第7話 日曜日
「起きなさい小春。莉音ちゃんが来てるわよ!」
「…私のお母さんのフリして起こしに来るの止めてくれない?」
ダンジョンに初めて行った次の日。
いつもの様にすやすやと寝ていたら、莉音に起こされた。
時刻は8時半。
お母さんはもう出勤してる時間帯だね。
「小春のお母さんに許可は取ってるから大丈夫。むしろ、忙しくて小春に構って上げられない自分の代わりにぜひって」
「どうでもいいよ…どうせ許可取らなくたって勝手に入って来るんだから」
莉音は私の家の鍵を持ってる。
お母さんが鍵を渡してるからだ。
それくらい莉音は信頼されていて、私達の日常に溶け込んでいる。
だから、勝手に莉音が家に入ってきてもお母さんは何も言わないし、普通に自分の子供が帰ってきたみたいに接する。
「はぁ…もう少し寝たかったのに…」
「小春昨日何時に寝たの?」
「10時半」
「もう十分寝たでしょ。何時間寝る気?」
「いいじゃん日曜日なんだから」
強引に莉音に起こされ、シリアルを朝ごはんに食べていると莉音が卵焼きを作ってくれた。
ありがとう、と一言伝えると塩気の強い卵焼きを食べて、着替えに行く。
「…なんでついてくるの?」
「暇だから」
「どうせ私の着替えが見たいだけでしょ…どの道こんな狭いアパートじゃ着替える場所なんて限られてるんだから、わざわざついてこなくていいじゃん」
「わかってないなぁ…ついて行って覗くことに意味があるの」
「わかんないね。全然」
私に付き纏って着替えの邪魔をしてくる莉音。
イライラしながら服を着替えていると、後ろから荒い鼻息が聞こえて何事かと思ったら、私のパジャマをクンカクンカしてた。
思いっきり頬を引っ叩いてパジャマを奪い取ると、速攻で着替えて速攻で昨日の服と一緒に洗濯機にぶち込んだ。
「もう…そんな本気でビンタしなくていいじゃん…」
「どうせ治せるんだからいいでしょ。愛情表現だよ、愛情表現」
「DVだ〜」
「うっさい」
赤くなった頬を法術で回復しながら抗議してくる莉音をあしらう。
そして、身支度と出発の準備を始めた。
「今日は何処まで進む予定?」
「三番街は最低ライン。行けたら四番街…五番街まで行って武器防具取りたいくらいかな?」
「ふぅ〜ん…」
「あと、スケルトンの魔石も換金しないとね」
「あんなゴミ売れるかな…」
「使い道は色々あるし、売れなくはないよ」
たった1円でしか売れないスケルトンの魔石も、使い道は沢山あるらしい。
私の知る限りだと、懐中電灯の電池の材料に使うってのを知ってる。
…まあ、魔力で動いてるから『電灯』じゃないし、魔石を加工してそのまま入れてるから『電池』でも無いんだけどさ?
