第38話 ギリギリスレスレ

「た、耐えた〜!」


テストが終わり、返ってきた解答用紙の束を見て私は全てを吐き出すようにそう漏らした。

隣には莉音と詩音が居て、それぞれ自分のテストを眺めている。


「相変わらず莉音先輩は中々取ってるっすね?」

「詩音もまあまあ良い点じゃん。どこかの誰かと違ってさ」

「一体どこの誰っすかねぇ〜?」


テストなんて余裕と言わんばかりの態度。

実際危なげない点数だし、2人にとっては余裕なんだろうね。

…でも私をすぐに煽ってくるのは気に入らない。

気に入らないから、ただじゃ済まさないよ。


「今日は2人にご飯奢ってもらおうかなぁ?」

「いやいや、そんなお金ないって…」

「補助金暮らしの貧乏高校生舐めないで欲しいっす」


2人にご飯を集ろうとしたけど、2人ともお金が無いから無理らしい。

お金か…これで冒険者業を再開できるし今度こそ稼ぐぞ!


「とりあえずご飯は諦めて冒険者!憎き中間テストは終わった!」

「あと4回潜ったら次は期末だからね」

「……高校生やめようかな?」

「遥お義母さんとガチの喧嘩になるからやめて」


嫌だよ〜!期末テスト受けたくないよぉ〜!

どうせまたお母さんからテスト期間中の冒険者禁止言われるって。

私たちの将来がかかってる大事な時期なのに…

暇を持て余してるリカさんは毎日のようにお母さんのバーで飲んだくれてるしさ。

私達が大変な時に何やってんだって、莉音が結構ガチ目にキレてたよ?


「リカさん、元気にしてるかな?」

「あの酒カスの事なんかどうでもいいよ」

「飲み代を冒険者の消耗品代に充てればもう少し楽だと思うっすけど…」

「ほんとそれ」

「いや、反省してるから。だから目の前にいるのにフル無視やめて」


……さて、冗談はこれくらいにして、ちゃんとリカさんの相手をしてあげますか。

今は下校中で、テストが返ってきたって聞いたリカさんは当然校門で出待ちしてた。

私達は怒ってるからしばらく無視してたけど、割と本気で悲しそうにしてるのを見て私はやめることにした。


「で?無駄に消費した飲み代数万はどう返すつもりなの?」

「あれは元々何かあった時用に貯めてた貯金を崩して通ってたからね。冒険者の必要経費とは別」

「お母さんと飲む酒は美味しかった?」

「お酒は美味しかったよ。遥さんに見られながらは結構気まずかったけど」


気まずかった…そう言う割にはお母さんは毎日楽しそうだったけどね?

リカさんと話した日はいつもより疲れてないように見えた。

そう考えると、話し相手が居るって大切だね。


「今後もお母さんをよろしくね。でも、飲み過ぎて体を壊さないでよ」

「もちろんだよ。昼間っからお酒を飲んでも怒られなくて、かつ普通に飲むより安くしてくれるなんて最高だよ?」

「私には分かんないね」

「まだまだ子供ね〜。でもだからこそ、楽しみにしてるよ。小春ちゃんとお酒を飲みに行く未来」


まるで良いことのように締めくくってるけど、言ってること酒カスのそれだからね?

私はリカさんのようにはならないように気をつけないと。


「…歳上属性って強いっすね?」

「ね?ちょっと油断してた」

「2人も張り合わなくていいから」


一緒にお酒を飲むのを楽しみにしてる、と言うセリフが格好良く感じたのか、莉音と詩音が殺気立つ。

キシャー!と言う威嚇が聞こえてきそうなほど、リカさんの事を睨んでるね。

…でも、リカさんだってもう慣れた。

まるで歳上の余裕を見せつけるかのように軽くあしらって、私の腕に抱きついてくる。


「お酒は飲めないけどコーヒーなら飲めるよね?遥さんから聞いた美味しい喫茶店があるらしいんだけどさ?2人で行かない?」

「リカさんも隠さなくなった上に大胆だよね」

「大胆な私は解釈違いを起こすかな?」

「全然?私、自分の意見をはっきり言える恋人が好きだから」

「そっか。じゃあそこのガキ2人を置いて行こ?」


めっちゃ煽る煽る。

私が抱きつかれてない方の腕でステイをしてなかったら、今頃2人ともリカさんに飛びかかってる。

リカさんもそれをわかってるから、ガラス越しの犬みたいにかなり強気だ。


「そうやって自分を主張してくれるのは嬉しいけど、私はみんなに仲良くしてほしい。それに…大人気ないよ?リカさん」

「うっ!」

「…フッ」

「ぷぷぷ…!」


2人にしっかり聞こえるように叱っておく。

これで2人の溜飲も下がった事だろう。

こうやってみんなの仲が悪くならないように調整するのも私の役目。

勢いを失って私の腕から離れると、私の隣を詩音に譲り、前を歩く。


「テストが終わったのなら、冒険者解禁かな?ああでも、すぐに期末テストがあるもんね」

「やだなぁ…期末テスト」


今からそんな事考えたくない。

でも、考えないわけにはいかない。

これから授業を真面目に受けて、少しでも勉強しやすいようにしないと今度こそお母さんが…

はぁ、やだなぁ…早く卒業したい。


「とりあえず数回はダンジョンに行けるでしょ?土曜日、ダンジョンの入口で待ってるね」

「え?リカさん帰るの?」

「いやぁ…実は家族に最近毎日バーに通ってることがバレちゃって…」

「…もしかして、逃げてた?」

「まあね。流石にそろそろ帰らないとただ怒られるだけじゃ済まなそうだから、今から怒られに行ってくる」


そう言って、リカさんは私達とは反対方向に歩いていった。

…あの人家族に黙って毎日バーに行ってたの?

