第11話 猛毒の大蛇バジリスク

「さて、着いたよ」

「…いかにもって感じの広場だね。それで?私達をもてなしてくれるホストは何処に?」

「う〜ん……あっちだね」


九番街を越え、十番街にやって来た私達。

そのまま駆け足でボスがいると言う街の中心の広場にやって来た。

大きな瓦礫が不自然に散乱し、いかにもここに隠れてくださいと言っているような地形。

石化の魔眼を逃れるには丁度いいね。


そんな観察をしているうちに、崩れた家の2階部分から、体長10メートルほど…アナコンダサイズの大蛇が現れた。


「さあ、おいでなすった!エリア9の負けイベ最強最悪と呼ばれ、ダンジョンのボスとしても全体で二番目の難易度と呼ばれるボス。バジリスク」

「そんなにやばいの?」

「やばいとも!耐性がないとまともな戦闘にならない石化の魔眼。それを対策しても次は猛毒が厄介。なにせ、序盤の冒険者にはあの毒を解毒する方法がないからね」

「噛まれたら終わり、ね…確かに厄介極まる」


こちらを見つめ、どちらから襲うか獲物を見定めるバジリスク。

…石化の魔眼が使われている気配ない。

ここで攻める!


私は全力で駆け出すと、ポケットに入れていた真っ黒な袋を取り出す。


(バジリスクは視覚と聴覚で獲物を探す。そして、視覚には厄介な石化の魔眼がある。だから、まずは目を潰す。物理的に破壊する必要はない。目隠しが出来ればそれでいいんだよ)


戦闘を始める前の作戦会議で莉音が言っていたやり方。

私はその方法で攻めることにした。

こちらへ向かってくる私に石化の魔眼が向けられるが…耐性があるから恐れることは無い。


「その頭…隠してあげる」

「シャァアアアアア!!!」


飛びかかってきたバジリスクに黒い袋の口を開けて構える。

そして、バジリスクの頭が黒い袋の中に入るように動かし……頭を袋の中に入れることに成功した。

私は急いで袋の紐を引っ張ると、大急ぎで紐を縛る。


「よし!これでもう魔眼は使わせない!」

「まだ安心するには早いよ。ヘビは脱走のプロ。こんな袋から抜け出すなんてお茶の子さいさい。出てこられる前に叩き潰す」


そう言って、思いっきりバジリスクの体を蹴り上げたかと思えば、持ち上がった体に拳を振り下ろす莉音。

私達が付けている武器は、見た目はただの古びた貴族の手袋。

骨の方がダメージは出るらしいけど…それよりもセット効果の筋力強化の方が強いらしい。


強化されたフィジカルを活かし、2人でバジリスクをボコボコにする。


「もう出てきた。小春、石化の魔眼は正直どうにでもなる。噛まれないように最大限警戒して!」

「分かった!」


バジリスクの毒は危険だ。

噛まれたらおしまいと考えたほうが良いくらいの猛毒。

黒い袋の役割は石化の魔眼を抑える事だけでなく、噛みつき攻撃をさせないと言う意味もあった。


「シャァアアアアア!!」

「怒ってる怒ってる。でもまあ、何もさせないよ」


そう言って、莉音はロープを取り出した。

そのロープを持ってバジリスクの背後に立つと、素早く顎の下にロープを通し、効果音がつきそうな早業でバジリスクの口を縛った。


「よし!これで―――ッ!?」

「莉音!!」


バジリスクの口を縛ったまでは良かった。

ただ、あれだけバジリスクの近くにいれば当然狙われる。

莉音の体にバジリスクが巻き付き、体を締め付け始めたのだ。

私は急いで駆け寄って何度もバジリスクの体を殴る。


「離せ!莉音を離せッ!!!」

「小春…ただ殴るだけじゃ駄目…頭を潰して…」

「頭!?……分かった!ちょっと痛いけど我慢してね!」

「何を…うわっ!?」


私は莉音の体を倒し、一緒にバジリスクを地に這わせる。

こうすれば潰しやすい。


「この!離せ!離せッ!!」

「もっと強く!多分そんなに効いてないよ!」

「じゃあどうしたら!!…いや、なんとかなる!」


私は視界に入った瓦礫を見てコイツを倒す方法を思いついた。

急いで瓦礫の近くにやって来ると、サッカーボールくらいの大きさの瓦礫を持ってくる。

そして、それをバジリスクの頭に振り下ろした。


「やっぱり鈍器。鈍器は強い!」

「気を付けてよ。バジリスクの血には毒があるんだから…目に入ったら大変な事になる」

「…なんか意外と大丈夫そう?」

「いや…まあ、毒蛇だから筋力そんなに無いんだよね……多分、私が潰されるより小春が倒す方が早い」

「分かった!絶対助けるね!」


絶対に助ける。助けられる。

私はその一心で瓦礫を振り下ろし続ける。

ボスとはいえそんな事をされれば長くは持たない。


「シュゥウウウ…」

「おっ?これはいけるね。ふん!」

「莉音!!」


殴られ過ぎて力が入らなくなったバジリスク。

莉音はそれを見抜いて拘束を抜け出した。

そして、私に抱き着いてくる。


「ありがとう。小春」

「…別に」

「もう。照れちゃって…さて、さっさとバジリスクを倒しちゃおうか」


莉音はとてもうれしそうにしながら私の持っていた瓦礫を持ってバジリスクに近づく。


「はい、お疲れ様」


そんな事を言って全力で瓦礫を振り下ろし、私の攻撃を受けて弱っていたバジリスクにとどめを刺した。


「う~ん…やっぱりレベルは上がらないか…」

「…ここでレベリングするとか言わないよね?」

「それはないかな…まあ、それ以上の苦行をするつもりだけどね」

「…え?」


苦行?

えっ、苦行!?


「バジリスクは次のダンジョンに行くうえで必須なものしかないからね。武器、防具、アクセサリー。どれをとっても有用だし、優秀。しかも、かなり長く使える」

「…で?」

「その装備を手に入れて、強化することにこの休日を使うよ!」

「…私帰る」

「逃がさないよ」


逃げようとしたら先回りされて捕まえられた。

その時の莉音の顔は笑顔だけど全く楽しそうでもないし、なんだか怖い。


「私と一緒にビックになるんでしょ?」

「…今日は門限までに帰るからね」

「そこはちゃんと考えてるから大丈夫。さあ!レッツ周回!」

「はぁ…最悪だ…」。


せっかくバジリスクを倒し、ダンジョンを一つ攻略した達成感に浸ろうとしたのに…雰囲気が全部壊された。

莉音の事を睨むけど、莉音はどこ吹く風といった様子。

私の事なんか無視して、装備の抽出を始めた。

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