第12話 装備を整えよう

月が替わって5月。

私の誕生日から2週間経った。


「…まだ並ぶの?」

「仕方ないよ。ただで使えるのはここだけなんだから」


謎の行列に並ぶこと30分。

ようやく先頭が見える位置までやってきたところだ。

列から少し体をは見出して先頭を見てみると、何やら石製の丸い台座のようなものがあった。


「あれが作業台ってやつなの?」

「そうだよ。あそこで装備の強化やアクセサリーの強化が出来る。後は強化素材の合成や新しいアイテムの製造なんかもできるね」


『作業台』

冒険者をするうえで必須ともいえるもので、莉音の言った通り防具やアクセサリーの強化や新しいアイテムを作るのに使う。


「ダンジョンのロビーにあるやつを使うか、有料の作業台を使うか、自分たちで見つけて使うか。その三択なんだけど…今の私達は最初の選択肢をとるしかないね」

「お金がないからね…」


世の中何をするにもお金がいる。

しかし私達にはそんなお金はない。

だから、多少不便でも極力お金のかからないやり方をしたい。


速くお金を稼ぎたいなぁ、と思っていると意外と早く私達の順番が回ってきた。

2人で作業台の前にやって来ると、莉音がバジリスクから採れた装備『毒蛇』を作業台の上に置く。


「まずは武器から強化していこうか」

「なんかゲームの画面みたいなのが出てきた…」


作業台の上に武器を置くと、まるでゲームの一画面のようなものが出てくる。

真ん中に『毒蛇』があって、そこから線が伸びて空白の枠が3つある。


「この3つの空白にバジリスクから採れる素材、牙と鱗と毒腺を入れる」

「どうやって入れてるの?」

「ストレージと作業台は繋がってるからね。ストレージのアイテムを押すだけで勝手に入ってくれるよ。ちなみに、装備もこうやって置かなくても入れられるんだよね」


私に説明しながら作業を続ける莉音。

牙、鱗、毒腺を必要個数入れると、“強化”と書かれたボタンを押した。

すると、作業台とその上に置かれた武器が光る。


「うわっ!」


眩い光に思わず目を手で覆う。

光が収まって見えるようになったことを確認すると、そこにはさっきまでの形とは少し違う武器があった。


「よし、無事完成したね」

「それは?」

「『毒蛇』を強化した武器、『大蛇』だよ」

「『大蛇』…」


新しい武器。

私が持ってる『毒蛇』は、ただの真っ黒な手袋だった。

けど、莉音が持っている『大蛇』は指の先端に金属の爪?のようなものが付いていて、その爪が怪しい光を放っている。


「この武器の特徴は何と言ってもやっぱりこの爪だね。これで引っ掻くと毒属性の攻撃を出来るんだよ。まあ、強化前の『毒蛇』の段階から毒属性だから、殴っても毒属性の攻撃だけどね」

