第13話 盗賊

『盗賊』

それは数少ないハズレ職業の一つで、いばらの道を歩むことになる職業。

この職業の強みは始めから《隠密》のスキルを持っている事。

このスキルは生存率を上げるうえで非常に有利なスキルで、有事の際はこれがあるかないかで生き残れる確率が大きく変わるらしい。


…しかしそれは、有事の話。


「盗賊かぁ……悪いけど他を当たってほしいかな?」

「そうですか…」

「攻撃スキルがあったら…いや、何でもないよ。忘れて」


通常のダンジョン攻略において重要視されるのは生存能力よりも火力。

圧倒的な火力で敵をねじ伏せて、次々と前へ進む力。

それが求められる。

そんな中、火力をあげられるスキル。

或いは直接火力を出せるスキルを持たない盗賊は、それほど必要とされていない。


…ハッキリ言ってしまうと、お荷物というわけだ。


今日も、どこかのパーティーに入れてもらうことに失敗し、また一人でダンジョンへ潜ることになった。


「はぁ…流石に一人は厳しいからなぁ…」


冒険者になってもうすぐ1年。

ようやくバジリスクを倒し、レベル2ダンジョンへ挑めるようになった私に待っていたのは…あまりにも高すぎる壁。

チュートリアルと本番には大きな差がある。

その事実をまざまざと見せつけられ、早々に私は一人での攻略をあきらめた。

そして、どこか私を拾ってくれるようなパーティーを探すも、盗賊というだけで門前払い。

それだけ、盗賊が冷遇されてるって事。


そんな状況で、私を拾ってくれるパーティーなんて…


「んん?あれは…」


レベル2ダンジョンの方向へ向かう2人組。

装備は『大蛇』。

多分、まだレベル2ダンジョンの攻略を始めて間もないか、これからレベル2ダンジョンへ向かう人。

適正人数は4人で、毒のダメージを考慮してもあと一人は人手が欲しいはず。

…可能性は、あるかも。


私は藁にも縋るような思いでその二人に声を掛けた。


「すいません。ちょっと良いですか?」








「へぇ〜?それで私達に声を」

「はい。あの、どうか私をメンバーに加えていただけませんか?」


頭を下げてお願いする。

十中八九断られる。

でも、1割でも可能性があるなら試す。

試さないと0だからね。

相手の返事を待っていると、さっき私が話していなかった方の女性が口を開く。


「私は反対かな?私は小春と一緒にダンジョンに潜りたいし、この人盗賊だし…」


小春…優しそうで大人っぽい、この人は小春って名前なのか。


「そんな事言わないでよ。それに、莉音は前盗賊でもその人の頑張り次第でどうにでもなるって言ってたよね?」

「それは…」


盗賊だから、と言って反対した女性は莉音さんか……まあ、覚えても無駄なんだけど。


どうせ断られる。

そう思っていた私に、小春さんが声をかけてきた。


「とりあえずお試しで一緒に行きませんか?仲間に入れる…と言うのは反対が凄いので」

「ホントですか!?」

「はい。莉音もいいよね?」

「……ふん」

「そんなに拗ねないでよ…」


小春さんは、寛大な心で私を仮の仲間に加えてくれた。

莉音さんは反対してへそを曲げているけれど…駄目だとは言わなかった。

良かった…ここでなんとしてでもレベルを上げるか装備を手に入れないと…!


「じゃあ、早速ですけどステータスを共有しませんか?」

「え?いいんですか?」


小春さんがとんでもない提案をする。


お互いのステータスを見せる。

それは、ステータスが全ての冒険者にとっては企業秘密も同然であり、信頼できる仲間以外に見せることは絶対にない。

そんな事をするなんて…思ったよりも初心者?


…でも、そういう知識は莉音さんが持ってそう。

多分、莉音さんに断られるだろうね。


「小春がやりたいってなら良いけど、次からはすぐにそういう事はしないでね?」

「え?だめ?」

「ダメとは言ってないよ。ただ、不用心なだけ」

「…まあ、次からは気を付けるよ」


え?許された?

