107話ショートストーリー
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避難のため喫茶店にやってきた私と神林さんは、逃げるか逃げないか迷っている店員さんに、『モンスターが来たら私たちが守る』と伝え、残ってもらって飲み物を出してもらうことに成功。
私はオレンジジュースを、神林さんはアイスコーヒーを注文した。
「…絶対迷惑ですよね?」
「そうだね」
神林さんはこの行為がすごく迷惑だということを理解しているらしい。
なおの事質悪いな、この人。
「お、お待たせしました。オレンジジュースとアイスコーヒーです…」
「ありがとう。あなた達の安全は、私たちが絶対に保証するから安心して」
「はい…」
引き攣った顔の店員さん。
…いや、この状況で残ってるくらいだから、責任者――店長とかその辺だろう。
大変だなあ、この人も。
「あっ!ちょっといいですか?」
私は席を立って神林さんに聞こえない位置に来ると、この人だけに聞こえる声で話す。
「良ければ逃げ遅れた他のの客さんと逃げて下さい。レジのお金を盗むなんて、姑息な真似はしませんので」
「そうですね。他のお客様が首を縦に振られれば、そうさせてもらいます」
これで、店員さんは逃げられるようになった。
あと、逃げ遅れたのか知らないけど、何故か店に残ってるお客さんも。
…あの人はなんで逃げないんだ?
不思議に思いながら神林さんの隣に戻ってくると、いきなり抱き着かれてそのままホールドされる。
これ逃がしてもらえないやつだ。
「かわいいねぇ…大好きだよ?かずちゃん」
「どうしたんですか?急に。そんなことでは私を絆せませんよ?」
私は早く現場に戻ってスタンピード鎮圧に参加したいのに、神林さんがそれを認可してくれない。
だから実は不機嫌の絶頂なんだけど…ここで文句を言ったら神林さんとガチ喧嘩になりそうだから我慢。
それに、ここには店員さんや何故か帰らないお客さんもいる。
こんな場所で喧嘩はしたくないんだよね…
「神林さん、よくこの状況でこんなことできますね。流石は《鋼の心》を持つだけはありますね」
「誉め言葉として受け取らせてもらうよ」
「そう考えられる頭がうらやましいですよ。…ちょっと店員さんに謝ってきます」
「しなきゃダメ?」
「ダメ!」
仕方なく放してくれた神林さんの腕の中を抜けると、店員さんに謝りに行く。
すると、残っていたお客さんにと話していた店員さんの方から怒鳴り声がしてきた。
「だから何度も言っているだろう!この店から出て逃げるより、ここにいる方が安全なんだよ!外に出たらばったりモンスターに出くわすかもしれないだろうが!?」
残っていたお客さん…それも、見るからに頭が固そうで、めんどくさそうなおっさんだ。
おっさんが何か騒いでる。
私から言わせてみれば、ここにモンスターが入ってくる可能性は十分にある。
だから安全とは言えないんだけど…まあ、確かに今から外に出てモンスターに出くわすかもしれないってことを考えれば、ここにいる方が安全かも…?
「それに、そこにいる冒険者は強い。この前テレビで観たぞ?突然出現した巨大なモンスターや、モンスターの群れを殲滅した子供らだろ?」
「え?まあ、はい…」
なんかこっちに飛んできたんだけど?
これ、私巻き込まれないよね?
「あんたらがいるから、ここは下手な避難所よりも安全だろう。だから俺としては残ってほしいところだが…あんたらほどの冒険者がこんなところで道草食ってるのはどうかと思うぞ?」
「え?えぇ…?」
マジで飛び火したんだけど?
来なかったらよかった…
「あんたらが行かなかったことで一般人に被害が出たらどうするんだ?あれか、スタンピード鎮圧は金にならないから参加しないつもりか?これだから最近の若い奴は…どうしてこう周りを見られないんだ?」
…これ私が悪いの?
こういう時なんていうのか正解なのかわかんないから、何も言えないし逃げられないんだけど…
神林さん!助けて!
魔力をモールス信号のように放ち、SOSと神林さんを呼ぶ。
…神林さんは多分モールス信号を知らないと思うけど…なんとなく察してくれるはず。
来てくれることを祈って魔力を放っていると、神林さんが動いた。
そして、こっちへやってくる。
「うん?あんたがこの子供の保護者か?」
「いいえ。この子は私の大切な相棒であり、パートナー。あんまり虐めないでもらえます?聞いていて不快なので」
容赦なく圧をかけながら頭の固そうなおっさんを黙らせる神林さん。
正直この声とシチュエーションだけで、ご飯が食べられる。
やっぱり神林さんはかっこいい!
感激のあまり放心状態になりかけていると、神林さんが追撃を開始した。
「あなたがどこの誰だか知りませんが、どんな権利があって、どんな立場から、どういうつもりで講釈を垂れているんですか?見たところ、一般会社員ですよね?」
「あ、ああ。そうだが…」
「なら、あまりそういうことはしない方がいいですよ?それに、私が出てきた途端、勢いをなくしましたよね?もしかして、相手を見た目で判断して選んでます?」
「それは…」
…何こいつ?
そう考えたらめっちゃ腹立ってきた。
いいぞ神林さん!もっとやれー!
「見た目で人を判断し、ましてや自分より弱そうな相手しか攻撃しない。あなたに他人を説教する権利があるとでも?」
「……」
「私だって非常識なことをしてる認知はありますよ?でも、こっちにだって理由があるんです。勝手なこと言わないでもらえます?」
う~ん強い。
いくら頑固おやじでも、毛色の違う――というか、キレた冒険者の相手は無理だったか。
不満はあるみたいだけど、格の違いというか、圧倒的格上の圧によって完全に委縮してる。
神林さんの勝ちだね。
「まあ、今から逃げてモンスターに鉢合わせるかもしれないから逃げないって判断には同意します。だから、店員に迷惑をかけない程度に隠れていてください。万が一モンスターが現れれば、私たちが倒します」
そう言って、神林さんは私の手尾引いて席に戻る。
私は店員さんい頭を下げて謝ると、席に戻ってまた神林さんにホールドされた。
以上喫茶店に来た直後のお話でした。
普通に考えて、もうすぐそこまで怪物が来てるかもしれないのに、店員を避難させず店に居座る神林紫は、このお話に出てきたおっさんより迷惑。
なお、本編を書いた時の私はそこまで考えが回っておらず、適当に書いてました。
改めて考えてみると、やってることヤバイな。コレ…