第20話 淡水魚
また一週間学校へ行きやってきた休日。
今日はひたすらイエロージョージを狩りまくり、レベリングと魔石集めに励んだ。
「よし!じゃあレベリングはここまで。少しだけ先に進もうか」
「じゃあさ?その前に抽出した装備について教えてよ。使わないにしても気になるし」
「それもそうか。じゃあ歩きながら話そうか」
莉音は次のエリア6に向かうついでに手に入れた装備の話をしてくれる。
「イエロージョージの装備は、防御力+25の水耐性0.9の『淡水魚』という防具と、水属性のガントレットだね。弱点属性がない防具ではあるけれど、いかんせん水耐性がしょぼすぎる。だからまあ、出来ることが少ない防具ではあるね。そして武器についてだけど…まあ、防具がアレな時点で武器もたかが知れてる」
「特殊効果とかは?」
「特にないし、セット効果も水耐性上昇という元が低いからあんまり当てにならないね。『大蛇』があるなら使わない防具だよ」
「なるほど…コレクション用に取っただけって感じか」
コレクションか…まあ、見た目もどぎつい蛍光色の黄色のサメ肌を使った鎧と、サメの頭をそのまま腕にはめて使うタイプ。
正直使いたくないし、コレクションにしておくのが吉だね。
まあ、装備の話はこれくらいにして、レベリングの成果を確認しよう。
今の私達のレベルは私と莉音がレベル19、リカさんがレベル21と少し上がった。
これくらいあればレベル2ダンジョンは攻略できるらしく、後は先に進むだけ。
エリア6へとやってきた私達を出迎えてくれたのは――
「なにあれ…」
――手足の生えた体長1メートルほどの魚たちの群れ。
私はその光景に度肝を抜かれて数秒固まってしまう。
「な、なんなのこのキショイ魚の群れ…」
「こいつらはエリア6から出現するモンスター。名前は『ウォーキングフィッシュ』だよ」
ウォーキングフィッシュ……歩く魚か。
そのまんま過ぎるし、絶妙にキショイから嫌だ。
そんな事を考えていると、ウォーキングフィッシュの1匹と目が合った。
その瞬間、気でも狂ったように襲い掛かってくるウォーキングフィッシュ。
それに当てられて、近くにいたほかのウォーキングフィッシュも反応し、群れ全体で襲い掛かってくる。
「ヤバイ数来てるよ!?」
「問題ないよ。1匹1匹はそこまで強くないから簡単に倒せる。そうでしょリオン」
「うん。リカの言う通り1匹1匹は大したことないから大丈夫!」
ざっくり見ても50匹はいる。
でも、そんなに強くないのなら何とかなるかも。
そう信じて目の前に迫ってきたウォーキングフィッシュを殴る。
すると、一撃で倒せてしまい、どこかで見覚えのある魚と魔石が残った。
まさかこんなに弱いなんて…これなら何とかなる!
確信を持った私は、3人でウォーキングフィッシュの群れと戦う。
ものの数分で全滅させることに成功し、辺りには魚と魔石が散乱していた。
「ウォーキングフィッシュは食用の魚を落とすから、漁にも使われることがあるんだよ。味は淡白で臭みの少ない癖のない魚。海で取れる魚で言うと、アジに近いかな?ストレージに入れて後で売りに行こう」
「ちなみに何て名前で売られてるの?」
「ヌマアジ」
「通りで見覚えがあるわけだ…」
ヌマアジはすごく一般的な魚で、安く変える庶民の味方だ。
私も家で魚を食べると言えば基本ヌマアジだし。
ここで獲れる魚なんだね?
「淡水魚にしては臭みも無ければ僅かに塩味も感じるという、本当に淡水魚か疑いたくなる味だよね。しかも、うま味も強いからどんな調理法でも美味しいし」
「そうなんだ。私はあんまり食べないからわかんないけど…リオン、ヌマアジのおいしい食べ方って何?」
「金持ちめ…ヌマアジなんてどんな食べ方しても美味しいよ。まあ、本当においしい魚を食べてるリカには分からないよね」
「ごめんって…」
リカのお金持ち要素が垣間見える発言。
卑しい莉音はかなりリカさんの事をいじってるけど、私も羨ましいなって思ったから助けてあげない。
2人がじゃれ合っている姿を見ていると、ウォーキングフィッシュがこっちに迫ってきているのが見えた。
しかも、さっきより数が多い群れで。
「莉音!リカさん!」
「あ~…アレはめんどくさいね。逃げよう!」
「足元に気を付けてね?小春ちゃん」
私が指さすと、あの数を相手するのは面倒と見た莉音が素早く逃げの選択を取る。
リカさんもすぐに逃げの姿勢を取り、私もそれに従って走る。
ぬかるみにハマらないように気をつけながら走り続けていると、段差が見えた。
エリア7への境界だ。
あそこを超えればもうあいつらも寄ってこないだろう。
…振り返るとそのたびに数が増えていて、今ではもう何百匹いるかわかんないし。
段差を超えてエリア7へ移動すると、ウォーキングフィッシュは突然走るのをやめて引き返していく。
興味の失い方というか…落差が凄い。
「あれを見るとわかるでしょ?ヌマアジがスーパーに並ぶ理由が」
「だね。何百というか、もう1000以上いるよねあれ」
「その上復活も早いからいくらでも市場に流せる。ヌマアジが安い理由だね」
私達が手軽にヌマアジを食べられる理由を知り、私はダンジョンの恵みに感謝する。
そして振り返って先に進もうとすると…
「ああ、こっちにもいるんだね」
すぐ後ろにウォーキングフィッシュがおり、いきなり殴られそうになった。
それから数時間。
私達は駆け足で攻略を進め、少し進む予定のはずがいつの間にかエリア10まで到達していた。
「とうとう来たねエリア10。中ボスはキショイサメだったけど、こっちはどうだろう?」
「エリア9では何故か出てこなくてびっくりしたもんね?まあ、毎回出会えるわけじゃないし、居ないならそれに越した事は無いけどさ」
エリア9でこのダンジョンのボスが分かるはずなんだけど、どういうわけかボスに襲われなかった。
まあ、別に襲われないと困るわけでもないし、負けイベは嫌いだからむしろ大歓迎。
だから、私はここのボスがどんなやつなのか楽しみだ。
…同時に心配でもあるけど。
「さて、たしかこのあたりに立ったら出てくるはずなんだけど…」
莉音が前に出てボスを探す。
私もそれについて行こうとすると、リカさんが突然叫ぶ。
「二人とも下がって!!」
本気の警告にすぐに私達は下がってくる。すると、突然ぬかるんでいた地面が膨らんだかと思えば、そこから大きな影が現れる。
それはまるで魚のようで……足が生えているのを見て魚でないと確信する。
「やっぱりそっち系か…」
現れたのは、トラックほどの巨体を持つその体に対してアンバランスな二本脚の魚。
まるでフナに無理矢理足をくっつけたような魚がボスモンスターだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます