第6話 ゾンビ

ゾンビの背後からいきなり現れて、後頭部を思いっきりぶん殴る。


「ガッ!?」


ゾンビは私にぶん殴られてかなりのダメージを受けた様子。

よろよろと揺れて隙だらけ……かと思いきや。


「ウガアアアア…」

「んなっ!?なんで!!」


さっきまでのよろめきが嘘のように消えてなくなり、私に襲い掛かってきた。

それも、まるで糸で引っ張られる人形のように。


そこに莉音が飛び込んできて、強烈なアッパーで顎を撃ち抜く。

その一撃でゾンビは動かなくなり、魔石へと変わった。


「ゾンビ。それは負のエネルギーによって動く死体。正確には、負のエネルギーに操られた死体かな?コイツら自体に意識は無いし、脳を含めた全ての内臓が機能していない。それどころか腐ってる」

「つまり…?」

「ゾンビ自体はただの腐った死体で、普通の生物のようには動かないって事。負のエネルギーをどうにかしないと、例え腕をもごうが頭部を破壊しようが襲いかかってくるよ」

「めんどくさいね…今どうやって倒したの?」

「普通に殴っただけ」


負のエネルギーって、そんな物理的にどうにか出来るものなの?

もっとこう…聖なる力で浄化するとかさ?


「ロストタウンに出てくるアンデッドは物理攻撃で楽に倒せるやつばっかりだよ。正直、アンデッドが厄介になるのはレベル2ダンジョン以降」

「話を聞く限りだと、負のエネルギーをどうにかしないと死なない……文字通りの不死身になりそうだね」

「まあそんなとこ。ささっ、どんどん倒して次に進むよ。時間は無いからね!」


莉音に連れられて先へ進む私。

何度もゾンビに遭遇し、その度にこの装備の有難味を感じていた。

……腐った死体とか触りたくないよ普通。

だから、直接触れなくて良い、ガントレットタイプのこの武器は本当にありがたい。

腐肉に直接触れなくて良いことに感謝していると、予想外の事態が起こった。


「うわっ!?」

「あちゃ〜…これは派手にやられたね」


普通にゾンビを倒そうと頭部を殴ったら、なんと内側から破裂して中身や変な液体が飛び散ってきた。

しかも臭い。


「ゾンビは腐った死体だからね…たまにこうやって腐敗が進んだ個体がいるんだよ」

「臭いよぉ…」

「一旦家屋に入ろうか。それ用の水を持ってきてるからね」


私達は一旦家屋に逃げ込むと、莉音がバックから2リットル入る水入りペットボトルを取り出した。


「洗い通すから服脱いで」

「うぇ〜」

「はいはい。気持ち悪いよね?分かったから服貸して」


私は防具とジャージを脱ぐと、莉音へ渡す。

莉音はそのジャージに水を掛けて洗い始める。

…で?この後どうするの?


「とりあえず、水で汚れは落としたから。この袋に入れて、バックに詰めておいて」

「…私これからどうしたらいい?」


莉音から濡れたジャージとビニール袋を受け取る。

その袋にジャージを入れると、莉音が話しかけてきた。


「防具も水洗いして先に進むか、一旦退いてまた後日来るか」

「帰ろうよ。流石に寒いよ」

「まあ、そうだよね。ホントは三番街まで行きたかったけど…まあ、時間もいい感じだし明日でも良いか…」


腕時計を見て時間を確認する莉音。

私も時計を覗き込むと確かに帰りの時間を含めれば良い感じの時間帯。

帰ろう。

私は今すぐ帰りたい。


全身に腐乱死体の汚物を浴びて気分は最悪。

莉音を引っ張りながらきた道を引き返す。

そして出入口にやって来ると、即座に飛び出した。


「ああ、待って!シャワーならあるよ!」


ダンジョンの入口――混同するからロビーって呼ぼう――からも出ようとしたら莉音に止められた。

そして、そのまま奥まで連れてこられると、そこには確かにシャワー付きの大浴場があった。


「…なんかとても異空間とは思えないハイテクっぷりなんだけど?」

「まあダンジョンだから」

「便利な言葉だね…」


服を脱いで数人が湯船に浸かっている、浴場に入る。


「ボディソープとシャンプーにリンス、コンディショナーもあれば体を洗うためのタオルもついてる至れり尽くせりだね」

「なんだったらサウナや足湯、寝湯なんかもあるし、水飲み場もある。あと薬草を使った薬湯もあるよ」

「薬湯か…効果あるの?」

「ポーション風呂に入っているようなものだよ。まあ、微々たる効果だけどね」


ポーション風呂か…なんか、疲れが取れそうだね。

あと、なんかお肌がきれいになりそう。


「とりあえず体を洗って汗と汚れを落としたら薬湯に入ろう。どんなお風呂か気になる」

「いいね。私も入ってみたかった」


一般的な銭湯のようにシャワーが並ぶ場所で汚れを落とす。

特に今日は1日激しく動いたからかなり汗をかいてる。

いつもよりも念入りに体を洗っていると、後ろから誰かに背中を触られた。

…まあ、私にこんなことをする人なんて一人しかいないけどね。


「ねえ莉音。別に私の体を洗ってくれてる訳じゃないんだよね?」

「うん」

「じゃあ、やめて。気になっちゃうから」

「えぇ~?」


莉音は不満そうにしながらも私の気持ちを尊重して触るのはやめてくれた。

その後は何事もなく体を洗い終わり、まっすぐに薬湯へ向かう。


「ここが薬湯?」

「うん。薬草がいっぱい浮いてるでしょ?」

「なんかお湯の色が緑色だけど大丈夫?」

「そういう色なんだよ。それに、この方が効果ありそうでしょ?」

「まあ、そうかも」


やってきた薬湯は、袋に詰められた葉っぱが沢山浮いている緑色の湯船。

匂いも独特の青臭さがあって独特な匂いをしている。

私は少しためらったけど、莉音は何のためらいもなく入る。


「ふぅ~…」

「どう?効果ありそう?」

「分かんない」

「わかんないかぁ」


漫画の中のおっさんのような溜息をついて、気持ちよさそうにする莉音。

私もそれを見て大丈夫そうだと判断し、お湯につかる。


「あぁ~…」

「なんかおっさんみたいだよ?見たことないけど」

「うるさいなあ。莉音だってそうだったよ」


私の事をおっさんみたいと言う莉音に文句を言いながら、肩までお湯につかってリラックスする。

お湯の温度は薬湯のこっじゅかを維持するためのなのか少しぬるめだけど…このくらいの方がじっくり休めてちょうどいい。


気が付けば20分近くお湯につかっていた。

サウナで汗をかいている莉音を水風呂に突き落とし、時間もないのでパパッと着替えて帰路に就いた。

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