「とりあえず、はじめに換金だけしていこうか」
「学生証あったほうがいい?」
「どっちでもいいかな…別に使わないし、こんな魔石『学生応援で高く買い取って』って言ってもたかがしてれるし」
「それもそっか…」
今の日本は金持ちかそうじゃないかの二極化が激しい国だ。
経営者側で、会社の重役とかのポジションに居るから金持ちって言う人も居るけれど、ほとんどは冒険者として成功してるから金持ちって人。
そうじゃない人は、ダンジョンに言って痛い目を見るのが嫌な臆病者の労働者。
私も莉音も親が労働者…そうじゃない側の人間。
そう言う人たちを支援する制度の一つが学生冒険者の魔石買い取り額をあげるもの。
確か5%くらい高く買ってくれるらしい。
…まあ、スケルトンの魔石を売る分にはたかが知れてる。
「出来ればこの学生応援が受けられる間に多くお金を稼げるようになりたい…」
「莉音は家族が多いもんね…何人兄弟だっけ?」
「両親が同じなのは4人兄妹。父親だけ同じだと16人だね」
「…よく生活できてるよね」
「冒険者の税金で生かされてる人間だよ、私は…」
莉音はとにかく兄妹が多い。
その理由は重婚制度があるから。
男女比が完全に壊れている日本では、少しでも男子を増やしたい政府の思惑によって、男性のほとんどは重婚を強いられている。
その上1人の女性につき最低でも2人は子どもを産ませなきゃいけないと言うトンデモ法律まである影響で、莉音みたいな兄妹がびっくりするほど多い家系は割とある。
しかしそれでも男女比は回復しない。
増えたらその分サキュバスに狙われやすくなるからね…
「父親からの仕送りとかあるの?」
「無いに等しいよあんなの。仮に月収が40万だったとして、私のお父さんは3人のお嫁さんがいるんだよ?」
「単純計算で1人10万か……月10万はかなりキツくない?」
「補助金が無いとムリ」
今の日本の問題は沢山あるけど…その中でもこれは結構深刻な方。
男性は日本人保護の為に特別な保護区に住むことが義務付けられている。
だからダンジョンには行けない。
となると、労働者になる事を強制される。
稼ぎ頭になるはずの父親が大して稼げなくて…それでいて子供は十数人いる。
母親は沢山の子供の育児に追われて働くなんて到底ムリだし、冒険者になるなんてもっての外。
冒険者から税金をふんだくっても、そのほとんどを補助金に使う事になると言う状況になり、莉音みたいな家系の子は『冒険者に生かされてる』って呼ばれる事もあるんだよね。
「その点小春は恵まれてるよ。兄弟が無駄に多くないから楽そうで」
「文句はいっぱいあるけど、莉音も苦労してるから言えない……まあ、それとこれとは別」
「痛っ!?」
ノンデリ発言で私の心を傷つけた莉音の背中を叩く。
苦しいのは一緒だ。
…だから、私達は冒険者になって大金持ちになりたい。
私達の子供には、同じ思いをさせないために…
「さて、じゃあまずは換金だね」
「ストレージから出すのめんどくさくない?」
「まあね…そこは我慢だよ」
ダンジョンのロビーの前までやって来た私達は、隣にある換金所に入ってマシンの前に立つ。
そこで自分の冒険者カードをマシンに入れたあと、ストレージから魔石を取り出して入れていく。
一気にガバッと全部出すのもありだけど、それをすると周囲に散らばって他の人に迷惑なので出来ない。
先に迷惑にならない場所で取り出しておいて、袋か何かに詰めておくのが一般的らしいけど……やっておけばよかったと後悔。
ちまちまと換金を終わらせ儲けたのは100円ちょっと。
…まじで最初は稼げないね。
全然稼げない事に項垂れ、ストレスを発散すべくダンジョンへ。
一番街の骨は無視、二番街のゾンビも無視。
駆け足で三番街へ繋がる門に辿り着くと、ゾンビに襲われる前に門を開けて三番街へ突入した。
「……またゾンビ?」
「ただのゾンビじゃないよ。あいつらはフレッシュゾンビ。死んでからそんなに時間の経ってない新しいゾンビだから、さっきよりも強いよ」
「でも、新しいって事は爆発しないよね?」
「腐ってないからね。だから安心して倒せるよ」
「よし!ここでレベリングするよ!」
昨日みたいな爆発は起こらないと聞いて安心した私は、一気にフレッシュゾンビに近付いて何発も殴る。
少しゾンビよりも硬いような気もするけど…まあ誤差の範囲。
ゾンビ同様にすぐに倒せてしまった。
「三番街も大した事ないね。四番街はどうなの?」
「一応ここでレベル3になっておきたいかな?流石にちょっと不安だし」
流石に四番街は今レベルじゃ厳しいみたい。
四番街でも私達の力が通用するように、ひたすらゾンビを殴り倒して経験値を稼ぐ。
休憩も挟みながらゾンビを倒すこと1時間。
ついにレベルが上がり、私はその事に思わず飛び跳ねて喜びそうになったけど、莉音の前なので自重。
さも当然だよみたいな顔をして、莉音のレベルを上げるのにも付き合い、四番街へ向う。
これまでと同じように門を開けると……
「なにあれ…」
これまでとは違う…異様な光景が広がっていた。
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