、げっ歯類だからカピバラみたいなもの」

「へぇ〜?でも、カピバラなら安し――速っ!?」


カピバラのような見た目に絆されていると、突然とんでもないスピードで突っ込んでくるスワンプマウス。

前に出た莉音が目の前に迫ってきたスワンプマウスを蹴り飛ばしてくれたけど…かなり面食らった。


「カピバラは実は車並みの速度で走れるんだよ?」

「えっ!?」

「あいつもそれと同じくかなり足が速い。舐めてたら脛をガブッ!ってやられるよ?」

「き、気を付けます…」


御堂さんが警告してくれた。

……その警告をしたかったらしい莉音はめっちゃ御堂さんを睨んでるけど、それでもスワンプマウスから注意は逸らしてない。


「さて……小春。あいつらは基本群れで行動する。だから他にも入るはずなんだけど…足音とかします?」

「するよ。多分…あと3匹?」

「だって小春。気を抜かないでよ」

「う、うん…」


蹴り飛ばされたスワンプマウスが立ち上がり、可愛らしい顔からは想像できないような怒りのこもった目で莉音を睨む。

それを見て私も武器を装備し構えると…奥から本当に3匹のスワンプマウスが現れた。


「私は2匹やる。2人は1匹ずつお願い」

「頼もしいですね〜」

「…私がそれやりたかったのに」


年長者としてかっこいいところを見せようとする御堂さん。

そして、そんな御堂さんに嫉妬する莉音。

しょんぼりしている莉音もかわいいね。

絶対に口には出さないけど。


莉音から目を離すと、私は新たに出てきた3匹の内1匹だけを相手する。

人間の全力疾走並の速度で走ってくるスワンプマウス。

私に飛びついてきた瞬間毒の塗られた金属の爪を振り下ろし、スワンプマウスを切り裂く。


「キュンッ!?」

「…悲鳴が可愛い。良心を傷つけられるね」

「でも、油断したら噛まれるよ?」

「分かってるよ。……だからって、引っ掻いた上で踏みつけるのはどうかと思うよ?莉音」

「これが一番確実なの!ほら!倒せた」


そう言って、魔石を見せてくる莉音。

確かに良さげな方法だけどちょっと…


「まあ、真似しないでおくよ」

「毒でジワジワ死なせると?可哀想に…」

「……分かったよ。確実に倒す」


苦しむスワンプマウス。

見た目がカピバラに似ているだけに、凄く心が痛むけど…耐えて頭を思いっきり蹴り飛ばす。

すると、すぐに倒すことができ、魔石と毛皮を落とした。


「毛皮か…まあ一応持って帰ろうか」

「使い道あるの?」

「無いけど…いらないからって放置は不味いでしょ?倫理的に」


そう言って、私と自分の倒したスワンプマウスの毛皮を回収する莉音。

ふと御堂さんの方を見ると、普通にこっちに歩いてきていた。


「倒したモンスターのアイテムは要らなくても持って帰る。うん。いい心がけだと思う」

「まあ、冒険者として当然の心得ですから。あと、一応フロントのショップで買い取ってくれるという事も考えてるので」


褒められてまんざらでもなさそうな莉音。

そして、ドヤ顔を私に見せてくる。


「流石だね莉音。ちなみにフロントのショップって何?」

「要らないドロップアイテムや魔石を買い取ってくれる場所だよ。人間の通貨とは全く違う、ダンジョンだけの通貨で支払われるけどね」

「その通貨って何かに使えるの?」

「消耗品を買うのに使えるよ。あと、円に交換できる」

「レートは100G=1円だけどね…」

「…それってどのくらい?」

「この4枚の毛皮全部売って1円ちょっと?」


駄目じゃん!

そう考えると、ポーションって数百万とか数千万Gいるんじゃないの?

本当に、無いよりはマシくらいの拾い方なんだろうなぁ…


「チリツモだよチリツモ。放置するよりはよっぽど良い」

「…ちなみにそれでいくら稼げそう?」

「とりあえず、最低でもレベル16まではレベルを上げたいから、100円くらいは稼げるかもね」

「…400体倒すって事?」

「いや?もっと」

「帰って良いかな?」

「だ〜め」


またあのレベリングが始まるのか…

しかも御堂さんを巻き込んで。

御堂さん、もっと強くなって1人前の冒険者になりたいから私達に仲間に入れて欲しいって言ってきたのに…


その事を謝ろうと御堂さんを見ると、何かを察したように少し困ったようにしながらも笑ってくれた。


「私は大丈夫だよ。こんな私でも、仲間に入れてくれる人が居るだけで嬉しいから」

「……小春は私のだから」

「別に取ったりしないよ。……私じゃ勝てなさそうだし」

「ふんっ!背も低い胸もないあなたには小春は射抜けないぃっ!?」

「いい加減にして。そろそろ本気で怒るよ」


莉音の髪を後ろから引っ張る。

痛がる莉音にガチなトーンで怒ると、本気で嫌そうな顔と不満げな表情を向けてきた。


「いい加減にしてほしいのはこっちだよ。ハッキリ言って、この人カップルの間に割り込む赤の他人だよ?私は反対した」

「それは……」

「優先順位を間違えないで。私の方が間違いなく上でしょ?」

「……そうだね。私が悪かった」


逆に怒られてしまった。

莉音の言いたい事は分かる。

…でも、御堂さんは困ってた。

だから助けたかったんだけど…私が優先すべきは、まるで知らない初対面の人じゃなくて、莉音だ。


…だけど、かと言って困ってる人を無視するのもどうかと思う。


「…私のことは気にしなくてもいいよ?やっぱり、自分の事は自分ですべきだって再認識したし」

「……その態度が良くない」

「え?」


莉音は気不味そうにする御堂さんを睨むように見つめる。


「そんな、『同情してください』って言ってるような態度を取ったら、小春は見捨てられないし、私としても困ってる人を無理矢理突き放したみたいでイヤ。もっと堂々として!」

「えぇ…?で、でも…」

「いいから!どうせ私も2人だけでこれから先やって行けると思ってないし、確実なメンバーの加入にはまだまだ時間がかかるし…」


確実なメンバー…ああ、ちゃんと入れて上げる気はあるんだ?

まあ、莉音は元々それも込みで冒険者になりたいって言ってたし…となると、それまでは御堂さんと一緒、1年くらいの付き合いになるのかな?


「私を…仲間に入れてくれるの?」

「1年と…まあ1年とちょっとくらいの間なら入れて上げる。その頃にはもう何処かに入れてもらえるくらいには強くなってるでしょ?」

「そうだね…ありがとう」


莉音に認められて、すごく安心した様子の御堂さん。

私もちょっと安心。


…でも、別の不安も出来た。


私は御堂さんの前にやって来ると、両肩に手を置く。


「これからよろしくお願いします」

「え?何?」

「莉音は満足するまで絶対に…何を言っても次の階層には行かないんです。レベルとか、装備とか…」

「……待って、すごく嫌な予感がする」


何かを察して逃げようとする御堂さんを、莉音は捕まえる。


「さて、じゃあ付き合って貰いましょうか?私達全員が、レベル16になるまで」

「……ちなみに私だけ休むとか、先に行くとか…?」

「パーティーメンバーを放置して自分だけ…?」

「……はい」


すべてを察した御堂さんは諦めた様子で私を見た。

なにか含みのある満面の笑みを浮かべる私。

そして、効率よくダンジョン攻略を進められる事を確信し、1人楽しそうな莉音。

こうして、私達3人のダンジョン攻略が始まった。

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