第125話の次。
本篇の第126話にあたるお話です。
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「ただいま〜」
神林さんが家に帰った数分後に私も家に入る。
台所にいるであろう神林さんに聞こえるよう、大きな声で『ただいま』を言うが、返事がない。
靴を脱いで台所へ向かうと、神林さんがかなり落ち込んでいる様子で、夜ご飯の準備をしていた。
「神林さん。ただいま〜」
「…お帰り。楽しかった?」
「はい!とっても楽しかったですよ?あっ!これ、ゲームセンターで取った景品です」
そう言って、ぬいぐるみを見せると神林さんは作り物のような笑みを浮かべた。
「良かったわね。いいものが取れて」
「は、はい」
私を褒める言葉はどこか冷たく感じ、あからさまに嘘をついているみたいだ。
…まあ、あんなのもを見た後じゃそうだよね。
想像以上に神林さんがショックを受けているみたいだから、明日からはあの茶番はやめにしよう。
きっぱりとそう決めて、私は神林さんの作ってくれたご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、同じ布団で寝た。
翌朝
神林さんに起こされて、眠い目をこすりながら顔を洗うと、食卓へやってきた。
神林さんが用意してくれた朝ご飯を食べていると、私の反対側で同じように朝ご飯を食べている神林さんが話しかけてきた。
「今日も遊びに行くの?」
今日も遊びに行くのか?
またあの得体のしれない男と一緒にデートするのかって、神林さんからすれば不安で仕方ないだろう。
神林さんを安心させるためにも、私は首を横に振る。
「いいえ。最近はあんまり神林さんとイチャイチャできてないので、今日はずっと一緒ですよ」
「…そっか。よかった」
止まっていた箸を進め、ご飯を食べる神林さん。
何でもないように見えるけど…どこかぎこちないような気がする。
…それを、『なんでだろう?』って思う資格は私にない。
だって…これは私が選んだことなのだから。
「今日も神林さんのご飯はおいしいです!」
「そっか…ありがとう」
口先だけの誉め言葉と、感情の感じられない感謝。
…表面だけを見ればいつも通りの日常が、歪んでいるのは当たり前の事。
この時になって私は、自分がこの先この関係を続けていられるのか不安になった。
でもこれは…まだ始まりであることを、この時の私は知らない。