第10話 次のステージ

高校に行く5日間が終わり、今日は土曜日。

そして、珍しくお母さんが休みだ。


「…またダンジョンに行くの?」

「多分ね。莉音の性格を考えたら絶対懲りてない」

「まあ、そうでしょうね。赤森さんから電話もあったし、そのうち来るでしょう」


…流石はお母さん。

察しが良くて助かるし、私のすることにも理解がある。

止めるような真似をしない。


……まあ、それでも私は絶対に『いいお母さん』とは言わないけど。


そんな話をしているうちに、うちのインターホンが鳴る。

そして、私達が何か言う間もなくドアが開かれた。


「小春ー!ダンジョン行くよ〜!」


なんの躊躇いもなくうちに上がってくる莉音。

そして私のお母さんを見て元気よく挨拶とお辞儀をする。


はるかお義母さん!おはようございます!」

「おはよう。莉音ちゃん」

「…なんか、別の意味の“おかあさん”に聞こえたんだけど?」

「え?何が?」

「うふふふ…」


確信犯だなぁ…

そして、お母さんも誇らしげだし。

まあ、私のお母さんは同性婚で私を産んだ人だからこう言うことが当たり前なのかも。

…だとしても、親として威厳のある立ち振舞をしてほしい。


「行ってらっしゃい、小春。あと莉音ちゃん?先週のこともあるから、暗くなる前には帰るようにね?」

「は〜い!じゃあ行こうよ!」

「ちょっ!手引っ張らないで!」


莉音に引っ張られて家を出る。

今週もまたダンジョンでボス周回をさせられるんじゃないかって気がして今から気が重い。

私は朝からテンションが下がった状態でダンジョンへ向かった。








ロストタウン六番街

先週五番街を攻略し、必要な装備を全て集めた。

そのため次のエリアである六番街へ。


「相変わらず景色は変わらないね。莉音。六番街のモンスターは?」

「石像2種だけ。目新しいものも、探す必要のあるものも無いし、スキップして九番街へ行くよ」

「…七番街じゃなくて?」

「六、七、八番街はな〜んにも無いの。新しいモンスターが出てくるわけでもないし…何よりレベリングも先週の件で必要なくなったし、一気に九番街まで行こうと思ってね」


なるほど…確かにそれなら真っ直ぐ九番街に行くほうがいいかもね。

…レベリングが必要無いのは地味に嬉しい。


◆ 名前 神宮小春

種族 ヒト

職業 学生・拳闘士

レベル8

スキル《格闘術》

装備 防具『朽ちた高貴』

   武器『朽ちた高貴』

   セット効果 筋力強化小

アクセサリー 首飾り『朽ちた高貴』


◆ 名前 赤森莉音

種族 ヒト

職業 学生・戦巫女

レベル8

スキル《格闘術》《法術》

装備 防具『朽ちた高貴』

   武器『朽ちた高貴』

   セット効果 筋力強化小

アクセサリー 首飾り『朽ちた高貴』


思えばレベルが3も上がったんだね…

通りで後半楽に倒せるなぁって思った訳だ。

レベル5でちょっと苦戦したくらい…まあ、ギリギリ優勢くらいかな?


「じゃあ走ろうか。石像に囲まれると面倒くさいからね」

「そうだね。さて…普段運動をしない莉音さんは、私に付いてこれるかな?」

「むっ!最近はちゃんと運動してるもん!」

「なら、頑張ったら追い付けるかもね〜」


そう言って、私達は一緒に走り出す。

やっぱり私の方が少し速くて、六番街を出た時には莉音がへそを曲げてしまった。

莉音の機嫌を取りながら七番街、八番街も攻略し、到着した九番街。


「うわっ…!街が破壊されてる…」


九番街はそれまでの街の景色とは一変して街が破壊されていた。

どの家もボロボロで、全損している家だってあるくらいだ。


莉音が前に出てきて、私の方に向き直る。


「さて、ここからは気を引き締めて行かないといけないよ?」

「危険なモンスターが居るの?」

「まあ…そうとも言える」

「?」


何故か曖昧な答えを返す莉音。

モンスターだけどモンスターじゃない的な感じかな?


「ダンジョンには討伐不可モンスターと呼ばれる種類のモンスターが居るの。名前の通り何しても一切ダメージを負わず、絶対に倒せないからそう呼ばれてる」

「それが厄介と…なんでそんなの居るの?」

「ゲームとかでも、そのエリアや章のボスに追われるパートあるでしょ?それみたいに、本当は戦ったら勝てそうだけど、シナリオの都合上勝てないヤツ…いわゆる負けイベだね」

「ふ〜ん…」


負けイベか…嫌だなぁ、そう言うの。

なんか気分悪いんだよね…

絶望させたいんだろうけど…そんなイベント用意するくらいならさっさと次に進ませてほしいって思うからね。

はあ…なんかやる気でないなぁ〜…


「嫌そうだね。…まあ、かくいう私も嫌なんだけど」

「そうなの?」

「まあね…この負けイベは最強最悪の負けイベだから」

「…まじ?」


いや…ここってチュートリアルダンジョンだよね?

そのチュートリアルダンジョンの負けイベが最強最悪ってマ?


「もちろん、装備をガチガチに固めたら余裕だよ?でも、適正レベル、適正装備で考えた場合…最強最悪なのはここなんだよね」

「なんで?どう言う理由でそう言われるの?」

「それはね……」


莉音が理由を話そうとしたその時、近くにあった家が急に崩れだした。

そして、中から黒い影が現れる。


「まじか…逃げるよ!」

「ええっ!?」


莉音は私の手を掴んで走る。

私も最初は戸惑ったけど、不味い気がして自分から走る。


実際、その感覚は間違ってなかった。


「なにあれ!?」


家の中から現れたのは、全長10メートルはある巨体を持つヘビ。

暗い緑色の鱗に覆われた体をくねらせ、黄色い瞳と赤い瞳孔でこちらを見ている。


「バジリスク。ロストタウンを滅ぼした元凶にして、このロストタウンにおけるボスモンスターだよ」

「アレが!?」


ロストタウンのボスモンスター。

その名もバジリスク。

…バジリスクって神話とかに出てくるやばいヘビじゃはいの?

こんなクソ序盤に出てきていいモンスターなの!?


「適正レベルで考えた場合、最強最悪の負けイベ。その理由はアイツの目だよ」

「目?」

「石化の魔眼。見た相手を石化させる魔眼で、耐性がないと数秒で全身石にされる」

「はあ!?」


やばいじゃん!

…あっ!でも確か今着てる防具には石化耐性があったはず。

じゃあ怖くないね。


「耐性があっても数分で全身石化だよ」

「…え?」

「まあ、私達の場合は防具とアクセサリーの効果で2重の耐性があるから十数分は持つよ。だけど、隠れたほうがいい事は事実。まだ壊れてない家に気づかれないように隠れるよ!」


壊れてない家…そんなの見当たらない!

しかも、隠れるときはアイツに気付かれないようにって…無理でしょそんなの!

何処か…壊れてない家……アレは!?


「莉音!あの家は!?」

「…まあ、ギリギリ隠れられそう。よしあの家に逃げ込むよ!」


私が見つけたのは、半壊程度には壊れているけれど、身を隠せそうなくらいには形が残っている家。

そこに向かって全力で走る。

すると、莉音がストレージから何かを取り出した。


「アイツの目と耳を狂わせる。絶対に後ろを振り返らないのと、耳を塞いでおいて」

「分かった!」


莉音は私に警告したあと、その取り出したものを投げる。

そして自分も耳を塞いだ。

その直後、後ろから眩い閃光と耳が割れそうな高音が響き、私の体が一瞬硬直する。

しかし、逃げられるのは今しかないと思い、全力で家まで走ると、そのまま中へ転がり込んだ。


「どうなった?」

「閃光玉は効いてるね。五番街で拾えて良かった」


閃光玉。

文字通り閃光を放つ目眩まし用のアイテムで、光と同時に音も出すから目が見えなかったり、目だけでなく音でこちらを追ってくる相手にも効果がある。


五番街の小さな王の屋敷でたまたま見つけていたんだ。

それがもう役に立つとはね。

でも…


「…大丈夫?ヘビって臭いで獲物を探すんじゃないの?」

「そこに関しては大丈夫。バジリスクは臭いで感知する機能が殆どない代わりに、目と音を拾う器官が発達してる。その両方を閃光玉で潰したからアイツは私達の居場所が分からない」


そう言って、ドヤ顔を見せる莉音。

それからバジリスクに見つからないように息を潜め、隠れ続けているといつの間にか居なくなっていた。

石化の魔眼は視界から外れて一分経つと効果が切れるらしい。


近くにバジリスクが居ない事を確認し、私達は次のエリアに急いで向かった。

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