間違いなく莉音さんはそういう知識や冒険者としての心得、常識があるはず。

なのに見せるなんて…


私が混乱していると、2人がステータスを見せてきた。

私もそれを見て慌ててステータスを見せる。


◆ 名前 神宮小春

種族 ヒト

職業 学生・拳闘士

レベル13

スキル《格闘術》

装備 防具『大蛇』

   武器『大蛇』

   セット効果 筋力強化小

         毒耐性

アクセサリー 首飾り『朽ちた高貴』


◆ 名前 赤森莉音

種族 ヒト

職業 学生・戦巫女

レベル13

スキル《格闘術》《法術》

装備 防具『大蛇』

   武器『大蛇』

   セット効果 筋力強化小

         毒耐性

アクセサリー 首飾り『朽ちた高貴』


◆ 名前 御堂みどうリカ

種族 ヒト

職業 盗賊

レベル15

スキル 《隠密》

装備 防具『大蛇』

   武器『輝く鱗』

アクセサリー 指輪『修行僧』


レベル高っ!?

……ん?

学生?


「…え?年下?」

「ん?」

「は?」


学生…それは、高校生以下の学校に通っている人物に付けられるもの。

ステータスの職業欄には右側にステータス上の職業が、左側に社会的な職業が記載される。

学生があるということは…この2人は高校生ということになる。

大学に通ってるなら、大学生って記載されるからね。


「えっと…何歳?」

「2人ともつい2週間前に18になったばっかりです。えっと…リカさんは?」

「21です…」


そう言うと、2人は目を見開いた。

…まあ、そうだよね。

そうなるよね。


2人とも少なくとも170センチはある高身長。

加えて胸もでかい!

小春さんに至ったは高校生とは思えない大人の気配を感じるし…まさか年下とは…


「…身長はどれくらいですか?」

「私?…これでも160はあるんですよ?」

「そうなんだ…普通に50くらいだと…」

「こらっ!莉音!!」

「あ痛っ!?」


ナチュラル失礼発言に、小春さんが怒る。

…常識については小春さんの方が弁えてるのかもね。


「いいんですよ。そう言う血筋なので…」

「だって、小春。もう怒らないでね?……で、一旦年齢の話は置いておくとして、その装備はなんですか?」


真面目な顔になった莉音さんが私の防具を指摘する。

…まあ、明らかにこのレベル帯の人間が持ってるのに相応しいものでは無いよね。

疑われるのも当然か…


「親や姉妹が冒険者なので、そのお下がりです」

「……なら尚更理解出来ない。何故その姉妹でパーティーを組まないの?」


…痛いところを突かれた。

…あんまり話したくはない。

でも、話さなきゃいけない。

この2人から信用を勝ち取れなかったら私はもう終わりだ。

だから話す、包み隠さず、正直に、誠意を込めて。


「…私の家は、私のお母さんが冒険者をやっていたので、姉達も同じ道を歩みました。でも、私は盗賊で冒険者には向かないってずっと反対されてて……私もお母さんや姉達のように10人以上いる姉妹と3人の母を養えるようになりたかったんです…」

「…けど、認めてもらえなかった。だから家を飛び出して一人で冒険者になった、とか?」

「その通りですよ…まさに」

「ふ〜ん……」


私の話を聞いて、莉音さんの目が変わる。

何やら私のことをかなり警戒しているみたいだけど…もしかして詐欺師だと勘違いされたかな?

私は本心で本当のことを言ってるだけなんだけど……でも、小春さんは私に同情してくれてるみたい。


「事情は理解しました。こちらも人手が欲しかったので歓迎しますよ。まあ、仮ですけど」

「ありがとうございます!」

「莉音もそれでいいよね?」

「うん。いいよ」


まだ警戒されてるけど、莉音さんもパーティーに入れていいと思ってくれたみたい。

なんとか仲間を手に入れた私は、心の底から安心感に包まれてレベル2ダンジョンへと向かうのだった…

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