それ、かなりやばいことしてない?


「リカ、大丈夫かな?」

「流石に冒険者やめろとは言われないと思うっすけど…ちょっと怖いっすね」


リカさんが叱られるのは、自業自得な部分があるけどその結果冒険者をやめろって言われたら私たちも困る。

いざとなったら助けてあげないと。

私の方から事情を説明して、リカさんが必要だってことをリカさんの家族に伝える。

私のお母さんの話し相手になってくれて、メンタルケアをしてくれたお礼だ。


「何かあったら私を頼ってね?絶対に力になれるから!」

「うん!その時は頼むね!」


リカさんに私が力になる事を伝えておく。

笑顔で手を降ってくれたし、ちゃんと1人じゃないって分かってくれたはず。

さて、私達も帰ろうか。


…ちなみに、夜になってリカさんから電話が掛かってきてめちゃくちゃ怒られたって泣きつかれた。

電話越しにリカさんが落ち着くまで慰めてあげたのは、2人だけの秘密。







土曜日

テスト明け最初のダンジョン攻略は、莉音にお金を渡して熱帯エリアでも活動できるアイテム、『アイスの実ジュース』を買ってきてもらった。

『カラカラ砂漠』に入ってすぐにそれを飲んでみるとあら不思議。

最初はただの冷たいジュースかと思ったら、急に体感温度が低くなってとても快適になった。


「これは良いね。もっと前に買えばよかった」

「ホントにね?小春のお母さんがお金を持ってくれて良かった」


体感温度が下がった所で今日のダンジョン攻略を開始。

まずはアルマジロしか出てこないエリア1をあっという間に突破。

続いてやって来たエリア2も、アルマジロがちょっと強くなっただけ。

エリア3に来ると包帯でぐるぐる巻きにされた死体。

いわゆるミイラって奴が現れたけど、ちょっと強いゾンビだった。

特に苦戦することもなく、また包帯で包まれているからかいつぞやの様に汚い汁が飛び散ることもなかった。

エリア4はミイラとアルマジロの混合。

ひっきりなしに襲いかかってくるアルマジロの群れに混じって襲って来るミイラ。

まあまあ厄介だったけど、私達の敵じゃない。

襲ってきた奴らは全部返り討ちにして、エリア5までやって来た。


「岩石砂漠の中ボスか…想像できないね」

「私もリオンほど詳しくないからね。…ゴーレムとかだったらどうしよう?」

「あの岩で出来たモンスター?今の私達で勝てるの?ゴーレムって」

「岩の強度次第かなぁ…」


エリア5の中ボスがどんな奴なのか分からない私とリカさんは、ニヤニヤしている莉音の横でどんなボスが現れるか考察する。

しばらく歩いてエリア5の奥まで来たとき、リカさんがモンスターの気配を察知し戦闘態勢を取る。

私と莉音も構えると、岩陰から如何にも民族衣装らしい格好をした、赤色の肌を持つ人型のモンスターが現れた。


「何あいつ…」

「『荒地の蛮族』。ここ『カラカラ砂漠』の中ボスで、中々厄介なモンスターだよ」

「蛮族か…人間?」

「いや?お面で顔を隠してるけど、その裏側は正直見たものじゃないくらいキショイらしい。とても人間には見えないんだとか?」

「なら躊躇しなくていいね」


私が拳を握りしめると、荒地の蛮族は奇妙な踊りを始めた。

あいつなりの戦闘前の儀式なのかと思って傍観していると、突然地面が発光する。

そして、近くに転がっていた石や岩が集まり、人型になって動き始めた。

しかも、一体ではなく三体は居る。


「ゴーレム…」

「あれが?」

「『ストーンゴーレム』だね。石が魔法でくっつけられて出来たモンスターで、中々硬い。でも、接着面は脆いから石を砕くと言うよりは接着面を剥がすイメージで攻撃すると弱いよ」


接着面を剥がす、か…

難しい注文だけど、なんとかなりそう。

んで、問題はあの荒地の蛮族だけど…


「あいつ、ただゴーレムを召喚するだけのモンスターじゃないよね?」

「そうだね。近くの石を魔法で浮かせて飛ばしてくるよ」

「それだけ?」

「まあ、レベル2ダンジョンだからね。でも、戦いが長引くと遠くにある石なんかも引き寄せてストーンゴーレムが作られるから、最終的に数の暴力で袋叩きにされる。ゴーレムの数が少ないうちにかたをつけるよ!」

「「了解!」」


ゴーレムが少ないうちに倒してしまう。

簡単な指示で助かるね。

私達はまずは荒地の蛮族を倒す上で邪魔になるゴーレムを排除すべく、それぞれ散らばってゴーレムと向かい合った。


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2024年12月18日 07:00

18歳になったので冒険者になろうと思います! カイン・フォーター @kurooaa

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