「…凄いのは分かるけど、これ、殴る時に邪魔じゃない?」


爪を指さしながらそう言うと、莉音はニヤリと笑う。


「そこがこの武器の凄いところ。殴る時は爪が収納されて、握りこぶしを作るときに手に刺さらない事」

「そうなの?」

「そう!だから安心して使え――「ンンッ!」――あっ!す、すいません」


饒舌に話す莉音に、後ろに居た女性が咳払いをする。

話してないでさっさと要件を済ませろ、って言われちゃった。


莉音は羞恥心で顔を真っ赤にして防具の強化を急ぐ。

そして、私にも武器防具の強化をさせると、謝りながら作業台を離れた。


「もう…周りの事はちゃんと見てほしいね」

「ごめんごめん。次から気を付けるよ」

「ホントかな…?」


莉音の事だし、また同じミスして今度は怒鳴られてそう。

その時は多分私のも一緒に怒られるんだろうね。


「で?莉音が先週の土日を全部潰してまで手に入れたかった装備はこれでいい?」

「そう。この装備がレベル2ダンジョンに行くうえでほぼ必須の装備、『大蛇』だよ」


『大蛇』

バジリスクから採れた装備、『毒蛇』を沢山の素材を使うことで強化されて作られたもの。

多分、その性能はかなりいいんだろうね。


「まず、防御力がプラス30とかなり高い」

「そうなの?」

「レベル2ダンジョンで取れる最初の装備でも防御力はプラス20だからね。かなり高い」

「ふ~ん…?」


まあまあ高いんだね。

でも、防御力なんて具体的な数値を出されても、ステータスは具体的な数値じゃないからよくわかんないけどね。


「あと、この装備の強みは属性耐性にある」

「属性耐性…確か、攻撃にはいくつかの種類があるんだよね?」

「そうだよ。今までの私達みたいなただ殴る攻撃は無属性攻撃。受けるダメージの軽減は防具の防御力を使って計算する…らしい?」

「らしいって…まあ、ダメージも別に具体的な数字があるわけじゃないし、仕方ないか」


普通の攻撃…いわゆる無属性攻撃は防御力が大事になるみたい。

…まあ、結局どの程度大事なのかは分かんないけど。


「次に属性攻撃に対する耐性。属性耐性は防具によって耐性の有無、程度が変わってっくる。例えばさっき強化した『大蛇』は毒、石化に0.5耐性。水、風に0.8耐性があるんだよ」

「…つまり?」

「毒、石化属性の攻撃で受けるダメージを半減し、水、風属性の攻撃で受けるダメージを2割カットしてくれるって事」

「えーっと…まあ、ダメージが低くなるって事でいい?」

「その認識でいいよ。ちなみに、『大蛇』は炎、雷、氷属性の耐性が2.0だから、注意だね。本来受けるダメージの倍のダメージを受けるから」


…なるほどね。

耐性は、ダメージ×耐性=受けるダメージって事か。

0.5耐性の毒と石化は半減、0.8耐性の水と風は2割減。

そして、2.0耐性の炎と雷と氷は2倍のダメージを受けるわけね。

大体理解した。


「ちなみに『朽ちた高貴』の石化耐性は0.5。アクセサリーも含める0.4耐性になるから、これ一つで『朽ちた高貴』を揃えるより高い耐性を得られるのもこの防具の強みだよ」

「へぇ~。じゃあ武器は?」


防具の具体的な性能は分かった。

でも、防具がいかに強くても、攻撃面が貧弱だといつかは負ける。

さあ、武器の性能はどんなものかな?


「武器は毒属性を攻撃に付与する爪の付いたグローブ型の武器。要は毒の塗られた爪の付いた手袋だよ」

「属性付与って事は、これから私達の攻撃は毒属性になるって事でいい?」

「手を使った攻撃ならね。キックや頭突きまでは毒属性にならないから注意が必要だよ」

「肘打ちとかは?」

「それも毒属性にはならないね。武器が直接当たらないと毒属性にはならないんだよ。だって、武器を身に着けたからって、私達の体から毒が分泌されるわけじゃないでしょ?」

「まあ…確かに」


毒属性の付与。

初めて手に入れるまともな武器が毒かぁ…

もっと派手な武器がよかったなぁ…


「毒属性はかなり優秀だよ?序盤は毒耐性を持つモンスターは少ないし、難易度の高いダンジョンでもやたら強いボスの弱点は毒なことが多いからね」

「そうなの?」

「そうだよ。何より毒属性の強いところは追加ダメージがあるところだからね。私達の攻撃とは別に、継続的にダメージを与え続けるのはかなり強い。なんたって、アタッカーが1人増えたようなものだもん」

「アタッカーが1人増える…それは確かに強いね」


そう考えると、毒属性はこれからかなりお世話になりそうだね。

だって、レベル2ダンジョンを攻略するのに適正な人数は4人。

私達は2人だから、本来の倍大変って事。

毒のダメージ込みでもあと一人は欲しい。


…誰か、私達の仲間になってくれそうな人いないかな?









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る