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第57話サイドストーリー マーク

咲島さんに敵が多いと言われたかずちゃんは、ホテルの部屋から出ようとする私をかなり引き留めていた。
何度も行かないでとすり寄ってきて、まるで家に置いて行かれそうになって泣き叫ぶ子犬のようだ。

「や~だ~!」
「大丈夫だよ。私はかずちゃんだけを見てるから」
「やだやだ!」

顔を膨らませてヤダヤダと駄々をこねる。
私の服の裾を掴んで離さない姿は本当にかわいくてかわいくて…

涙目で私の顔を見上げる。
頬を赤くして、表情がくしゃくしゃになっているからか、顎にしわが寄っている。
抱き着いてこないのは、この方が私に効くと思ってるから。

実際、かわいくて仕方ないからあれだけど。

「そんなに心配なら、マーキングでもしたら?」
「マーキング?」
「ほら、ここにさ?」

首筋を指さすと、初心なかずちゃんは一気に真っ赤になって手を放して引っ込んでしまう。
普段はあんなにむっつりで、とってもおませな女の子なのにね?

「ほら、早くしてよ。私はどっちでもいいんだけど」
「…っ!?や、やります!」

背伸びをして私の首筋に唇を近づけると、恐る恐る吸い始めた。

…震えてるから、全然できてなけどね?

顔も耳も真っ赤になりながら、必死に私の首筋を吸おうとして吸えないかずちゃん。
結局最後までマークを付けられづ、かずちゃんは落ち込んでしまった。

…仕方ないね。

「かずちゃん。こっち向いて?」
「はい?――っ!?」

私がかずちゃんの首筋に唇をを付けた。
そして、しっかり消えないように印をつける。

「ふぅ…コレでどう?」
「あっあっ…」

顔がペンキくらい真っ赤になって、全身が小刻みに痙攣し、目の動きがおかしい。
その様子をかわいいなぁと思って見守っていると…

「あふぅ…」
「えっ?」

かずちゃんは真っ赤になったまま倒れてしまった。

…本当に初心だなあ、この子は。

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